石原慎太郎氏が突如ぶち上げた「銀行税」とは何だったのか 都知事時代の政策を振り返る - 税理士ドットコム

税理士の無料紹介サービス24時間受付

05075866271

  1. 税理士ドットコム
  2. 税金・お金
  3. 石原慎太郎氏が突如ぶち上げた「銀行税」とは何だったのか 都知事時代の政策を振り返る

石原慎太郎氏が突如ぶち上げた「銀行税」とは何だったのか 都知事時代の政策を振り返る

税金・お金

石原慎太郎氏が突如ぶち上げた「銀行税」とは何だったのか 都知事時代の政策を振り返る
石原慎太郎氏(2018年12月18日、弁護士ドットコム撮影)

元東京都知事の石原慎太郎氏が2月1日に亡くなりました。石原氏は、作家なので言葉に説得力があり、国民の心を掴むのがうまい政治家でした。また、既成概念やタブーにとらわれず、さまざまな障害を突破していく力がありました。時には、それが仇となり失敗することもありましたが、多くの功績を残したことは間違いありません。

石原氏が都知事時代に打ち出した政策の1つに「銀行税」とも言われた「外形標準課税」の導入があります。当時は、銀行はもちろん、国(当時の大蔵省)からも強い反発がありました。

しかし、それがきっかけとなって、国を動かし、2004(H16)年4月から全国一律で全業種を対象として、外形標準課税が導入されました。今では、すっかり定着した外形標準課税ですが、銀行税のどこが問題だったのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●不良債権処理でほとんど納税していなかった銀行に対して、突然の導入宣言

石原氏は、2000年2月に突如、「大手金融機関に5年間に限って、外形標準課税を導入する」と宣言しました。銀行だけを対象にしていたことから「銀行税」とも呼ばれました。

石原氏が都知事に就任するまで、東京都の財政は赤字続きで、安定的な税収を確保することが急務でした 。そこで目を付けたのが銀行です。バブル崩壊後、不良債権を抱えていた銀行は、十分な利益を上げていたにもかかわらず、不良債権処理という負の遺産によって、ほとんど納税をしていなかったからです。

石原氏は、銀行は行政サービスを受けていながら、行政サービスのコストを負担していないとして課税に踏み切ったわけです。国民の目から見ても、銀行員は高給取りで、自分達のミスで不良債権を作っておきながら公的資金が投入されるなど、不満がくすぶっていたこともあって国民の支持を得ました。

東京都で銀行税として導入された外形標準課税は、都内で事業を行う資金総額5兆円以上の銀行が対象で、業務粗利益を課税標準として、3%の税率で事業税を課すというものです。業務粗利益を課税標準とすることで、不良債権などの損金処理を考慮せずに課税することができるのがポイントです。

●銀行は裁判を起こして反撃「課税の公平に反する」、最終的に和解

狙い撃ちされた銀行側も黙ってはいませんでした。東京都を相手取り、条例は無効であるとして訴えを提起しました。

銀行側の主張は、当該条例は、銀行だけをターゲットにするもので、課税の公平に反し、憲法および地方税法に違反するというものです。また、当該条例は無効であるから、申告納付した金額については、還付加算金を付した上で還付すべきであるとの請求をしています。その他、租税債務不存在確認、更正処分及び決定処分の差し止めを求める請求、国家賠償もしています。

条例が無効かどうかの点について、第一審の東京地裁は、本件条例は、地方税法72条の19に違反し無効であると判示しました。また、控訴審の東京高裁は、本件条例は、地方税法72条の22第9項の均衡要件に適合せず無効であると判示しています。

東京都は上告しましたが、税率を3%から0.9%に遡って引き下げ、既に納付された税金の差額に対して還付加算金を付けて返還する和解案を示しました。それを受けて、銀行側も和解案を受け入れ、双方が訴えを取り下げ、訴訟費用は各自が負担するということで和解が成立しました。

