ソニー・ホンダEV断念、1.3兆円損失の衝撃。税務から見る「賢い撤退」と赤字の行方
経理・決算
日本が世界に誇る2大企業、ソニーとホンダの合弁会社であるソニー・ホンダモビリティ株式会社は、2026年3月25日、共同で進めるEV(電気自動車)プロジェクトの開発と発売を中止すると発表した。
背景にあるのは、世界的なEV市場の失速と、米トランプ政権による環境規制の大幅な緩和・撤廃という急激な逆風だ。ホンダはこれに先立ち、EV戦略の大幅な見直しによって2カ年で累計最大2.5兆円に達する損失が発生する見通しを公表。2026年3月期だけで1.3兆円もの関連損失を計上し、最終損益は6,900億円の赤字となる見込みだ。
一見すると、この「巨額赤字」は絶望的な数字に映るかもしれない。しかし、財務・税務の視点から見れば、これは単なる失敗ではなく、将来に向けた布石という側面もある。この歴史的な撤退劇から、企業が「負の遺産」を清算する際の税務上のメリットについて、浅井匠也税理士に聞いた。
●巨額損失は「会計上の数字」で全額が費用になるわけではない
ーー企業が巨額の損失(赤字)を計上し、「負の遺産」を清算する際、税制上はどのようなメリットがあるのでしょうか。
まず押さえたいのは、ニュースで報じられる巨額損失は主に「会計上の数字」だという点です。税務では、その全額がそのまま費用になるわけではなく、損失の中身ごとに「いつ、どこまで損金になるか」を見ていきます。
その上で、税務上のメリットとしては、「税務上認められた損失額を将来の黒字と相殺できる」ことがあります。つまり、撤退で過去の重荷を整理できれば、今後業績が立ち直ったときに税負担を抑えやすくなります。ただし大企業の場合は、利用できる繰越欠損金の額に上限があり、赤字になったからすぐ多額の税金が戻るわけではありません。
●1.3兆円もの損失計上。手元の「キャッシュ」はどうなる?
ーー開発中止に伴う関連費用などで1.3兆円の損失が出た場合、キャッシュフローにどう影響するのでしょうか?
税務上の処理は、「1.3兆円をそのまま一括で費用に落とす」という単純なものではありません。有形固定資産・無形資産の除却損失や減損損失などの損失の中身を一つ一つ性質別に判定し、最終的には会計上の利益・損失を起点に申告調整して、税務上の所得や欠損金額を計算します。
また、会計上の減損損失でも資金の流出を伴わないものがあり、一方で返金や解約精算のように実際の資金流出を伴うものもあります。つまり、会計上の赤字の大きさと資金流出の大きさ、税務上の損失の金額はそれぞれ一致しない、ということです。
●経営判断としての「引き際」。税務面から見た理想のタイミング
ーー経営者がプロジェクトの撤退(引き際)を決断する際、税務面からのアドバイスはありますか?
税金だけで撤退時期を決めるべきではありませんが、今回のような大企業では、「不採算部門の整理は利益が出ている期」の方が合理的です。利益が出ている期なら、撤退損を当期の他の利益で吸収しやすいからです。
仮に欠損金を繰り越した場合には利用できる繰越損失額は、将来の所得の50%まで、利用できる期間は原則10年までとなります。ただし、税務上は中止決定や契約解消など、損失が客観的に確定していることが前提となります。
【取材協力税理士】
浅井 匠也(あさい・たくや)税理士・公認会計士
監査法人で会計監査・IPO支援、コンサル会社では決算・財務アドバイザリーに携わり、2019年に浅井匠也税理士公認会計士事務所を開業。上場企業から中小企業や個人事業主まで、税務・会計・資産管理を幅広くサポート。自らも株式、不動産、仮想通貨といった複数の資産に投資しており、実体験をふまえたアドバイスが可能となっている。宅地建物取引士試験にも合格しており、不動産の売買や賃貸に伴う税務の相談にも対応している。
事務所名:浅井匠也税理士公認会計士事務所
事務所URL:https://biryani.jp/















