タレントのタレントによるタレントのための確定申告~ひとりで確定申告できるもん~

はじめに
元 国税局職員 さんきゅう倉田です。
確定申告は難しい、とほとんどの方が感じていると思います。実際にどうかと聞かれたら、「難しい」と言わざるをえません。ただ、それは義務教育や高等教育で習得しておらず、1年に1回という国民の休日程度の頻度でしか行わないからです。月に1回くらいやっていれば誰でもできる程度の難易度です。でも、毎月やることはできません。その代わりに、この記事を読むことによって、相対的な難易度を下げたいと思います。
目次
確定申告で利用する用紙
タレントが確定申告で使用する用紙は主に2つです。確定申告書B(A3)と収支内訳書(A4)です。
確定申告書B


収支内訳書

確定申告の用紙の記入順
確定申告をするときは、確定申告書Bを書いて、途中で収支内訳書に浮気して、また確定申告書Bに戻ってきます。
こんな感じ。



確定申告用紙の記入方法
確定申告はこのとおり7番まで書けば終わります。
この記事では、鈴木福くんでも分かるようにやわらかく解説したいと思います。
確定申告書Bの1〜2番の書き方
『確定申告書Bの1番』は住所と名前と誕生日を書くのがメインです。枠が太くなっています。職業や世帯主も記入欄がありますが、よく見てください。太くなってません。ここは分からなければ、書かなくても確定申告ができるのです。難しければ飛ばしてください。隠しているわけではありません。後日、電話や面談で聞かれたら、きちんと答えればいいのです。確定申告をする上で、記入しなくても手続きができる部分がいくつかあります。太くなっていないということは、そういうことなのです。
『確定申告書Bの2番』から、専門的な、納税額に影響する部分になります。まずは、収入を書きます。(ア)と(カ)ですね。
タレントは、『事業>営業等(ア)』に「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の支払金額を書きます。複数の会社から「支払調書」を受領していれば、全てを合計して書きます。
アルバイトをしていれば、『給与>(カ)』に「源泉徴収票」の支払金額を書きます。「支払調書」は(ア)、「源泉徴収票」は(カ)に記入すると覚えてください。
収支内訳書の3番の書き方
『収支内訳書の3番』は、「収支内訳書」を記入します。
「収支内訳書」がどんなものかと言うと、事業の経費をやや細かく書く紙です。もっと細かいものが「帳簿」です。「帳簿」は確定申告のときに提出したり、見せたりしません。税務調査のときに見せます。
「収支内訳書」に、経費をやや細かく書くと、何が分かるでしょうか。(21)を見てください。「所得金額」と書いてあります。つまり、「所得」が分かります。「収支内訳書」は、この「所得」を求めて、「確定申告書B」に書き写すことを目的としています。
「収支内訳書」の(1)と(4)は、さっきの「ア」の金額を書きます。(2)と(3)はタレントの場合はほとんどありません。空欄にします。
「売上原価」の(5)〜(9)もほとんどありません。
(10)は(4)−(9)なので、(4)=(10)になります。
(1)(4)(10)が同じになりますね。
ここからは、経費を書きます。まずは、(11)から(16)。タレントが記入するのは、地代家賃(15)くらいでしょうか。
地代家賃(15)は、事務所用の部屋を借りているときに1年分の金額を記入します。タレントの方は、自宅兼事務所という方も多いと思います。
国税庁は、これに関して次のように言っています。
「個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用となるものがあります(交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費)。このうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます」
ですって。つまり、「個人事業であるタレントは、交際費とか家賃とか水光熱が、プライベートと仕事でごちゃ混ぜになっちゃうよね?仕事で使ったって明確に分かるなら経費にしていいよ」と言っています。
自宅兼事務所の場合、どの程度から「明らかに区分」となるのかは明らかになっていません。味の薄い禅問答のようです。住居内の生活する部屋と仕事をする部屋を分けて、仕事で使っている分の家賃を経費として計上するのが一般的です。