●課税の背景「企業規模が大きければ多くの行政サービスを受けている」

このように法廷闘争まで発展した外形標準課税(銀行税)ですが、外形標準課税とはどのようなものなのでしょうか。

外形標準課税とは、資本金、売上金額、家屋の床面積、従業員数などの外形の基準によって課税するという制度です。所得を基準とする税金の場合、赤字の企業は原則として納税をする必要がありません。しかし、赤字企業であっても、インフラをはじめ様々な行政サービスを受けているのだから、一切税金を支払わなくてよいというのは逆に不公平とも考えられます。そこで、企業の外形から課税の範囲を決めようというのが外形標準課税です。

なぜ外形で判断するかというと、企業規模が大きければ多くの行政サービスを受けていると考えられるからです。資本金の額や売上金額が大きいところは企業規模が大きいと推測されるし、オフィスの床面積が広く、従業員数が多いところも企業規模は大きいと言えます。そのような企業については、赤字でも一定の税金を課すべきというわけです。

企業規模が大きいからと言って、赤字の企業では税金を支払えないのではないかとの懸念がありますが、税金以外のコストは支払っているわけですから、税金だけ払わなくてもよいという理屈は通りません。

●国が導入した外形標準課税の仕組み

東京都の外形標準課税(銀行税)は、事実上銀行側に負けましたが、石原氏の主張には、多くの自治体から共感の声が挙がりました。それを受けて、国も外形標準課税の導入に舵を切りました。

総務省は全国的に外形標準課税を導入するべく、地方税法の改正案をまとめ、与党3党による2003(H15)年度の税制改正大綱で法人事業税へ外形標準課税方式の導入が決定しました。そして、2004(H16)年4月から外形標準課税が導入されました 。

現在の外形標準課税は、事業年度終了の日における資本金または出資の金額が1億円を超えている法人(公益法人等を除く)が対象となります。①所得割、②付加価値割、③資本割で構成されています。

所得割は、各事業年度の所得を基準に課税されるものです。付加価値割は、各事業年度の報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料の合計額と単年度損益を合算した額を基準に課税されます。資本割は、各事業年度の資本金等の額を基準に課税されます。

●石原氏は銀行を狙い撃ちにした方が「国民受けする」と考えたのかもしれない

外形標準課税は全国的に導入されることになったわけですが、当時の銀行税はどこが問題だったのでしょうか。

東京都と銀行側の裁判で、東京高裁は、外形標準課税自体は違法ではないとしつつ、均衡要件を満たしていない点を指摘し違法であると判断しています。つまり、東京都は、銀行だけに著しい税負担を課すものではないという点を十分に証明できなかったということです。

銀行だけに税を課すのであれば、銀行の意見も事前にしっかり聞いた上で、それでもなお税を課すべきなのかを説明できるようにしておくべきでした。銀行以外に利益を上げていながら税金を払っていない企業はないのか、銀行だけに課税することの合理性はどこにあるのかなどについて数字などを示しながら説明することが求められると思います。

もっとも、石原氏の頭の中には、銀行だけに的を絞った方が、「国民受けする」との政治的判断があったのかもしれません。外形標準課税は、赤字の企業にも税を課すものなので、「全事業者を対象とする外形標準課税の導入」を宣言していたら、逆に国民の反発を受けていた可能性もあるからです。

仮にそうだとするならば、裁判で負けても構わないから、国民の支持を得て、一石を投じることを選択したのかもしれません。結果的に外形標準課税は導入されたわけですから、石原氏の目的は達成したと言えます。石原氏が実際どこまで考えていたかは今となっては知り得ませんが、外形標準課税の扉を開けたということは間違いありません。その功績は大きいと言えます。

税金・お金の他のトピックスを見る

新着記事

もっと見る

会員登録でメルマガをお届け!

税務のお役立ち情報を
無料でお届けします

登録する

公式アカウント

その日配信した記事やおすすめなニュースなどを、ツイッターなどでつぶやきます。

協力税理士募集中!

税理士ドットコムはコンテンツの執筆・編集・監修・寄稿などにご協力いただける方を募集しています。

募集概要を見る

ライター募集中!

税理士ドットコムはライターを募集しています。

募集概要を見る

「税理士ドットコム」を名乗る業者にご注意ください!