元国税局職員の芸人による「税務調査における帳簿を隠すリスク」

元 国税局職員 さんきゅう倉田です。産まれてから最初に喋った言葉は『直系尊属』です。
もし税務調査が行われた場合、帳簿の提出を拒むと、とんでもない結果になってしまうこともあります。そこで今回は過去の実際にあった例と合わせて、税務調査で帳簿を隠すリスクについてお伝えします。
事例
過去にこのようなニュースがありました。
- 関東にあるパチンコの会社が税務調査を受けた
- パチンコ屋さんは帳簿の提示に応じなかった
- 国税局は仕入れに支払った消費税の控除を一切認めなかった
- その結果、パチンコ屋さんは多額の消費税を追徴された
- 追徴課税は3年分で35億円となり、過少申告加算税も賦課された
消費税納税の概要
どういうことかと言うと、会社員やパート・アルバイトの方には耳馴染みがないと思いますが、法人や個人事業者には、消費税の納税義務があります。200円のモノを税込216円で売ったら、消費税が16円を国に納めなければいけません。
でも、その200円のモノは、誰かから50円とかで買ってますよね。そのときも、税込54円を払っています。このときの4円が、消費税における経費になります。
そこで、16円-4円=12円を国に納めればいいのです。これは、その都度ではなく、1年に一回確定申告をして納めます。
ニュースの「国税局は仕入れに支払った消費税の控除を一切認めなかった」とは、この消費税における経費4円を認めなかったということなのです。どうして認めてくれなかったのでしょう。パチンコ屋さんにうらみでもあるのでしょうか。
消費税の控除が認められなかった理由
消費税法30条には、以下のように書かれています。
課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には当該保存がない課税仕入れ等の税額については適用しない
やや難しいですが、すなわち、「帳簿の保存がなければ、経費の4円は認めない」と言っています。
このため、今回のニュースでは、「帳簿を見せてね」と言われ「嫌です」と拒み続けて、“帳簿の保存がない”と判断されました。
同様の判例はいくつかあって、その一つで最高裁はこんな判決を出しています。
税務調査における帳簿書類提示の求めに対して 、理由もなく応じなかった場合、帳簿書類を保管していたとしても、“帳簿の保存がない”に該当する
そういう判例を踏まえた上で、国税局側は、消費税の経費4円が認められませんよ、とファミレスのレジでお釣りの千円札を一枚ずつ数えてから、「ご確認ください」と言って客の前でもう一度一枚ずつ数えるアルバイトくらい丁寧に伝えているはずです。
しかし、パチンコ屋さんの社長はかたくなに帳簿を見せませんでした。
これについて、社長はこう言ってます。
「会計士らに対応を任せていたが、無予告で調査が始まったことに異議があり、応じる必要がないと言われた。専門家に任せていたので、自分はわからなかった」と。
公認会計士の先生が、「見せなくていい」と言ったので安心したのでしょうか。税務調査は「任意調査」と呼ばれることがありますが、調査を拒否することはできず、協力しなかった場合は、罰則が適用されます。罪と罰は、常に手を取り合って仲良しです。例外はありません。
このパチンコ屋さんに罰則が適用されたかどうかは分かりませんが、30億円くらいの消費税の経費が認められませんでしたので、罰としてはかなり重い。ステルス戦闘機のGくらいの重さです。
国税局は、所得であれば、帳簿などの証拠資料がない場合、推計で算出してくれることがあります。「売上がこれくらいだから同じ規模の同業他社と比べて経費はこれくらい」といった具合です。
しかし、消費税においては、それがなく、「売上はあるので消費税16円は納めてね、でも4円は認めないよ、だって帳簿見せないんだもん」という取り扱いがされるのです。だから、パチンコ屋さんは35億を納めることになりました。
おわりに
帳簿を隠していいことなどひとつもなく、上記以外にも、青色申告の承認を取り消されるなど、リスクばかりでノーリターン。青色申告でなくなると、繰越欠損金もなくなってしまいますし、減価償却の特例なども認められなくなります。
税務調査において、納得いかなければ意見をしたり、疑問を解消することは大切ですが、非協力的な姿勢は、自らの首と財布の紐を締める結果になります。くれぐれも、ご注意を。
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