例えば、2LDKを借りていて、一部屋を事務所として使っているなら、家賃の25%を経費にする、といった具合です。これは、一概に「何%が正しい」とは言えません。家族4人で住んでいれば同じ間取りでも経費は変わってきますし、一人暮らしで部屋のほとんどが生活用スペースということもあると思います。ワンルームに一人暮らしであれば、家賃の50%以下を経費にする方が多いようです。
(イ)から(レ)にも経費を書きます。
租税公課(イ)は、税金です。事業税などの仕事上で支払った税金があれば記入します。所得税と住民税は書けません。
荷造運賃(ロ)は、荷物を送ったときなど。
水道光熱費(ハ)は、事務所の水光熱の支払を書きます。自宅兼事務所の場合は、家賃と同様に、全体の何%かを経費にします。最大でも支払金額の50%くらいの方が多いようです。
旅費交通費(ニ)は、電車、タクシー、飛行機、新幹線、ガソリン代なども含まれます。あくまで、実費で負担した分なので、事務所が払ってくれた分や、闇営業の取引先が払ってくれた分は経費にできません。
通信費(ホ)は、携帯電話の料金や、インターネットの月額使用料です。家賃と同じように、仕事で使ったと思われる何%かを経費にします。
広告宣伝費(へ)は、読んで字のごとくですが、タレントならSNSを利用した広告や名刺の作成、ホームページの作成・運営費などがあります。
接待交際費(ト)は、飲食代の全てではありません。そのように認識している方が多いかもしれませんが、あくまで「業務に関連するもの」です。あなたが1人で食べたご飯や、家族や友人と食事に行った場合は、領収証をもらっても経費にできません。ただし、食事に関する業務を行っていて、1人で取材に行ったのなら経費として認められる可能性があります。それが「業務に関連する」ということなのです。
消耗品費(ヌ)は、ノートやペン、小道具などを書きます。衣装台をここに書く方もいます。どの程度まで衣装として、認められるかは明確ではありませんが、一度だけ仕事で着用し、のちに私服として用いるようなものは、税務調査で「だめだよ」と言われる可能性が高いです。芸人の方がコントで使う小道具は、全て記入できます。
タレントの方が記入する主な経費は、以上です。
(17)(18)(19)(21)は、ピンクの字で計算式が書いてあります。乳飲み子でもできるレベルですので、それ通りに計算してください。
(21)を求めたら、確定申告書Bの(1)に書き写します。
確定申告書Bの4番の書き方
『確定申告書Bの4番』は所得金額です。
(1)を収支内訳書(21)から書き写します。アルバイトもしていれば、(6)も記入します。(6)には源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」を書きます(前回のコラムに、源泉徴収票の画像があります。赤字で「所得」と書いてあるところです)。
もし、複数箇所でアルバイトをしているなら、源泉徴収票の支払金額を合計して(6)を自分で計算しなければいけません。計算は、こちらの国税庁HPを参考にしてください。
合計(9)には(1)と(6)を足して書きます。
確定申告書Bの5番の書き方
『確定申告書Bの5番』にはいろんな種類の控除を書きます。控除を受けるなら、ほとんどの場合「証明書」の添付が必要です。
雑損控除(10)は、盗難や横領、災害にあった場合に使います。あんまり知られていないので、利用する方が少ないですね。
医療費控除(11)は、医療費が1年間で10万円以上になると使うことができます。生計が一緒なら確定申告をする人の家族の分も含めることができます。でも、10万円はなかなか超えません。出産か大怪我か大病、保険外医療を受けたときに使うことが多いです。所得が200万円未満だと、10万円未満でも使えます。
社会保険料控除(12)は、年金、健康保険の支払った金額です。11月に控除証明書が届きますので、それを見て書きます。生計が一緒なら、家族の分も足すことができます。
小規模企業共済等掛金控除(13)は、イデコ、DC、401K、確定拠出年金が含まれます。控除証明書の金額を書いてください。
生命保険料控除(14)は、11月に控除証明書が届きます。それを見て書きます。生計が一緒なら家族の分も足すことができます。
地震保険控除(15)は、上に同じです。
