【決算期にできる節税】「前受金」の計上で節税!売上の計上時期をチェック

企業において、決算はひとつの節目です。経理業務という観点から見ると、決算を締める前には、売上・仕入・経費に漏れはないか、金額の誤りはないかなど、重要度に応じて時間をかけて確認を進めていきます。
とくに、税金の算定は確定した決算を基に行われるため、数字を固める作業は非常に重要です。そういった決算前のチェック作業において節税につながるものとして、「前受金」を確認してみましょう。
目次
売上計上の基本的なルール
いつ売上を計上するのかというのは、会計処理を行う上で、非常に重要なポイントです。
では、売上計上のタイミングを理解するためのポイントとして、商品の受渡しと金銭の受渡しに注目し、具体的な取引を考えてみましょう。
たとえば、小売業のようにその場で顧客に商品を販売するような業態であれば、販売時に商品の受渡しと金銭の受渡しが行われます。商品だけではなく、サービスを提供する業態でも同様です。たとえば、美容院のように一般消費者向けで、その場ですぐにサービスを提供する場合、サービスの提供と金銭の受渡しが同じようなタイミングで行われます。
一方、同じ飲食物を取り扱っていても、飲食店向けの卸売業のような業態では、商品は毎日届けるものの、金銭の受渡しは月末にまとめて行うことが多くなります。また、一般消費者が顧客となるECなどの通信販売などでは、まず注文・金銭の受渡しの処理をし、あとから商品を発送するということが多いでしょう。
このように、実務では商品と金銭の受け渡しだけを見ても、さまざまな取引形態がありますが、実は売上計上のタイミングという意味では、原則的なルールがあり、注目すべき点はひとつです。
それは、商品の引き渡しや、サービスの提供のタイミング。税務の原則としては、売上の計上時期は「商品の引き渡し」または「サービスの提供」をする日の属する事業年度となっているのです。
つまり、売上計上の時期を判断する際には、金銭の受渡しのタイミングは関係がなく、商品であれば引き渡しを行ったとき、サービスであれば実施した日が売上を計上する時期となるのです。
「前受金」チェックが節税に繋がるワケ
売上計上の原則を踏まえたうえで、決算前に節税につながるチェックポイントとして有効なものが「前受金」です。
前受金とは、商品やサービスの提供前に、代金の一部または全部を先に受け取った場合に使用する勘定科目です。すなわち、顧客からの注文・金銭を先にもらっているものの、商品の引き渡しまたはサービスの提供が来期になるものについて、当期に売上計上していないか、確認してみましょう。
たとえば、顧客からすでに注文代金をもらったが、期末時点では商品はまだ仕入業者に発注中であり、顧客には引き渡しが終わっていないものがあったとします。現場の処理としては、商品の引き渡しが完了しているかどうかに関わらず、現金をもらっているためルーチンワーク的に売上として処理してしまうことがあります。
しかしそれは本来、商品の引き渡しが終わった段階で売上に計上するべきもの。前金として受け取っている分については、決算前に売上から抜いて前受金として計上しなおす必要があります。
商品の引き渡しやサービスの提供よりも先に代金をもらったときは「前受金」として処理し、商品の引き渡しやサービスの提供が終わった段階で「売上」として計上するようにしましょう。
商品の引き渡しが終わっていないのに当期の売上として計上してしまうと、本来は翌期に課税されるべきものが、今期に課税されることとなり、納税のタイミングが早くなってしまいます。
決算期前に売上の内容を精査し、前受金として処理すべきものが売上に混ざっていないか、一度チェックしてみましょう。
キャッシュフローに与える影響
では、前受金の処理をすることで、どの程度の影響が出るのかを見ていきましょう。たとえば、3月決算の会社で、決算期前に200万円の案件を受注し、納期は6月末。決算期前に前金として100万円を受領した場合を考えます。
仮にこの200万円の内、前金部分の100万円を受領時に売上として処理すると、売上が計上されている一方で在庫が発注中ならば、原価としての費用は計上されておらず、売上に計上した100万円はそのまま利益に上乗せされることになります。
利益が上乗せされた決算書は、見栄えの良い数字に見えます。しかし実際は、費用と収益の計上のタイミングがずれているだけであり、上乗せされた利益に対して税額を算定することになります。
しかし、本来の会計処理に則って100万円を前受金として処理すると、利益額は適正な水準に修正されます。具体的には、実効税率を33.6%と仮定すると、100万円 × 33.6% =33.6万円税額が圧縮されることに。
また、キャッシュフローの観点からすると、より大きな意味があります。仮にこの案件について180万円の費用がかかるとすると、前金として100万円をもらっているので、案件の完了に要する費用として80万円をいったん自己資金から捻出する必要があります。
しかしながら、納品前に決算・納税を迎え、前金を売上として処理してしまっていると、実効税率を33.6%と仮定した場合、100万円×33.6%=33.6万円の税金の支払いが発生します。
案件単位で考えると、自己資金から捻出する部分はもともと80万円のみであったはずが、33.6万円の納税額が加わり、113.6万円の資金を用意しなければならなくなるのです。
しかも、この税金分の追加負担については、6月の納品後に顧客から残金の支払いを受けても解消せず、翌期の決算・納税のタイミングでようやく税額算定に費用が織り込まれ、解消することになります。
案件単位のキャッシュフローで見ると、翌期の納税まで、赤字状態が続くことになり、資金繰りにおいて大きなデメリットを抱えることになるのです。
おわりに
売上計上のみが先行し、費用が計上されていない状態で税金を計算することは、単純に支払額が増えるだけでなく、案件単体のキャッシュフローとして非常に不健全な状態を発生させることになります。
数字の精度を上げていくためには、前受金などを適正に税務処理できているかなどのチェックを税理士に依頼するとよいでしょう。