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教育施設から稼げる施設へ、図書館や博物館に迫る大きな転換 政治的中立性どう守る?

教育施設から稼げる施設へ、図書館や博物館に迫る大きな転換 政治的中立性どう守る?

博物館や図書館で観光振興を——。現在は教育委員会のみが管理している社会教育施設を、首長部局に移管できるようにする特例措置の導入について、文科省の諮問機関である中教審で議論されている。

対象となっているのは、博物館や美術館、図書館、公民館などの社会教育施設。政府が昨年12月、公立博物館の首長部局移管検討を閣議決定したことを受け、今年3月から中教審のワーキンググループ(WG)で議論が始まった。5月14日に行われた5回目の会合では、導入にあたって「政治的中立性の確保」「継続性・安定生の確保」などが課題として挙げられ、これらを担保するために「第三者機関の設置」の制度化が検討された。

現在も、首長部局に移管されている社会教育施設はあるが、手続きが煩雑なため、首長部局に移管ができるようになれば、他の部署との連携や事業計画もスピード感をもって行えるなどのメリットがあるという。

しかし、選択制とはいえ教育委員会から移管されることに対し、特に図書館界では政治的な影響や、教育機関としての役割が損なわれることへの懸念の声も広がっている。観光振興か教育か。社会教育施設のあり方が問われている。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●5年前にもあった移管問題が再燃した背景に政府の方針

実は、2013年にも中教審は移管問題を議論したことがあった。教育委員会制度改革(2014年)の一環として行われたもので、その時には「教育委員会が担当するもの」という答申に至っている。再度の議論にはどのような背景があるのだろうか。この時のWGに参加した慶應義塾大学の糸賀雅児名誉教授(図書館情報学)は、こう指摘する。

「前回と違うのは、観光資源として、博物館や美術館を活用したいという政府の方針があります。海外からのインバウンド観光客だけでなく、国内の旅行客も博物館や美術館に来てもらい、お金を使ってもらう。それが地域活性化やまちづくりにつながるという期待があります。

もちろん、今回のWGの議論でも指摘がありましたが、たとえば博物館には収集・保存・研究・展示・教育という従来の使命があって、観光の為に活用するのは、邪道かと言われれば、邪道でしょう。しかし、地方自治体の財政状況が厳しくなる中、博物館が観光資源になるのであれば部分的でもいいから、地域としては活用することを考えるべきでしょう。図書館も同様です」

昨年4月、山本幸三地方創生担当相(当時)が、インバウンド観光振興に協力的ではないとして「学芸員はがん」と発言した騒動も記憶に新しいが、政府は今国会で、文化財保護法改正案を提出している。観光やまちづくりを目的として、市町村による活用を促すもので、保護中心だった文化財行政を「保護と利用」の両立へと舵を切ろうとしている。そうした状況の下で、移管問題が再燃した形だ。

●「政治的中立性」守れるか、図書館界で広がる懸念

5年前から問題視されていることの一つが、「政治的中立性」。戦後、教育が政治的な影響を受けないよう一般行政から独立した組織として教育委員会が設置され、社会教育施設もその所管となった歴史がある。WGのヒアリングでは、博物館や美術館を中心に「首長部局にあることによる問題を感じない」とする声があるが、学校教育との連携も目指す図書館界では懸念も広がっている。

図書館問題研究会は4月、反対を表明。文科相と中教審会長あてに、「教育行政は政治からの独立性を確保することによって、個人の学びや、思想と表現の自由を、いざという時に政治の介入から守ることができます。図書館を首長部局に移管すれば、例えば地方自治体の施策について住民が学ぼうとする際に、図書館が施策に反対する内容の資料の提供を制限されるといったことが危惧されます」という文書を提出した。

一方、糸賀名誉教授は現在の教育委員会でも人事面と財政面では首長の権限が及んでおり、実態として政治的中立性の担保は程度問題でしかないとみる。

「たとえば、ある自治体に存在する原発について、住民から反対運動が起きたとします。その図書館では、原発反対派の資料を十分に揃えられるのか。教育委員会が原発を推進したい首長の意向を『忖度』しないと本当に言い切れるのか。教育委員会自体が自己規制してしまうことも、現に起きています」

最近では、さいたま市の公民館が、集団的自衛権の行使容認のデモについて詠んだ市民の俳句(9条俳句)について、公民館だよりへの掲載を拒否した問題が注目を集めた。この問題は、市民が憲法が保障する「表現の自由」の侵害にあたるなどと訴えて争われ、東京高裁は5月18日、控訴審判決で市に対して賠償命令を下している。当初、公民館は俳句が世論を二分する政治的なテーマであることを理由に掲載拒否、市長もこれを支持していた。

