【まとめ】給与計算の方法と業務の流れ
「給与」とは、事業者が従業員に対して支払う労働の対価です。支給する金額が間違っているとなると、従業員からの信頼度や社会的な信用に関わります。そのため、給与を計算する経理や人事担当者には正確な作業が求められます。
・給与計算とは?どうやってやるの?
・給与計算業務の流れって?
・給与計算業務を効率化するには?
このページでは、給与計算業務の流れと具体的な計算方法や業務効率化の方法までわかりやすく解説します。
目次
給与計算とは?
給与計算とは、被雇用者(従業員)の給与支給額を計算する業務のことです。
給与は雇用契約によって定められた金額を毎月支給するだけではなく、その雇用形態や月々の勤務状況、各種手当てや交通費などを加味し、さらに所得税などの税金や各種保険料などを控除して、実際の支給額を求めることが必要です。
また、給与計算を正確に行うためにも、従業員を雇用したときには税金や保険料に関する書類に記入・提出してもらう必要があります。
特に扶養親族の詳細を記入した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」や前職の「源泉徴収票」は、給与計算に影響がある書類なので、忘れずに提出してもらうようにしましょう。
給与計算業務の流れ
給与計算業務の一連の流れは、「基本情報整理 → 勤怠情報集計 → 給与計算 → 給与明細書の作成 → 社会保険料、源泉徴収税の納付」といった順に行います。
基本情報整理
はじめに、以下のような給与計算に必要な情報を確認・整理しておきます。
- 法改正
- 人事異動
- 昇給・降給
- 扶養家族の増減
- 氏名や振込先の変更
- 通勤手当など、各手当の変更
- 就業規則や給与規定の変更
法改正は頻繁に行われているため、確認を怠ると給与額に影響が出てしまう可能性があります。新しい制度のスタートや既存の制度の廃止などにすぐに対応できるように、改正後の内容をしっかりと把握しておくことが大切です。
勤怠情報集計
タイムカードや出勤簿などの情報をもとに、出勤日数や勤務時間の情報をまとめて集計します。ほかにも、時間外勤務や休日出勤の手当、歩合給がある場合はその算出も行います。
勤怠情報の集計は、給与計算の基盤となる部分なので、集計漏れがないように注意しましょう。
給与計算
勤怠データをもとに、総支給額と控除額を計算し差引支給額を算出します。
詳しい計算方法は後述しますが、総支給額、控除額ともにミスのない計算が求められる重要な部分です。特に控除額に含まれる税金や保険料は、計算ミスがあると訂正処理に手間がかかるので、注意しましょう。
計算は、自動計算できるようなエクセルや給与計算ソフトを用いて行うことで効率化できます。
給与明細書の作成
給与明細書とは、給与の内訳を記した書類のことで、勤怠情報や控除額などを細かく記入します。

所定のフォーマットがないため、テンプレートを使用したり、エクセルを使って作成しましょう。給与明細書の作成には一連の流れがありますが、手順通りに作成していけば難しくはありません。
社会保険料、源泉徴収税の納付
従業員に給与を支払った後に、給与から天引きした社会保険料と、源泉徴収した所得税および住民税を期限内に納付します。
社会保険料は「翌月徴収・翌月納付」が原則となっていて、たとえば5月分の保険料は翌月の6月の給与から徴収し、6月末に納付します。
源泉徴収税と住民税の納付期限は「給与を支払った月の翌月10日まで」となっています。納付には所定の書類を使用します。必要事項を記入して、管轄の税務署か金融機関で納付しましょう。
なお源泉徴収税には「納期の特例」があり、給与の支給人員が常時10人以内の場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申込書」を税務署へ提出すると、納付を年2回にすることができます。
給与計算の方法
給与計算の詳しい方法を、「総支給額」「社会保険料」「所得税・住民税」「差引支給額」に分けて解説していきます。
総支給額の計算
総支給額は「固定給与」と「変動給与」の合計額です。
固定給与とは、基本給や役職手当など、毎月の支給額が一定の給与のことです。一方で変動給与とは、残業手当や深夜手当など、月ごとの支給額が変動する給与のことで、出来高給やインセンティブといった給与も変動給与に含まれます。
基本給や職務手当などの固定給与は、就業規則や雇用契約書で金額が定められているため、その都度計算する必要はありません。残業代や深夜手当などの変動給与のみを算出していきます。
時間外労働の支給額は、以下の計算式によって求めることができます。
時間外労働の時間数 × 1時間あたりの賃金(※1) ×1.25(割増率)(※2)
算出した変動給与額に固定給与額を足した金額が、給与の総支給額となります。
※1 1時間あたりの賃金
月給 ÷ 1か月あたりの平均所定労働時間
月給は、基本給に役職手当や資格手当などの諸手当を合計した金額です。ただし、労働と関係の薄い手当については含めないことになっています。
【月給に含めないもの】家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超えるごとに支払われる賃金(賞与等)
