アサヒGHDやイオンも…決算発表遅延の裏側。知っておきたい決算発表・公告遅れのペナルティを税理士が解説
決算申告
アサヒグループホールディングス(GHD)は2025年10月14日、2025年12月期第3四半期決算発表を延期すると発表した。
アサヒGHDは9月29日にランサムウェアによる攻撃を受けたことで、大規模なシステム障害が発生。経理関連データへのアクセス障害などによって、決算手続きに遅延が生じている。サイバー攻撃が原因で上場企業が決算延期に追い込まれるという異例の事態だ。
アサヒGHD以外でも、今年に入り、工業用ガス大手のエア・ウォーターや、大手流通グループのイオンが、会計処理上の問題等を理由に決算発表の延期を行うなどしている。
上場企業に関わらず、決算発表が遅れるというケースは起こりうるものだが、株主やステークホルダーの信頼に悪影響を与える可能性がある。そこで今回は、決算発表の遅れに関して、どのような手続きやペナルティがあるのかを、浅井匠也税理士に聞いた。
●決算発表・公告が遅れる場合、上場・非上場では手続きが異なる
ーー上場・非上場企業を問わず、決算発表や決算公告が遅れる場合、どのような手続きや届出が必要になるのでしょうか?
上場企業と非上場企業では、必要な手続きが異なります。
上場企業の場合は、決算短信の公表(決算発表)が遅延する見込みがある場合、その旨を速やかに適時開示する必要があります。また、半期報告書・有価証券報告書の提出期限に間に合わない見込みの場合には、財務局へ「提出期限延長に係る承認申請書」を提出し、承認を得なければなりません。
非上場企業の場合、決算公告自体には「〇日以内」という明確な法定期限は設けられていません。しかし、株主や債権者への決算内容の周知は会社法上の義務であり、遅延した場合でも可能な限り速やかに公告することが求められます。
なお、銀行など特定の業種については、業法で公告や事業報告の期限が別途定められている場合があります。該当する可能性がある場合は自社の業法を確認する必要があります。
加えて、税務面では法人税の申告期限に間に合わない可能性がある場合、状況に応じて申告期限の延長申請を行う必要があります。
●有価証券報告書等の提出が期限内にされない場合、上場廃止となるケースも
ーー決算発表や決算公告が遅れた場合、なにかペナルティなどはあるのでしょうか。
決算短信は法定開示ではないため、直接的な法的制裁(罰金等)はありません。ただし、投資家からの信頼低下や株価への悪影響といった、市場での評価に影響を及ぼす可能性があります。
有価証券報告書や半期報告書の提出遅延については、金融商品取引法に基づき、行政上の過料や課徴金の対象となります。さらに重大なのは、提出期限から1か月経過しても提出されない場合、上場廃止が確定してしまう点です※。
※有価証券報告書等の提出期限延長の承認を得た場合には、当該承認を得た期間の経過後8日目(休業日を除外する)までに提出しない場合
決算公告に関しては、会社法上、過料の処罰規定が存在しますが、実際に過料が科されるケースは多くありません。ただし、法的義務であることに変わりはないため、遅延は避けるべきです。
●社外ステークホルダーに対し、早い段階での状況報告が必要
ーー企業の担当者に向けて、決算発表・決算公告が遅れそうな状況になった際のアドバイスをいただければ幸いです。
遅延が見込まれる状況では、スピード感を持って行動することが何より重要です。
まず、適時開示ルールや法定の要件を確認し、必要な届出書類や手続きを明確にしてください。その上で、経理部門・法務部門・IR部門など、社内の関連部署と早期に情報共有し、連携体制を整えることが不可欠です。
同時に、監査法人、証券取引所、監督官庁といった社外のステークホルダーに対しても、できるだけ早い段階で状況を報告し、相談することをおすすめします。特に上場企業の場合、適時開示や承認申請には一定の手続きと時間を要するため、後手に回ると取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
遅延リスクを察知した時点で、「すぐに行動に移すこと」が極めて重要です。
【取材協力税理士】
浅井 匠也(あさい・たくや)税理士・公認会計士
監査法人で会計監査・IPO支援、コンサル会社では決算・財務アドバイザリーに携わり、2019年に浅井匠也税理士公認会計士事務所を開業。上場企業から中小企業や個人事業主まで、税務・会計・資産管理を幅広くサポート。自らも株式、不動産、仮想通貨といった複数の資産に投資しており、実体験をふまえたアドバイスが可能となっている。宅地建物取引士試験にも合格しており、不動産の売買や賃貸に伴う税務の相談にも対応している。
事務所名:浅井匠也税理士公認会計士事務所
事務所URL:https://biryani.jp/















