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「関税」のしくみを税理士が解説。トランプ関税が世界にもたらす影響とは

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「関税」のしくみを税理士が解説。トランプ関税が世界にもたらす影響とは
Ystudio / PIXTA

4月9日にトランプ大統領が発動した「相互関税」。貿易赤字の大きい国・地域を対象にしたこの政策は、世界経済に波紋を広げている。

その後一転して、上乗せ関税の発動を一時停止したが、それでもなお関税の影響が今後、日本および世界経済にいつ、どのように表れるかは不透明だ。

相互関税とは、自国の関税負担が相手国と同じ水準になるように調整する制度のことだ。たとえば、A国がアメリカから牛肉を輸入する際に、A国側で20%の関税をかけていたとする。これに対し、アメリカもA国からの輸入牛肉に20%の関税を課すことで、両国の関税負担を対等にするというものだ。

なお、これだけ話題になっているにもかかわらず、私たちの普段の生活では関税を意識する機会はあまりない。そのため、「関税ってそもそもどういうしくみなの?」と疑問に思っている人も多いのではないだろうか。

そこで、関税の基本的なしくみや相互関税がもたらす影響について、柴田篤税理士に聞いた。

●関税とはどんな税金?基本を詳しく解説

ーーそもそも「関税」とはどんな税金なのでしょうか?関税の主な目的をお教えください。

「関税は、有体物を対象に、輸入貨物の価格または数量を課税標準として課されます。ほとんどが価格を課税標準(従価税)とし、輸入価額の何%と課税されます。法律で、有体物の種類毎に関税番号と税率が決められています。

会計帳簿がきちんとしていなかった昔は、税関のような一定の場所で税を捕捉するのが効率的でした。その後、会計帳簿制度が普及し、主な税金は所得税や法人税・消費税に移りました。

関税の主な目的は、『税金としての側面』と、『国内産業をコントロールする通商法の側面』の2つです。

先の世界大戦の原因である、関税引き上げと経済ブロック化を反省し、戦後GATT(関税及び貿易に関する一般協定)が成立しました。関税を低減し、貿易障壁を減らすことで、世界経済の発展を目指しました。

ただしGATTは例外も認めています。開発途上国の低税率または無税(特恵関税)や、FTA(自由貿易協定)を経過措置とし、貿易制限的な措置を一定期間内に削減・撤廃します。

その後GATTはWTOに引き継がれ、国際通商取引の新しい秩序を目指しましたが、現在とん挫しています。

それは、アメリカの非協力により、WTO紛争解決機関の機能停止、先進国と発展途上国の対立、中国の台頭、進展するIT・情報産業・知的財産権・AI等の貿易問題に対処できないことが原因です。

そして、新しい分野の国際通商取引に対する課税問題は、関税以外の国際租税法で議論されています。」

●多国籍企業は関税法体系を合理的に解釈し、評価額を合法的に下げている

「関税を決める要素は、輸入時の(1)評価額(=公正なる第三者価格)(2)原産地(3)関税番号・税率の3つです。

多国籍企業や関税のコンサルタントは、関税法体系を合理的に解釈し、評価額を合法的に下げ、特恵関税やFTAを利用した低減関税率の原産地認定を獲得します。

そして有利な原産地による有利な関税番号・税率の獲得を目指してきました。逆に言えば輸入国は、そのような行為を苦々しく思っています。」

●高くなった関税分は商品価格に転嫁され、消費者負担が増すことに

ーー関税は誰が、どこに対して支払うものなのでしょうか。

「関税は一旦は輸入者が、輸入国の税関に支払いますが、最終的には消費者が負担することを予定している『間接税』です。税金の支払者と負担者が同一である所得税等の直接税とは異なります。

今、アメリカの貿易会社で販売価格100のものを輸入すると、経費・通常の手数料または利潤等があるので、約40〜50%くらいで輸入しないと、採算ラインに乗ってきません。

40で輸入するものに関税が50%課税されると、輸入価格は関税で20上乗せされて、仕入原価は60になります。企業の営業利益は10%程度ですので、10の営業利益からアップした20を差し引くとマイナス10になり、企業の存在が危ぶまれてしまいます。

そのため、このアップ分20は最終消費者に転嫁されることになり、インフレ率は20%になります。」

●アメリカがかつて行った高関税政策では世界恐慌が悪化

ーー関税率が高くなると、経済および消費者にはどのような影響があるのでしょうか。

「一国の経済は輸入品だけでないのですが、輸入品のインフレが進むと、その他の商品の価格にも影響を与え、インフレが進みます。

インフレが進むと、一国の生産活動・消費活動にブレーキがかかり、経済全体が落ち込み、失業者が増えます。またインフレを抑えるために、金利を上げると、利払いがかさみ国債の価格は下がり、国家の信用力が低下します。

アメリカは1929年の大恐慌後も、関税を平均40%前後に引き上げ、同様の事態を招きました。ドイツではナチスの台頭を許し、その後の世界大戦に突き進んでいきました。」

●歴史の教訓に照らせば、トランプ関税もどこかで折り合いをつけるのが現実的

ーー相互関税によって、アメリカの経済はよくなると思われますか。

「相互関税(Reciprocal Tariff)という概念は、GATT/WTOのルールにはなく、アメリカ大統領令で決めたものです(アメリカ司法のコントロールを受けるかどうかの議論は今なされています)。

トランプ関税は、GATT第21条の『安全保障のための例外:加盟国が国家の安全保障上の理由により、通常のGATTの義務から逸脱できる例外』と、米国通商拡大法232条の『特定の輸入品に対して貿易制限措置(関税の賦課や輸入制限)を課すことを可能にする法的根拠』を理由にしていると推測されます。

Reciprocal Tariffは、アメリカの税率であるGeneral Rateに上乗せされます。FTA税率にも上乗せされます。

1〜2年と短期的に、アメリカ国外の製造工程をアメリカ国内に移転できれば、有効かもしれません。しかしGATT/WTOルール下でのグローバル・サプライチェーンは、あまりにも複雑に入り組み、発展してきました。

アメリカの多国籍企業が、外国の生産工程を利用して成り立っているのも事実です。『持ちつ持たれつの経済』なのです。AI時代のアメリカの中間層が、製造という泥臭い労働に再び従事するかも疑問です。

トランプ関税がどこかで折り合いをつけて、各国と妥協しなければ、歴史の教訓は再び不況に向かうことを暗示していると思います。」

【取材協力税理士】
柴田 篤(しばた あつし)日本国税理士・米国税理士・貿易アドバイザー協会(AIBA)アドバイザー・保有資格(通関士)
日本水産(ニッスイ)・オランダの国際税務の国際機関IBFD・アンダーセン出身。現在欧州のVAT専門誌VAT Monitorの日本通信員。主に「貿易・会計税務ワンストップ・関税VAT移転価格・国際税務・金融税務」を扱う。ばんせい証券グループの持株会社ばんせいホールディングス社長兼任。
事務所名 :TradeTax国際税務・会計事務所
事務所URL:https://www.japan-jil.com/

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