JRの運賃値上げで社会保険料が上がる? なんでそんなことが起きるのか
税金・お金
JR東日本が2026年3月に実施した運賃値上げをめぐり、社会保険料の負担増大につながるとして、SNSで、「交通費は社会保険料の対象外にしろ」「サラリーマンは辛い」など悲嘆に暮れる声があがっている。
JR東日本は3月14日、民営化後初の値上げを実施して、平均7.1%(通勤定期は12.0%)の値上げとなった。この値上げにより、通勤手当の金額が上がり、社会保険料の算定対象となる報酬月額のアップにつながるという懸念が出ている。
国民民主党の深作ヘスス議員は、「(通勤手当が)手元に残るわけではないのに、出ていくお金だけが増えるということが起きようとしている」と3月12日の衆院予算委員会で懸念を表明している。
運賃値上げがなぜ社会保険料のアップにつながるのか。税金への影響はないのか。佐藤全弘税理士に聞いた。
●報酬の仕組みと保険料の計算方法
JR東日本の運賃値上げが、なぜ直接的に社会保険料の負担増につながるのか。その理由は、日本の社会保険制度における「報酬」の定義と、保険料の計算方法にあります。
主なポイントは以下の3点です。
1. 通勤手当は社会保険上の「報酬」に含まれる
所得税の計算では、通勤手当は一定額(月15万円)まで「非課税」として扱われるため、税金はかかりません。しかし、健康保険や厚生年金などの社会保険においては、通勤手当も「報酬」の一部とみなされます。
2.「標準報酬月額」のランク(等級)が上がる
社会保険料は、実際の給与額をそのまま使うのではなく、一定の幅で区切られた「標準報酬月額」という等級に基づいて算出されます。
通勤手当が増えることで、報酬の総額が現在の等級の範囲を超え、上の等級にシフトしてしまう場合があります。
等級が上がれば、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料のすべてが連動して増額されます。
3. 「随時改定」による即時の影響
通常、社会保険料は年に一度(算定基礎届)見直されますが、固定賃金(基本給や各種手当)に大きな変動があった場合は、年度の途中でも保険料が見直されます。これを「随時改定」と呼びます。
今回のJRの値上げにより通勤手当が大幅に上昇し、「固定賃金の変動」+「報酬の差が2等級以上」という条件を満たした場合、値上げから4ヶ月目には社会保険料が引き上げられることになります。
手取り額の影響をまとめると、
今回の運賃値上げは、単に「通勤費を会社が多めに払って終わり」という話ではありません。
<従業員側> 社会保険料の自己負担額が増えるため、結果として手取り額が減る可能性があります。
<会社側> 社会保険料は労使折半であるため、通勤手当の支出増に加え、法定福利費(社会保険料の会社負担分)のコスト増という二重の負担が生じることになります。
●具体的にいくらアップする? 試算してみた
具体的にいくらアップするのか、試算してみましょう。
例えば、報酬月額が289,500円だった人の通勤手当が1,000円アップして、290,500円になった時、健康保険料(協会けんぽ)と、厚生年金保険料はどれくらいアップするのでしょうか。
結論からいうと、この場合において、1,000円の差により上の等級にシフトするため社会保険料の合計(自己負担額)が月額2,838円から3,000円ほど増加する可能性があります。
したがって、通勤手当が1,000円増えたのに対し、社会保険料が2,838円増えるため、毎月の手取り額は1,838円減少する結果となります。さらに言えば、通勤手当が増えてもその分、交通費の支払に充てられるため、単なる手取りの減少となります。
● 税金の面での影響は?
税金の面でも影響はありますが、社会保険料とは概ね反対の結果となります。
理由は以下の2点です。
1.通勤手当は「非課税」の枠があるため
所得税法では月額15万円までは非課税であるため、ほとんどの会社員はこの枠内であれば影響はありません。
2.社会保険料が増えることで「所得控除」が増える
所得税や住民税は、給与から社会保険料を差し引いた後の金額に対して計算されるため、課税対象額が減少することで税金は安くなります。
最終的な手取り額として社会保険料と税金の合計でどうなるかというと、社会保険料が3,000円増えると、所得税と住民税の合計額が4~500円ほど安くなるくらいなので、やはり手取り額が減ってしまうこととなります。
【取材協力税理士】
佐藤 全弘(さとう・まさひろ)税理士
お客様の立場にたって、わかりやすい税金を目指すとともに付加価値の高いサービスを提供することをモットーに、お客様のニーズに応えられるパートナーを目指して活動している。
事務所名 : 佐藤全弘税理士事務所
事務所URL:https://satouzeirishi.com/














