顧問税理士のメリット - 必要性や依頼するときの注意点
(監修:港公認会計士・税理士事務所 井上大輔 税理士)
税理士との契約は、「顧問」か「スポット」かいずれかのパターンがあります。
顧問契約とは「継続した契約を税理士と結ぶこと」、スポットでの依頼は「確定申告や決算申告などの業務を単発で税理士に依頼すること」です。
顧問契約をした場合は担当の税理士を「顧問税理士」と呼び、税務の相談ができたり、申告業務を代行してもらえるなど、顧問税理士と契約することでさまざまなメリットがあるのです。
また、売上が一定の金額を超えたタイミングで顧問税理士をつけた方がよいと考えられます。そこでこのページでは、顧問税理士のメリットのほか、お願いすべきタイミングやその理由について詳しく解説します。
目次
税理士に依頼できる業務って?
税理士の業務は税理士法に定められており、以下3つは有償・無償にかかわらず税理士資格がないと行うことができない「独占業務」となっています。
1)税務代行(申告業務)
2)税務書類の作成
3)税務相談
具体的には、税務申告のほかにも年末調整の手続きや記帳代行、資金繰り支援などの業務をお願いすることができます。
これらの業務は、その都度依頼することもできますが、税理士と「顧問契約」をすることで継続的にサポートしてもらうことができます。
顧問税理士をつけるメリットは?
税理士と顧問契約を結ぶことで、得られるメリットは主に以下の7つがあります。
1)節税を効果的に行える
2)経理の作業負担・コストを抑えられる
3)資金調達で有利になる
4)税務調査に対応できる
5)税務相談ができる
6)正確な申告書が作成できる
7)他の士業とのネットワークが利用できる
1. 節税を効果的に行える
節税は誤った方法で行ってしまうと、脱税行為としてみなされる可能性もあります。その点、税理士のノウハウを頼りに正しい方法で節税を行うことで脱税行為を回避でき、効率のよい節税が期待できます。
ただし、節税を行うためには「決算対策」が重要で、決算期直前から対策を練ろうとしても難しく、期を通して早めに対策を実施する必要があります。
そのため、税理士が常に会社の利益状況を把握できる顧問契約の方が、スポット契約(その都度に依頼)よりも効果の高い節税が見込めます。
2. 経理の作業負担・コストを抑えられる
顧問税理士は、経理担当者が行う以下の業務を代行することができます。
- 記帳代行
毎月の伝票や領収書を税理士に渡すだけで、会計ソフトへの入力から試算表の作成を依頼者に代わって行います。 - 年末調整
年に1度行う年末調整の作成業務も、必要書類を渡せば所得税の計算などを税理士が代行して行います。 - 給与計算
毎月の勤怠データを税理士へ渡すだけで所得金額、源泉所得税、社会保険料等の計算を行います。
つまり、個人事業主や小規模事業者がこれらの作業を自身で行っていた場合には、経理に割いていた時間を本来の業務にあてることができるようになります。
また、顧問税理士に依頼することで経理担当者を雇う必要もなく、その分の人件費を削減することもできます。
3. 資金調達で有利になる
資金調達の方法は、金融機関からの融資や、補助金・助成金、ベンチャーキャピタルからの出資などがありますが、顧問税理士がいることで、どの資金調達の方法が最適なのかといった提案を受けることができます。
また、融資を受ける際には、決算書と法人税の確定申告書の控えを提出しますが、そこに顧問税理士の記名・印があることによって、金融機関の信頼度も高まります。
借入後も顧問税理士が継続的に経営や財務状況をチェックした上で、適切なタイミングで借り換えなどが行えるため、長期的に見て有利に融資を受けることが可能となります。
特に、「認定支援機関(経営革新等支援機関)」として登録されている税理士に経営相談することで、融資の際の保証料が減額される場合もあります。
4. 税務調査に対応できる
万が一税務調査の対象となった場合でも、顧問税理士がいれば事前通知の受領から日程調整、調査当日の税務調査官とのやりとりを代わりに行ってもらえます。
調査時に必要な書類の準備に関しても、税理士が対応してくれるため、時間的・心理的負担が軽減されます。
なお、顧問税理士が決算申告書に一定の書面を添付する「書面添付制度」を利用すれば、税務調査を行うような場合でも、先に税理士に意見聴取を行われ、調査自体が税理士への聞き取りのみで終了する可能性があります。