「1か月あたりの平均所定労働時間」は以下の計算式で算出します。
{ (365日 – 年間所定休日数) × 1日の所定労働時間数 } ÷ 12か月
※2 割増率
- 法定時間外労働…25%以上
- 深夜労働(22時から翌5時までの労働)…25%以上
- 休日労働…35%以上
法定労働時間は、1日8時間・週40時間と定められており、超過した部分は法定時間外労働として割増されます。休日労働は、法定休日に労働した場合が対象となります。法定休日以外の休日に働いた場合は法定時間外労働に該当するため、割増率は25%となります。企業により割増率が上回る場合があるので、給与規定で確認しましょう。
社会保険料の計算
社会保険料は加入しているものによって異なりますが、基本的には健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料が対象となります。
健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料
健康保険料と厚生年金保険料は、事業主と従業員で折半して負担することになっているので、給与から徴収する保険料は、以下の計算式で求めます。
標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2
標準報酬月額とは「4月〜6月の3か月間の1か月あたりの平均収入」のことです。これには基本給のほか、残業手当や家族手当、通勤手当といった諸手当も含まれます。
健康保険は加入する組合ごとに保険料率が定められていて、全国健康保険協会(東京支部)の場合は9.90%となります。40歳以上の場合は「介護保険第2号被保険者」となるため、11.63%です。
厚生年金保険は全国一律で18.3%の保険料率です。
雇用保険料
雇用保険料も事業主と従業員がそれぞれ負担します。賃金に保険料率を乗じて求めますが、保険料率は「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」でそれぞれ異なり、年度ごとに更新されます。
一般の事業では、給与から徴収する従業員負担分の保険料は、以下のように計算します。
賃金 × 3/1000
(一般の事業・2019年度の雇用保険料率)
ここでいう賃金とは、源泉徴収税や社会保険料を控除する前の総賃金額のことで、基本給のほか、残業手当や家族手当、住宅手当なども含みます。
所得税・住民税の計算
給与から徴収する所得税と住民税の計算をします。
所得税
源泉徴収税額は、支給額から通勤手当と社会保険料の合計額を差し引いた金額をもとに算出します。
支給額(基本給+残業代+課税対象の手当)– 通勤手当 – 社会保険料の合計額
支給額に含まれるものは、基本給と残業代、課税対象となる手当です。
上記の式で算出した金額を、下記の「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめて求めます。なお「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している従業員は「甲」欄を、提出していない場合は「乙」欄を参照します。

この税額表は毎年1月に改訂されるので、1月分を源泉徴収する際には注意しましょう。
住民税
毎年5月ごろに市区町村から送られてくる「住民税課税決定通知書」に従業員の住民税額が記されているため、特に計算は必要ありません。通知された金額を給与から差し引いて、翌月の10日までに納付しましょう。
なお、事業主が従業員の給与から差し引いて納める義務があるのは、特別徴収の住民税のみです。普通徴収の住民税は、従業員が自ら納める必要があります。
差引支給額の計算
最終的に従業員に支給される差引支給額は、以下の式で算出します。
総支給額 – 控除額
控除額は、住民税と所得税、健康保険などの社会保険料の合計額です。企業によっては、社員寮や社員食堂の利用料なども控除されることがあります。
給与計算業務の効率化
給与計算業務は専門性が求められ、計算する箇所も多いことから、慣れていないと多くの時間と手間がかかってしまいます。そこで、給与計算の効率化をはかるための手段として、給与ソフトの活用や、給与計算業務を外部に委託するという方法があります。
給与計算ソフトを活用する
小規模の事業所など、担当者が自分で行う場合には給与計算ソフトを活用して、給与計算業務を効率化することができます。給与計算ソフトにも幅広い種類があるため、それぞれの特徴や料金、導入コストなどをふまえて、適切な給与計算ソフトを活用しましょう。
代行(アウトソーシング)業者へ依頼する
給与計算を代行してくれる業者もあります。外部に委託することで、給与計算業務にかかる人件費や時間のコストを削減できる可能性もあります。とにかく給与計算業務のみを依頼したい場合には、専門業者にお願いするとよいでしょう。
税理士に依頼する
税理士に給与計算を委託した場合は、税理士の独占業務である年末調整も任せられるというメリットもあります。計算ミスの心配がないことに加え、法改正への対応も迅速に行っているため、最新の法令に対応した計算を行うことができます。
顧問税理士をつけている場合は、業務の一環として、低価格または無料で給与計算を請け負ってもらえる場合もあるので、相談をしてみるとよいでしょう。