還付狙いで5年分の確定申告をしたら〜元国税芸人の税務調査体験談

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元国税局職員の芸人による、タレントの税務調査体験談「還付狙いで確定申告をしたら税務署に呼びつけられ・・・」

著者: 倉田 健一 芸人

元国税局職員さんきゅう倉田です。恋人との共通の趣味は『納税』です。

国内のほとんどの芸人が、個人事業者です。事務所に所属していても、給与所得者として、いわゆる世に言うところの「給料制」で賃金の支払いを受ける芸人はいません。

メディアでの露出が増え、年収が1,000万円を継続的に超えるようになると、自分を代表取締役にした法人を設立し、所属事務所からの収入を法人の収益にして、役員給与で賃金を受け取るようにします。そういった場合を除いて、多くの芸人が出来高払いの、個人事業者なのです。

個人事業者であれば、毎年確定申告をして税務調査を受けるリスクを負います。これまでも多くの芸人がひっそりとこっそりと税務調査を受けてきました。

今回は、まだメディアに出ることもなくアルバイトをして貴重な時間を浪費する芸人が、どのような流れで税務調査に至り、実施されたかをその結果とともに紹介します。

還付申告を知って確定申告をすることに

芸歴8年目のAさんは、確定申告をずっと怠っていました。確定申告の意味も知らず、その大切さや意義を義務教育で習得した経験もないので、存在すら曖昧なものでした。

消費者金融から借金のあったAさんは、所属するお笑い事務所の同期から、「確定申告をするとお金が返ってくる」と聞いて、確定申告に手を出しました。といっても、所属事務所からの報酬はほとんどなく、居酒屋のアルバイトで食いつないでいますので、給与所得と事業所得の赤字を損益通算することになります。

さんきゅう倉田による用語解説

  • 給与所得:会社員やパート・アルバイトの収入から給与所得控除を引いたもの
  • 事業所得:個人事業の収入から経費を引いたもの
  • 損益通算:黒字と赤字を相殺すること

過去5年分を遡って確定申告を提出すると・・・

確定申告は過去5年までしか遡ってできませんので、Aさんは5年分、損益通算を利用して還付の申告をしました。それも、確定申告期間ではなく、税務署の業務が落ち着いてくる6月頃に申告されたそうです。

所属事務所からの報酬はありませんが、毎月、ライブや打ち合わせがあるので、その交通費や衣装代、接待交際費を計上したので事業所得は赤字になり、アルバイトの給料から源泉徴収された源泉所得税を還付するという申告内容でした。

報酬がないので、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」は提出せず、アルバイト先から交付された「源泉徴収票」と年金の控除証明書を確定申告書とともに提出しました。

郵送で提出し、封筒に入れておいた返信用封筒で控えが戻ってきたのが一週間後。これですべての手続が終わり、あとは還付を待つだけだとAさんは安堵していました。しかし、1ヶ月ほどすると、税務署から電話があったのです。「確認をしたいことがあるので、領収証と帳簿を持って税務署に来てください」とのこと。

税務署でのやりとり

Aさんは、戦々恐々としました。実は、芸人を始めてから領収証を保管したことはなく、当然、帳簿の作成も行っていませんでした。そもそも、「帳簿」がなんのことかも分かりません。ゆえに、確定申告書も、インターネットで書き方を調べて、源泉所得税が還付になるように適当に記入していたのです。

税務署の職員がそれに気づいたのか気づいていないのかは分かりませんが、芸人というおおよそまともな人間が就かないであろう職業の人が、5年分まとめて還付の申告をすれば、怪しいと感じるのでしょう。

わざわざ、Aさんの自宅に行って半日使って税務調査をするほどではないが、税務署に呼びつけてちょっと話を聞けば、すぐにボロが出ると踏んだのではないでしょうか。

後日、Aさんは何も持たずに税務署に行き、大学を出たばかりの若い職員に衝立のあるブースに通され、非常に申し訳無さそうに還付はできないことを告げられました。

若い職員は、Aさんには理解できない用語や論理で丁寧に説明してくれているようでしたが、そんなことはAさんには関係ありません。還付になるのか、ならないのかが重要です。

若い職員は、還付にはならないので「修正申告書」を提出するように促しました。しかし、そこで諦めなかったAさんは、仕事に関する支払いがあったことを主張しました。

ライブに出ていたことはツイッターに載せており、なおかつ、所属事務所に確認してもらえれば事実だと分かる。交通費や衣装代は支払っているのは明確だから、その分は経費として認めてほしい。さらに、ライブに出演するために事務所に支払ったチケット代も毎月1万円ほどかかっている。事務所は領収証を出してくれないので、そもそも証拠資料はない。これも経費として認めてほしい。

主張の結果は・・・

そういった主張を続けたAさんは、税務署の職員を説得することに成功し、領収証はありませんが、推計で経費を認められたのです。こうしてAさんは、全額ではありませんが、源泉所得税の還付を受けることができました。

Aさんは、その翌年の申告分からは、仕事に関する支払いはすべて領収証を保管し、確定申告期間に管轄の税務署に行き、2時間並んで確定申告をするようになりました。確定申告の会場にいる職員はとてつもなく優しく、おおらかで、自分を呼びつけた若い職員よりよっぽど融通を聞かせた申告にしてくれたそうです。

確定申告は溜めずに、毎年行う方が良いという例でした。

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