5. 税務相談ができる
前述の通り、税務相談ができるのは税理士資格を持つ者だけです。顧問税理士がいると、経営者が抱える税務の悩みや業務について、いつでも気軽に相談できるだけでなく、俯瞰的な視点で経営状況を把握した上で、適切な税務アドバイスを受けることができます。
日常の疑問レベルであれば、追加の支払いも必要ありません。また、税理士事務所に足を運ばなくても、電話やメール、税理士が会社へ訪問する形で対応してくれることもあります。
6. 正確な申告書が作成できる
税務申告に誤りがあると、後々加算税や延滞税といった追徴課税が発生します。これらは本来の税額に加算されて徴収されるもので、正しい税務申告をすれば回避することができます。
つまり、税理士に依頼することで、追徴課税などのペナルティを受けることのない、正しい税務申告が行えるようになります。
7. 他の士業とのネットワークが利用できる
事業を行っていると、さまざまな契約を結んだり、顧客や取引先とのトラブル、社内の労働問題など、司法書士や弁護士、社会保険労務士などの手を借りるケースが増えてきます。
顧問税理士はほかの士業の専門家とのネットワークを持っているため、必要に応じて適切な専門家を紹介してもらうことができます。
上記7つのメリット以外にも、経営コンサルティングをお願いできる場合もあります。すべての税理士が対応しているわけではありませんが、顧問契約を結ぶことで、経営上の悩みや課題について、財務的・経営的な観点で助言を受けられるというメリットもあります。
売上1000万円超なら顧問契約が必要?その3つの理由
法人の場合は設立時から税理士と顧問契約するケースが大半ですが、個人事業主が税理士と顧問契約が必要となるタイミングの目安としては、一般的に売上が年間1000万円を超えるあたりとされています。
理由としては、以下の3点があります。
1. 節税対策が必要になってくる
売上高が増えるほど、納める税金の額も増えていくので、効果的な節税対策が必要になってきます。
また個人事業主は法人化(法人成り)を考えた方が良い時期に差し掛かります。税理士は節税対策はもちろん、会社設立に関するアドバイスもしてくれます。
2. 消費税の課税事業者になる
売上高が1000万円を超えると課税事業者となる条件を満たし、消費税の納税が必要となります。これにより面倒な手続きや計算が増えるため、このタイミングで税理士に依頼するケースが多くなっています。
3. 経理や税務業務に時間を割けなくなる
売上が1000万円を超える事業規模になると、経理業務が煩雑になってきます。
必要経費が増えて未処理の領収書が溜まっていく、従業員を雇ったら給与計算や年末調整をしなければならなくなったなど、本来の業務とは関係ない作業に時間を割かなければいけなくなってしまいます。
こうした経理や税務関連の仕事を税理士に依頼することで、本業に集中でき売上をさらに伸ばすことも期待できます。
顧問税理士に依頼するときの注意点
税理士と顧問契約を結ぶ場合、月額の顧問料がかかります。これらは固定のコストになるため個人事業主や小規模事業者にとっては負担となってしまいます。
ただし、支払う顧問料以上の節税効果が見込めれば、トータルコストを抑えられる可能性が高くなります。
なお、日常的に税務相談や経理事務を依頼しない場合には、顧問契約を結ぶメリットがあまりありません。顧問契約をするのであればしっかりと税理士を活用し、顧問料の払い損とならないようにしましょう。
税理士と顧問契約したときの料金はいくら?
顧問料は売上や事業規模によって増減し、売上が増えるほど月額の顧問料も上がるのが一般的です。
また、依頼主が「個人事業主」か「法人」か、依頼する業務内容、訪問頻度に応じて金額は変動します。
個人事業主であれば、月額顧問料1万5000円~と決算料8万円~、法人であれば2万円~と決算料10万円が相場となります(売上1,000万円未満、訪問頻度3か月に1度の場合)。
法人の顧問料相場

個人事業主の顧問料相場

なお、税理士の顧問料についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
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※ショッパーズアイ調べ 2020年6月調査