コロナ禍で「役員報酬」を減額 損金不算入にならないように注意
経理・決算
新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少し、役員報酬の減額を検討せざるをえない会社も多い。しかし、会社の損金とすることができる役員報酬は法で定められており、その中でも多くの会社で採用されている「定期同額給与」は、期中に増減すると損金として認められない可能性がある。定期同額給与を変更しても損金と認められるために守るべき要件について、法人税務に詳しい笠浪真税理士が解説する。
●定期同額給与の要件をおさらい
役員報酬は、法人税法上認められたもの以外は損金として認められません。損金と認められない役員報酬とは、以下の通りです。
【役員報酬の損金不算入】
法人税法上、役員報酬の額は、定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与に該当するものを除き、当該事業年度の損金の額に算入することができません(法人税法第34条第1項)。
上記から、損金として認められるには定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与のいずれかに該当する必要がありますが、多くの企業が、役員報酬に「定期同額給与」を採用しています。
【定期同額給与】
「その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与」をいいます。また、その役員に対して「継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」も含まれます(法人税法施行令第69条第1項)。
分かりやすくいうと毎月の支給額が同額である給与となりますので、役員報酬の額は変更しないことが前提となっています。
この定めには、役員報酬の額を調整することが他の経費を調整するよりも容易であることから利益調整ができないようにするため、という一面があります。
では、通常はいつ役員報酬の額を変更するかというと、「当該事業年度開始の日から3月を経過する日までの間」になります。
役員の職制上の地位の変更(平取締役から常務取締役への昇進など)や、その役員の職務の内容の重大な変更(製造部門の担当役員から管理部門の担当役員への変更など)があった場合には、上記の期間以外でも役員報酬の額を変更することが可能です(増額・減額改定可能)。
また、当該事業年度において、当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由が生じた場合にも、上記の期間以外でも役員報酬の額を変更することが可能です(減額改定のみ可能)。
いずれの場合にも、役員報酬の改定ですので、株主総会または取締役会の決議が必要となりますのでご注意下さい。
●コロナ禍で定期同額給与を減額したらどうなる? 国税庁の指針とは
国税庁は、新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係を示しています。その中で、定期同額給与に関係した内容は次の通りです(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/faq/05.htm)。
問6 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額:イベント業において全ての収入予約がキャンセルされた事例→毎月の家賃や従業員の給与等の支払いが困難
結論 業績悪化改定事由に該当
問6-2 業績が悪化した場合に行う役員給与の減額:観光業において観光客等が減少している事例→観光客等の数が回復する見通しが立たず、経営改善策を講じる
結論 業績悪化改定事由に該当
問7 定時株主総会の延期に伴う定期同額給与の通常改定時期:定期株主総会が延期された事例→決算業務等に大きな遅延が生じ、通常通り株主総会を開くことが困難
結論 自己の都合によらず「特別の事情があると認められる」ため通常の改定時期における改定に該当
新型コロナを要因とした売上減少を理由とした場合には、業績悪化改定事由に該当するため、事業年度開始の日から3月を経過した後の改定でも、定期同額給与に該当する旨が記載されています。
また、新型コロナを要因とした決算業務の遅延による定期株主総会の延期の場合には、会計期間開始の日から3月超の変更でも、通常の改定時期による改定とされる旨が記載されています。
新型コロナウイルス感染症のために新たな法律が作成されているわけではありませんが、既存の法律に適用させるための解釈が示されているわけです。
上記のように、新型コロナを要因とする売上減少であれば、一時的なものではなく、著しい業績悪化であると判断されているようです。
ただし、少ないケースとは思いますが、業績悪化が一時的なもので、業績改善が既に見込まれている場合には上記業績改定事由には該当しないと考えられますのでご留意ください。
●減額したけれど業績回復…再度上げることは可能?
1度減額したけれど、業績が思ったより下がらず再度役員報酬を上げたいというのは可能かどうか気になるところですが、その場合、上記の当該事業年度開始の日から3月以内の改定、または役員の職制上の変更等に該当する必要があります。
どちらかの要件を満たさない限り、増額変更は臨時改定事由に該当しないと考えられます。
著しい業績悪化を事由とした役員報酬の額を減額して、すぐに増額するということは、税務署から「もともと減額をする必要がなかったのではないか」という指摘をされる懸念が生じます。
減額する場合には、その業績回復度合いを加味して減じる額を検討することが肝要です。
個別事情を鑑みますので、当該増額変更が上記2要件のいずれかに該当するか否かにつきましては、税理士等の専門家にご相談ください。
【取材協力税理士】
笠浪 真(かさなみ まこと)税理士
大手会計事務所・法律事務所等にて10年勤務。税務・法務・労務の知識とノウハウを習得し、2011年に独立開業。現在総勢50名のスタッフを抱え、クライアント数は法人・個人を含め約300社。著書に「開業医の教科書®」がある。
事務所名 : 税理士法人テラス
事務所URL: https://trc-tax.com/