寄附金控除(16)は、ふるさと納税とかユニセフに寄付したときに使います。ふるさと納税のおすすめの返礼品は、「肉」です。返礼品の還元率は、総務省からの指示で決まっています。地方の特産品は、地元での価格を還元率の計算に用いています。よって、都心ではもっと高い価格で販売しており、相対的な還元率が上がります。おすすめは、「肉」です。筆者は「肉」が好きです。
配偶者控除(21)は、合計所得金額が38万円以下の妻か夫がいるときに使います。可能なら配偶者控除を受けるより働いた方が良い、と朕は考えます。
扶養控除(23)は、16歳以上の扶養家族がいるときに使います。1人につき38万円ですが、おじいちゃんおばあちゃんになると金額が上がります。じいじ、ばあば大好きです。
基礎控除(24)は、全員が使います。38万円です。みんなが使うのに、どうして初めから「380000」と印字されていないのでしょうか。永遠の謎です。国税局の七不思議の1つです。この謎が解明されるときは、消費税は50%くらいになってると、小生は思います。
ここまでで控除が終わりました。証明書は確定申告書に添付します。証明書が用意できたものだけ、控除してください。
合計(25)は、(10)〜(24)を足します。電卓を使うと楽だ、とぼくの先祖が言っていました。
確定申告書Bの6番の書き方
『確定申告書Bの6番』は、いよいよ税額を計算します。
課税される所得金額(26)には、所得(9)−(25)の結果を記入します。でも、000と印字してあります。なんと、千円未満を切り捨てていいのです!数字が小さくなると、納める金額が少なくなりますので、納税者有利となっています。素晴らしいシステムですね。ぼくが犬だったらちぎれるくらい尻尾を振って、溺れるほどヨダレを垂らしたことでしょう。
上の(26)に対する税額(27)は、(26)に税率をかけます。所得税は、累進課税制度をとっていますので、所得が上がると、税率も上がります。税率はこちらの国税局HPでどうぞ。
住宅借入金等特別控除(30)は、住宅ローン減税の金額です。概ね、ローン残高の1%を控除できます。読んでもよく分からない方は、該当しません。
(38)(40)(41)(42)は、計算式が書いてあります。電卓さえあれば、ボノボでもできる計算です。
所得税及び復興特別所得税の源泉徴収税額(44)は、「支払調書」と「源泉徴収票」の源泉徴収税額を全て足して書きます。
所得税及び復興特別所得税の申告納税額(45)は、計算式通りに書きます。聡明な読者のみなさんならちょろいですね。マイナスのときは、左端に△をつけます。高校の数学で出てきました。デルタです。
(47)(48)は、(45)の符号によってどちらを書くかが決まります。
納める税金(47)は、(45)がプラスのとき、その金額を書きます。
還付される税金(48)は、(45)がマイナスのとき、その金額を書きます。還付の場合は、ずうっと下の方に行った「還付される税金の受取場所」に、預金口座も書きます。 これで『確定申告書Bの6番』が終わりました。
確定申告書Bの7番の書き方
『確定申告書Bの7番』は、最も手を抜いていい紙です。なぜなら、概ね、他の書類や提出する証明書に書いてあることを書くからです。他の人の申告書と混ざったときに困るため、住所と名前は必ず書いてください。
印鑑を押して確定申告書を提出しよう
記入が終わったら、印鑑を押します。押すのは4ヶ所。
- 確定申告書Bの名前の横
- 確定申告書Bの1枚目をめくって、1と同じ場所
- 収支内訳書の名前の横
- 収支内訳書の控えの名前の横
印鑑を押したら、あとは提出するだけです。
管轄の税務署に、直接持って行くか郵送します。提出するものは以下の通りです。
- 確定申告書B
- 確定申告書Bの控え
- 収支内訳書
- 収支内訳書の控え
- 源泉徴収票、支払調書、各種控除証明書
- 郵送で提出するなら92円切手を貼った封筒(控えを送ってくれます)
1週間ほどで、控えが戻ってきますので、自宅で保管してください。還付なら、3週間ほどで振り込まれます。納税の場合は、3月15日までに納税してください。税務署で納税するか、税務署で納付書をもらえば、金融機関で納めることができます。
おわりに
『タレントのタレントによるタレントのための確定申告~ひとりで申告できるもん~』は以上となります。これでもできない方は、税務署に行って、教わりましょう。職員が、親切、且つ、丁寧に、教えてくれます。無料です。
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