また、今回の議論以前に社会教育施設には2003年、企業やNPOなど民間の組織に運営を委託する指定管理者制度が導入され、そのあり方は激変している。中でも、TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者となって2013年4月にリニューアルオープンした佐賀県の武雄市図書館は、賛否両論を巻き起こした。そんな武雄市図書館の所管は首長部局ではなく市教育委員会だ。社会教育施設の運営は、その自治体の体制が強く反映されるのが現実だ。

●「図書館をまちづくりの中核施設にしたい」という自治体側の思惑

図書館を社会教育だけでなく、「まちづくりの中核施設に」と考える自治体も増えている。日本図書館協会では昨年8月、公立図書館とまちづくりの関係を初めて調査した。図書館を設置している1361自治体にアンケートを送り、回答が得られた1049自治体のうち、47%がまちづくりや地域振興に役立つことを目的とした図書館事業を実施していることが明らかになった。実際に首長部局へ移管される図書館は増えており、40自治体168館が首長部局の所管となっている(2014年現在、「ライブラリー・リソース・ガイド」編集部調査)。

たとえば、東京都江戸川区では2008年から、図書館は教育委員会から離れ、首長部局である文化共育部が委任を受けている。文化施設やスポーツ施設を一体の施策として運営する目的だ。江戸川区立篠崎図書館・篠崎子ども図書館の元館長で、図書館総合研究所主任研究員の吉井潤さんは、図書館長時代の経験をこう語る。

「毎週、庁議報告(自治体の重要施策と課題への対応について審議したり、それぞれの部で行う事業の情報共有)の資料をもらうだけではなく、庁議での区長の発言を知る機会がありました。おかげで、図書館が自治体の政策課題に対して何かできないか意識することができましたし、実際に図書館で行ったものもありました」

●「市民参加できる第三者機関で政治的中立性の担保を」

今回のWGでは、5年前の議論を踏まえて「公共社会教育施設を含む社会教育に関する事務については教育委員会が所轄することが基本」とされた。その上で、首長部局への移管を選択した場合には「政治的中立性」を担保するため、第三者機関を必ず置くなどの措置が議論されている。具体的にイメージされているのは、全国で9割以上の自治体が設置している社会教育委員の会議だ。

第三者機関のあり方について、糸賀教授は次のように話す。

「文科省は政治的中立性を保つための第三者機関設置を提案していますが、私もそうした仕組みは必要だと思います。ただし、教育関係者や学識経験者でつくる社会教育委員も、自治体によっては形骸化しています。第三者機関にはそうした専門家ばかりではなく、市民も参加し、また、広くSNSで市民の意見を聞くなどして、政治的中立性を担保すべきだろうと考えます。

日本の教育はもともと、レイマン・コントロール(素人による統制)を目指してきました。ですから、教育委員会か首長部局かという問題よりも、社会教育施設には市民参加できるパブリック・ガバナンスをどうつくっていくべきか、考えることが重要です」

●学芸員や司書の仕事と雇用条件はどうなる?

懸念は政治的中立性だけではない。近年、博物館や美術館、図書館などの社会教育機関では、学芸員や司書の非正規雇用化が問題となっており、継続的な運営に支障をきたすと指摘されている。WGでも、首長部局移管に伴い、指定管理者制度の導入が進むという意見があり、社会教育機関としての「安定性」や「継続性」の課題が議論された。

WGの委員で、法政大学の金山喜昭教授(博物館学)は、「これまで考えられてきた公立博物館の基本特性が損なわれることのないようにすることが必要」と発言。そのためには、学芸員の配置促進や専門性向上、雇用条件の改善などを総合的に取り組むことが必要とした。

「学芸員や司書のキャリアをデザインをし直すことが大事」と話すのは、糸賀名誉教授だ。「もしも、首長部局に移管するようになるのであれば、たとえば観光や商工、福祉など他の部署とも連携して、活躍できるような人材を正規雇用してもらうことが重要でしょう」

実際、自治体では複合施設化を進め、図書館と美術館、図書館と公民館などを併設するケースが増えており、その職域は広がっている。現場では、すでに学芸員や司書の役割は変わりつつある。

社会教育施設は、大勢の市民が利用する公共施設であり、文化資源と集客力を持つことは誰もが認めるところだ。それを今後、どうしていくのか。WGでは年内に結論を出す予定だが、世論を巻き込んでの広い議論が求められている。次回のWGは5月29日に開催される。

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