元国税局職員の芸人による、タレントの税務調査体験談「東京進出してきた大阪芸人」

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元国税局職員の芸人による、タレントの税務調査体験談「東京進出してきた大阪芸人」

著者: 倉田 健一 芸人

元 国税局職員 さんきゅう倉田です。嫌いな女性のタイプは『滞納者』です。

ほとんどのお笑い芸人が、事務所から、給与ではなく報酬を受け取っていて、個人事業として確定申告をしています。ただ、所属事務所が確定申告のやり方と大切さを教えてくれることはなく、大学でも高校でも、義務教育でも方法と必要性は習得できません。

どうして誰も教えてくれないのでしょう。ここに、日本の「申告納税制度」に問題点があると思います。その分、ぼくにお鉢が回ってくるとも言えますが、兎にも角にも、芸人の税金リテラシーは低く、確定申告をしない者や等閑にやる者があとを絶ちません。

それでも、税務調査が行われる割合なんて、たかが知れていて、ほとんどの芸人が税務調査を受けることなく一生を終えるのです。しかし、テレビで頻繁に見かけるようになり、ある一定の収入を超えれば(その収入がいくらなのかは言及しませんが)、税務署はすぐにやってきます。そのスピードの早いこと早いこと。本気を出せば、はぐれメタルも逃さないでしょう。

そして、ここ数年でよく聞く税務調査のタイミングが、大阪で売れて、東京でも認知されて、いざ東京に引っ越して、確定申告書が東京の税務署に移されたときなのです。今回は、大阪から来た芸人に、どのように税務調査が行われ、どの様な結果になったかを解説したいと思います。

税務調査は突然に

東京に進出し1年。仕事も順調で、後輩を連れて毎晩飲みに行き、休日には原宿や表参道で服を買っていました。全て経費で落ちると聞いていたので、ちゃんと領収証をもらい、100円均一で買ったゴミ箱にためて保管しています。

大阪でもこの方法で領収証を保管していましたが、税務調査のぜの字もなかったので、東京に引っ越すときに破棄してしまいました。

これが、のちのちとんでもない事態を招くなんて…。

そんなある日、「03」で始まる見知らぬ番号から電話がありました。何度か無視をしましたが、数日に渡って着信があったので応答することに。「わたくし、世田谷税務署の○○と申しますが…」税務調査の連絡でした。

通常、税務調査の連絡は税理士に行います。ただ、税理士と顧問契約を結んでいなかった場合は、納税者に直接連絡があります。電話では、税務調査を行いたいことが伝えられ、調査日のすり合わせを行います。どんなに「忙しい」と言っても、税務署は逃しません。

「1日1時間で何日かに分けてもいいですから」と通常ではありえないような日程を組んできます。

今回の場合は、1ヶ月後の月曜日に半日の調査を行うこととなりました。法人の税務調査と比べると圧倒的に時間が短いですが、収入が所属事務所とほんのちょっぴりの闇営業で、経費の種類も限られたシンプルなもののみであると考えてのことでしょう。

1ヶ月間、現場で会う先輩全員に、税務調査の経験を聞いて回ったそうです。

その調査官、凶暴につき

初めての税務調査に、前日は緊張して眠れなかったそうです。目覚めたのは、調査の10分前。なんの準備もできないまま、約束の時間を5分ほど過ぎて、40代前半の男がやってきました。男は、ズワイガニの裏側みたいな顔をしていて、全く笑顔を見せなかったそうです。

丁寧な挨拶と、質問検査章を提示し、名刺を渡して、ニュースや季節の話になりました。そのまま、芸人としての活動を聞かれたり、「娘がファンです」とヨイショされたりして、饒舌になって話していると、ズワイガニの目が急に鋭くなって「では、領収証を見せてもらいましょうか」と、調査が始まったのでした。

しかし、領収証は1年分しかありません。大阪に来るときに捨ててしまったと正直に言うと、「そうですか、それでは経費として認めるのは難しいですね」と厳しい対応でした。

調査は5年分行うといいます。大阪にいた4年分の経費が全て認められないとなると納税額はいくらくらいになるのか確認すると、所得税が400万円、加算税が140万円、住民税が200万円、延滞税も合わせて800万円を超えるとのことでした。

そんな金額、払えるわけがありません。無理だと伝えても、取り付く島もないズワイガニは、2時間ほどで帰っていきました。

税法の異常な愛情

調査の結果に絶望し、金策に走りました。マネージャーに事情を話し、所属事務所から金を借り、実家の親にも連絡しました。預金は200万円ほどありましたが、それを合わせても800万円に届くわけもありません。

頭を抱え、仕事も手につかず、収録でミスをして相方に責められることもあったそうです。そんな中、ズワイガニから電話がありました。スワイガニの話は、その芸人にとって光明でした。なんと、領収証がなくとも、経費の一部が認められるそうなのです。

所得税法156条には次のように書かれています。

(前略)その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる。

つまり、他の芸人の経費の金額や東京に来てから保管していた領収証の金額から、なんとなくの経費を計算して、認めてくれるのです。

結果、200万円ほどの追徴税額になり、預金を使って納めて税務調査を終えました。800万円から200万円に下がって良かった、安く済んだ、と喜びあちらこちらで吹聴していたのがぼくのところまで届きました。

しかし、はじめに提示した800万円はズワイガニのブラフで、税理士もおらず知識の乏しい芸人は、一杯食わされたのだと思います。

納税者にとっての税理士は、ぬーべーにとっての鬼の手です。支払った顧問料より、効果が高い場合もあります。ケチらず、鬼の手を装備して、調査に備えましょう。

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