タレントのタレントによるタレントのための確定申告~はじめての消費税~

ほとんどの人は消費税を納めていない?
元 国税局職員 さんきゅう倉田です。
消費税については「物を買ったりサービスを受けたときに支払いを求められ、毎日のように納めている、最も身近な税」という印象を持っている方が多いのではないでしょうか。
しかし、ほとんどの方は消費税を納めていません。どういうことかというと、税金は国や地方自治体に納めるものですが、物を買ったりサービスを受けたときに、国や地方自治体とやりとりしましたか。公的な書類を書きましたか。納付書の控えを受領しましたか。
つまり、みなさんは消費税を納めているのではなく、あくまで、負担しているのです。これが、消費税の仕組みです。
消費税の理念として、「簡単に集められる」ということがあります。物を買ったりするだけで、いつのまにか誰かが消費税を納めてくれる。税額の計算もしなくていい。子供から老人まで、外国人旅行者から粗忽者まで、だれでも負担することができます。
消費税は誰がどうやって納めているの?
では、だれがどのように納めているのか。それは、個人事業者や法人が納めています。物を売ったり、サービスを提供する側。いわゆる、世に言うところの“お店”であったり“会社”が納めています。
個人事業者を例にします。文房具屋さんをやっていて、本体価格100円のゼブラボールペンを税込108円で販売します。たくさんのお客さんにゼブラボールペンを売ります。8円の消費税がたくさんたまっていきます。1年間で1000本のゼブラボールペンを売りました。消費税が8,000円たまりました。その消費税をどうするか。国に納める、こういう仕組みになっているんですね。
ただ、文房具屋さんも、誰かからゼブラボールペンを仕入れている、つまり買っていますよね。買っているとうことは、消費税を負担しています。
文房具屋さんは、ゼブラボールペンを本体価格50円で仕入れています。税込で54円を仕入れ先に払います。毎年1000本のゼブラボールペンだけを買っているとしたら、その消費税として4,000円負担しています。
お客さんに販売して得た消費税が8,000円で、仕入れで負担した消費税が4,000円。
会社員やアルバイトの方など、多くの労働者には馴染みのないシステムなんですが、個人事業者や法人が取引を行なっていると、消費税はこういう状態になります。
たまった消費税がたくさんあって、負担した消費税がそのうちの何割かになる。(場合によっては、逆もありますが、割愛します。)
では、国に消費税を納めるのは、いくらなのか。8,000円から4,000円を引いた、残りの4,000円を納める。とまあ、簡単にいうと、こうなるわけなんですね。
個人事業者や法人は、毎年、たまった消費税と負担した消費税を計算して、消費税の確定申告を行います。
タレントの場合はどうなるの?
そこで知っておいていただきたいのは、もちろん、タレントの方も消費税を納める必要があるということです。そういうひとを「納税義務者」というんですが、収入の少ないタレントの方は、消費税について、請求や督促が来たことがありませんよね。それには、理由があるのです。
消費税の納税義務者について、国税庁は「個人事業者と法人で、事業として、資産の譲渡や貸付け、役務の提供を行った事業者」と定めています。
簡単に言えば、「仕事で物を売ったり、貸したり、サービスを提供している人」というようなことを言っています。
そうなると、ほとんどのタレントが、消費税の納税義務者になり、毎年、消費税を納める必要がありますね。でも、納めていない人が多いのではないでしょうか。
その理由は、国税庁が次のように定めているためです。
消費税には免税点が設けられており、その年の前々年における課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の納税義務が免除されます。この課税売上高は、消費税の課税取引の総額から返品を受けた金額や売上値引き、売上割戻しなどを差し引いた金額で、消費税額と地方消費税額は含まないこととされています。
なお、基準期間が免税事業者の場合は、その基準期間である課税期間中の課税売上高には、消費税が課税されていませんから、税抜きの処理を行わない売上高で判定します。
簡単に言えば、大体このようなことになります。
ことしの2月3月にやる確定申告は、2016年分だから、基準となる2014年の売上が1,000万円以下なら消費税の納税を免除される。この売上というのは、返品とか値引きとかを考慮した売上で、さらに消費税が含まれているだろうから、それも引いた売上。年間の売上が1,050万円なら消費税を引くと972万円になるので、1,000万円以下として扱われる。
なお、消費税を免除されてる年を基準にしたときは、1050万円に消費税は含まれないとされる。だから、基準額は972万円に減らない。
つまり、タレントであれば「2年前の年収が1,000万円超えたなら、今回は消費税の確定申告が必要です」ということです。
よく分からなくても、毎年、ちゃんと確定申告をしていれば、多くの場合には、税務署から消費税についてのお知らせが届くと思いますので、そのお知らせに従っていただけるとよろしいかと思います。
タレントの消費税の納め方
簡単になる簡易課税制度を利用しよう
でも、いきなり、消費税の確定申告をしろと言われても、所得税ですら四苦八苦なのに難しいですよね。そんな方のために、簡易課税制度というものがご用意されております。
リーズナブルで快適なサービスを提供する簡易課税制度。適用したみなさんの恍惚とした表情が、眼に浮かんだり沈んだり。
簡易課税制度について、国税庁は次のようにいっています。
その課税期間の前々年又は前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、簡易課税制度の適用を受けることができます。
仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするというもので、この一定割合をみなし仕入率といい、売上げを6つに区分し、それぞれのみなし仕入率を適用します。
簡単に言えば、大体このようなことになります。
ことしの2月3月にやる確定申告は、2016年分だから、基準となる2014年の売上が5,000万円以下なら、届出を提出すれば簡易課税制度が適用される。
どんな制度かというと、仕入、つまり物を買ったときに負担した消費税の金額をまとめたりしなくてよい。その代わり、売上の何割かが自動的に仕入になる。これを“みなし仕入”という。みなし仕入は、売上の種類で6つに分けられる。
みなし仕入率は次のようになっています。
- 第一種事業(卸売業)90%
- 第二種事業(小売業)80%
- 第三種事業(製造業等)70%
- 第四種事業(その他の事業)60%
- 第五種事業(サービス業等)50%
- 第六種事業(不動産業)40%
以上を踏まえ、タレントの場合の簡易課税制度を利用すると、「消費税の確定申告が簡単になります。売上の半分がみなし仕入になるので、残り半分に対する8%を消費税として納めます。」となりますね。
簡易課税制度って、素敵。あたしも使いたいわ、と思った方。適用を受けるためには、適用したい課税期間の開始の日の前日までに消費税簡易課税制度選択届出書の提出が必要です。 今回でいうと、2016年の開始の日の前日、つまり、2015年12月31日までに提出することになります。
納める消費税の金額
では、どのくらい納めるかというと、もちろん売上が上がれば消費税も増えるんですが、1,000万円の売上に対して、タレントの方のみなし仕入れが50%。つまり、500万円。 500万円の8%ですから、40万円を納めることになります。
消費税の確定申告は、所得税と違って3月31日です。納めるのも3月31日。2016年分の消費税を2017年の3月31日に納めます。
納めた消費税の経費計上
この納めた消費税は、いつの経費にできるでしょうか。2017年の経費にできます。
いつの経費にできるかについて、国税庁は次のようにいっています。
納付すべき消費税等の額の計上時期は、原則として次のとおりです。
・その申告書が提出された日の属する年
なお、個人事業者が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を未払金に計上した場合らその計上した年の必要経費に算入することができます。
簡単に言えば、大体このようなことになります。
経費にできるのは
・消費税の確定申告書を提出した年
なお、まだ払っていないけど、帳簿で“未払金”にすれば、消費税の金額を前の年の経費にしていいよ
このため、タレントの方にとっては、「2016年分の消費税を払うのは、2017年の3月31日だから、2017年の経費にできます。でも、“未払金”にすれば、2016年の経費にできます」ということになります。
タレントの方が自分で帳簿を作成することは、稀であると考えますので、2017年の経費にすることが多くなると考えられます。
ちなみに、先日、渋谷の確定申告書作成会場で、個人課税部門の職員さんに確認したところ、次の二つの意見を頂戴しました。
職員A「支払った年の経費にしかできません」
職員B「どっちでもいいです」
どちらも間違っている!?どちらも間違っているかもしれないけど、それを聞いた納税者が損害を被っても、国税局や税務署は責任を取ってくれません。恐ろしいです。
そもそもは、自分で勉強して、習得して行うのが確定申告であり、職員さんはその補助というか、お手伝いというか、インストラクターくらいのポジションです。頼るのはよいが、責任を押し付けてはいけない。しっかりとやりたいなら、お金を払って、税理士さんに頼みましょう。日本人は、正当な対価を払わずに文句ばかり言う。対価として、税金を払っているって?文句言う人は、大して払ってないに決まってるヨ。
と、ぼくんちの隣に住むアンティグア・バーブーダ(カリブ海にある、消費税15%の国家)人が言っていました。ぼくは全く言ってません。
何が言いたいかというと、「職員さんでも間違えるくらい難しいから、理解できなくても不思議じゃありませんよ」と。「みんな仲間ですよ」と。「これは流石にボノボ(ヒト科チンパンジー属に分類される霊長類)でも無理ですよ」と言いたいのです。
どんなときに消費税の納税義務者となるのか、納税義務者となったときに簡易課税制度を適用できること、の2つが分かったら、あとは申告するだけです。税務署に行くなり、税理士に頼むなり、自己研鑽で乗り切るなり、方法はいくつかありますので、選択して実行してください。
日本の消費税の税率
さて、最後に消費税の税率について、紐解きたいと思います。現在の日本の消費税は8%。みなさん、そう認識されていると思います。一般的にはそうなんですが、国税局的には違います。
消費税は6.3%、そして、こっそりひっそり地方消費税というものがあって、それが1.7%の合計8%となっています。
だから、なんだと言われたらそれまでなんですが、みなさんの生活に影響があるわけでもありませんし、知っていたら得するわけでもありません。今回は、消費税の解説だったので、豆知識として置いてゆくことにしました。
おわりに
消費税といえば、最近すっかり取り沙汰されることもなくなった増税。2年後には消費税10%になるかもしれません。そのとき、初めて体験する軽減税率。消費税10%のものと8%ものが混雑するワールドがやってきます。軽減税率の対象を知っていれば、きっとあなたの生活は薔薇とはいかなくともたんぽぽ色くらいになるかもしれません。でも、それはまた、別の機会に。
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