遠距離恋愛だと税金が安くなるってホント?検討されている「遠距離結婚の優遇税制」を解説

2016年8月に内閣府が提示した税制改正案の1つに「婚姻転居費等を特定支出控除の対象に追加」する旨が盛り込まれています。
これは簡単に言えば遠距離カップル・結婚を支援する税制優遇です。ここでは、この遠距離カップルの優遇税制についてご説明します。
目次
少子化対策の推進する3案について
2016年8月に内閣府は「平成29年度内閣府税制改正要望」を財務省に提示しました。ここには子供の貧困対策や民間資金等活用事業といった要望が盛り込まれており、その1つに「少子化対策の推進」も含まれています。この少子化対策は以下の通りに3案あります。
婚姻転居費等を特定支出控除の対象に追加
遠方に居住する男女が結婚・婚姻する際に、婚姻にともなう転居費、または婚姻後の旅費を特定支出控除の対象に追加するものです。詳細は後述します。
保育の受け皿の整備等を促進するための税制上の所要の措置
待機児童問題に対応することを目的に、保育所の敷地に関する相続税・贈与税の控除措置が該当します。そのほか、企業主導型保育事業にも優遇措置の新設なども検討しています。
子育て支援に係る税制上の措置の検討
現在の児童手当や所得税の扶養控除のあり方を検討して、子育て支援に適した税制措置について考え直す内容です。
遠距離結婚の優遇税制についての概要
内閣府税制改正要望にある「婚姻転居費等を特定支出控除の対象に追加」とはどのような内容なのか、その概要についてご説明します。
目的は「経済的理由での未婚を減らす」
内閣府によれば本施策の目的は、経済的不安や負担を減らすことで結婚しやすい環境を作ることにあるようです。この背景には合計特殊出生率が1.46と低いことや、その理由として未婚化・晩婚化が影響していることが指摘されています。税制優遇を設けることにより、間接的な支援を狙っています。
必要性は「少子化対策は重要なため」
内閣府は本施策の必要性として、「少子化対策が重要である」ことを挙げています。実際、「少子化社会対策大綱」や「ニッポン一億総活躍プラン」などでも出生率改善について言及されています。本制度に取り組むことで、少子化対策の一役を担うことが期待されているのです。
施策内容は「転居費や旅費を控除する」
本施策は遠距離に住む男女が、仕事を続けながら結婚したいと希望する場合に所定の費用を控除できる制度です。この費用は以下のいずれかに当てはまるものです。
- 結婚に伴う同居のため転居費(1)
- 結婚後に同居できない場合に要する旅費(2)
効果は「仕事と結婚の両立が実現できる」
内閣府によれば、各施策の適用見込みは下記の通りに試算しています。
- (1)の転居費は126,000世帯が適用する
- (2)の旅費は204,000組が適用する
転居費にしろ、旅費にしろ、これらの費用は比較的高額になると考えられます。したがって、それによる経済的な恩恵はあると予想しています。
特定支出控除とは?
本施策で出てくる特定支出控除とはどのような控除制度なのかを説明します。
一定の支出を所得から差し引ける制度
特定支出控除は給与所得者が一定の支出をした場合に、給与所得からその支出を差し引ける制度のことです。一定の支出には以下の6項目が当てはまります。なお、「その他、図書費、衣服費、交際費等」については、その支出が職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者からの証明が必要となります。
- 通勤ために必要な支出(通勤費)
- 転勤にともなって要する支出(転居費)
- 技術・知識の獲得に必要な支出(研修費)
- 資格取得に必要な支出(資格取得費)
- 単身赴任者が帰省に要する支出(帰宅旅費)
- その他、図書費、衣服費、交際費等
特定支出控除額の計算方法について
特定支出控除の計算式は下記の通りです。
特定支出控除額=給与所得控除額×1/2
この「給与所得控除額」は収入金額ごとに下記の通りに算出します。
- 65万円未満…一律65万円
- 65万円以上180万円以下…収入金額×40%
- 180万円超360万円以下…収入金額×30%+18万円
- 180万円超360万円以下…収入金額×30%+18万円
- 660万円超1,000万円以下…収入金額×10%+120万円
- 1,000万円超1,200万円以下…収入金額×5%+170万円
- 1,200万円超…一律230万円
なお、ここで紹介したのは平成28年分です。平成29年分は上限が「1,000万円超…一律220万円」なので注意してください。
本施策の懸念点は何か?
まだ本施策は提案段階ですが、現時点ではどのような懸念点があるのでしょうか。
少子化対策に繋がらない可能性がある
内閣府の試算によれば、本施策を適用する人が増えることで少子化問題解決に寄与するとしています。けれども、本当のところ経済的問題だけが未婚化・晩婚化の理由とは言い切れません。
例えば経済的理由のほか、家庭的理由、心情的理由などさまざま考えられます。経済問題だけを解決したからといって、少子化問題が簡単に解決しない恐れがあります。
制度に不平等が発生する恐れがある
本制度は「遠距離カップル」を対象にした制度ですが、経済的理由で結婚できないカップルは「近距離カップル」でも存在します。遠距離カップルだけを税制優遇する妥当性があるのか、これは慎重に判断しなければなりません。
「遠距離」という定義に関するあいまいさ
本施策は遠方に居住する男女が対象になるが、この「遠方」とはどの程度なのかが不明確である。直線距離なのか、市町村をまたげば遠距離なのか明確に定義をしなければ運用できないでしょう。
おわりに
内閣府が要望した「婚姻転居費等を特定支出控除の対象に追加」が制度化されれば、遠距離カップルでも結婚しやすくなるかもしれません。まだ、実現するか分からない段階ですが、もし結婚を考えているのであれば注目したい制度です。
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