20年超えの勤続を優遇する「退職金課税」 25年勤めたらどれくらいお得になる?
税金・お金

終身雇用、年功序列といった日本型雇用の見直しが叫ばれる中、税制の面からこの雇用慣行を下支えしてきたのが退職金課税の制度だ。過去の税制改正の議論でも、課題があるとしながらも、改正の動きには至っていない。
以下のような仕組みになっている。
退職所得の金額=(収入金額−退職所得控除額)×1/2
退職所得控除の額は、次のような計算で求める。
<勤続年数が20年以下の場合>
40万円×勤続年数(最低 80 万円)
<勤続年数が20年を超える場合>
800万円+70万円×(勤続年数−20年)
ポイントとなるのが、20年をすぎると、退職所得控除の額が年間40万円から70万円に引き上げられ、お得になるということだ。長く勤務し続けることのインセンティブの一つとなっている。
では仮に、退職金が3000万円だったとして、勤続年数が20年の時と、25年の時とで、支払う税金にどれくらいの差がでるのだろうか。佐原三枝子税理士に聞いた。
●5年間在籍が長いと、どれくらいの差が出る?
勤続20年から25年で退職金3000万を一時金でもらう人ってどんな人だと思われますか?
税理士の立場で思いつくのは、しっかり儲かっている中小企業の役員さんの退職金でしょうか?
やっぱり経営者っていいよね、とやっかみの声も聞こえそうですが、事業に失敗すれば退職金どころか借金を背負って老後に突入、という職業でもあります。
前置きが長くなりましたが、長年勤め上げお元気で退職の日を迎え、3000万円を一時金でもらった場合の税金はそれぞれ以下のようになります。
勤続25年の時 所得税 1,548,346円 住民税 925,000円 手取り 27,526,654円
勤続20年の時 所得税 2,137,974円 住民税 1,100,000円 手取り 26,762,026円
(所得税は復興所得税(所得税の2.1%)を含みます)
5年間の勤務期間での手取りの差額は764,628円です。同じ退職金でも5年間でこのくらい差が出てきます。
●年金で受け取る場合は計算が全然違うものに
こんな大きなお金が入ると確定申告が必要なのでは?と心配される方がいますが、退職金の税金は分離課税といって、他と切り離して課税関係が完結しているので確定申告の必要はありません。(申告をすることで退職金の税金の還付ができることもありますので、専門家もしくは税務署にご相談ください)
会社の規定によっては、退職金は一時金でなく年金として毎年受け取る方法を選べる場合や、一時金と年金のミックス型などがあります。年金受取の場合は公的年金の雑所得として計算がされますので、上記の発想とは全く異なった形で税金が算出されます。しかも、年金受取の場合は税金だけでなく健康保険料や介護保険料などにも影響が出ます。どれがご自身に合っているかは税法だけでなく、会社の規定や社会保険、個人の事情などによっても変わりますので慎重な判断が必要です。
最近は確定拠出年金制度を導入する企業も増え、自主的に自分の年金に責任を持つ時代になっています。会社が導入していない場合は個人的に加入することもできます。
退職金は老後を支える大切なお金の一つです。従業員の皆さんは、会社の規定や社会の制度を勉強し人任せにしないことが大切ですし、会社側も社員さんに制度の周知や金融教育を実施することは重要です。
そして何より、中小企業の経営者は、経営の中で時間をかけて意識的に資金準備をしておかなければ退職金なんて夢のまた夢です。経営者の頑張りを実のあるものにするアドバイスは関与税理士の役目だと思います。
【取材協力税理士】
佐原三枝子(さはらみえこ)税理士
Beautiful Business Beautiful Life 中小企業の利益構造と経営者の思考を美しくし、関わる人すべての人生を豊かにすることを理念に掲げ、税務、人事、DXを柱として税理士を超えた経営コンサルティングを提供している
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:https://www.office-sahara1.jp/