元国税局職員の芸人による税務調査体験談「史上最も早く不正を発見した話」

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元国税局職員の芸人による税務調査体験談「史上最も早く不正を発見した話」

著者: 倉田 健一 芸人

元国税局職員 さんきゅう倉田です。好きな帳簿は「裏帳簿」です。

税務調査で発覚する税務上の不正は、売上を除外するか架空の経費を計上するかのどちらかです。簿外の預金口座を作って取引先にはそこに入金してもらったり、取引先と共謀して架空の外注費を計上して実際に支払い、手数料を引いた金額をキックバックしたりするような方法があります。

売上の決済が現金の場合は、現金を社長のポッケに入れて、領収証控えさえ破棄してしまえば簡単に売上除外ができてしまいます。架空の経費も、領収証を友人からもらったり、存在しない人間の名義で請求書や領収書を作成したりすれば、簡単に行えます。

しかし、そんなものは、法令を守るという意識のかけらもない、いい加減で自分勝手な経営者が行うことで、そんな考え方ではやはりビジネスを成功させることは難しく、税務調査でそのような事例が発覚すると、資金力もなく、税金を滞納し、悪魔的に高額な利息を擁する延滞税によって、倒産に追い込まれてしまいます。

ビジネスを真剣に考え、事業が軌道に乗って従業員が増えてくると、安易な不正は行わなくなります。しかし、納税を忌避したい気持ちは、誰にでも生まれるもの。どうにかして、不正を行い、しかも、それを正規の帳簿とは別に正確に記録しようとするのです。

産廃業者への税務調査

今回の調査対象は、産業廃棄物処理業を行なう法人、A社です。主たる業務として、ゴミの定期回収を行なっています。

定期回収では、オフィスや店舗で発生するゴミを回収しています。繁華街を早い時間に歩いていると、毎日のように店舗の前にゴミが積まれているのを見かけませんか?行政が行っている燃えるゴミや燃えないゴミの回収では追いつかない場合、民間の業者にゴミの収集を依頼することになります。

A社も、自社で所有する車両で、契約しているオフィスビルや店舗に出向き、ゴミを回収していました。

回収した廃品にも資産価値があるのでは?

調査当日は、A社の本店所在地に朝9時に臨場しました。1時間ほど世間話をして、産業廃棄物業界の動向や処理方法の話を聞きます。回収しているゴミは、紙ゴミ、プラスチックゴミの他、木くずや食料品廃棄物、OA機器、家具、家電など、多種多様でした。

個人的な経験ですが、休日に自宅で過ごしていると、家具や家電の回収業者がやってきて、廃品として無料で回収してくれることがありました。つまり、古くなったそれらには資産的な価値があると推察されます。

調査対象者の回収している家具・家電の中にも、資産的価値があって、売却による収入がある可能性があります。

帳簿を確認する前に、何も知らないお馬鹿さんのふりをして聞いてみました。

「すべて」と「絶対」はありえない

「ぼくも、実家にいるとき、古くなったビデオデッキとか電子レンジとか、廃品回収のトラックに出したことがありますよー。ああいうのって、利益出るんです??」

「うちで回収しているものは、ほとんど価値のないものばかりなんで、値段はつかないんですよ。だから、すべて焼却処分してしまいます」

とのことでした。本当にそうでしょうか。少しでも利益が出る可能性があれば、売却するでしょうし、分解してレアメタルだけ収集することもできる。回収した家具・家電の100%を廃棄にするとは考えづらい。

税務調査に「すべて」とか「絶対」なんてありえない。怪しいな、午後からの帳簿調査は、この部分を重点的に調査しようか、などと考えていました。

総勘定元帳を見た社長の顔色が変わった

世間話や、概況の確認が一段落した頃「それでは帳簿を見せてください」と、社長にお願いしました。

社長はすぐに社員の経理担当者に「持ってきて」と言い、経理担当者は、隣の部屋から、タウンページほどの厚さの総勘定元帳を5年分持ってきてくれました。

総勘定元帳とは、すごく簡単に言うと「会社の家計簿」のようなものです。経理担当者が運んでいる途中で異変に気づいてはいたのですが、社長の様子を見ることにしました。

机の上に置かれた総勘定元帳の表紙を見た社長は「おい!」と大声を出して、総勘定元帳を持っていくように経理担当者に指示しました。

もちろん、それを見過ごすようなことはしません。ゆっくりとそれを制し、確認します。経理担当者の持ってきた総勘定元帳の表紙にははっきりと『裏』と書かれていました。

そして「史上最速」に不正は発覚した

それらはすべて「裏帳簿」だったのです。

経理担当者は正規の帳簿と裏帳簿を間違えて運んできてしまったのです。その裏帳簿には、簿外の売上である、回収した家具・家電の売却収入が記載されていました。

会社が大きくなると、売上を除外するだけでなく、不正によってどの程度の利益を得ているのか正しく把握しようとします。その金額を正しく把握することによって、社長の個人的な判断で、個人的に費消したり、蓄財に充てたりする金額を計算するからです。

今回は、そのことが仇となって、あっという間に不正を見つけられてしまいました。不正はするけれど帳簿は正確に記帳する、という矛盾するような行動は、経営者の中では良く行われます。だからといって、裏帳簿を見つけることは容易ではありません。

この調査は、最も簡単に不正を見つけた事案として、語り継がれています。

税務調査で誤った申告が見つかると、税金が追加で課されます。日頃から正しい会計処理や税務申告を心がけましょう。クラウド会計サービスを用いれば、簡単に経理業務が行えます。是非検討してみてはいかかでしょうか。

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