元国税局職員の芸人による税務調査体験談「消費税の納税をしなかった中古車販売店」

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元国税局職員の芸人による税務調査体験談「消費税の納税をしなかった中古車販売店」

著者: 倉田 健一 芸人

元国税局職員・さんきゅう倉田です。好きな勘定科目は「売掛金」です。 ひと口に法人と言っても、個人事業にうぶ毛の生えた程度の規模の法人も多数ありますが、規模が小さいからといって税務調査が来ないということはありません。規模が小さい分、税務調査から受ける影響は大きく、追徴課税が“かいしんのいちげき”となるかもしれません。

売上1200万円。でも、消費税の申告はなし

Aさんが営む中古車屋は法人設立6年目。

高校を卒業してから15年ほどは自動車修理の会社に勤めており、業者用のオークションで中古の外車を安く仕入れて、修理し販売する業務を行なっていたそうです。そこでノウハウを得たことや、社長の許可もあって独立することになり、すぐに法人の登記をして、職場の後輩をひとり引き抜いて開業しました。

開業してからは順調で、売上は1200万円ほどで推移し、役員報酬が800万円となり会社員の頃より給与は上がりました。今回は、設立から税務調査が一度もなかったこと、また、売上のわりに申告されている所得が低減していたことにより、調査着手に至りました。

税務調査が行われる理由として、これらは一般的ですが、Aさんの会社がもっとも迂闊だったのは、消費税の申告をしていなかった ということです。

税理士の先生との顧問契約はあったようですが、なぜか申告を怠っていました。税理士報酬は月額1万円という破格の金額。通常の法人の顧問料では考えられない金額です。

事前に税理士の先生に連絡をして、調査に臨場。約束の10時に事務所に行きましたが社長のAさんはおらず、先生とふたりで待つことになりました。20代前半くらいの従業員が、パイプ椅子と机が置かれた小部屋に案内してくれましたが、お茶が出される様子もなく、社長を待つこと1時間。11時を過ぎ、ツナギ姿の社長が酒でむくんだ顔を隠すことなく、のそのそとやってきました。

税理士報酬1万円とは、これいかに

概況をヒアリングすることもなく社長に帳簿を出してもらい、すぐに調査を始めます。

経費を確認すると、研修資料に載っていそうなくらい分かりやすい、個人的なつかい込みと思われる大量のキャバクラの領収書が・・・。

Aさんの会社は領収書の入力は自社で行っていて、勘定科目ごとにまとめた金額を税理士の先生に送っていました。つまり、先生は領収書の内容を精査していなかったのです。月額1万円という報酬では、顧問税理士といえどもこの程度の関与になってしまうのでしょう。先生に責任はありません。

キャバクラの領収書について社長に内容を確認するとひとりで行ったものばかりだったので、抽出して、金額をまとめるようにお願いしました。

続いて、売上も確認。

「売上除外」、つまり売上を少なく申告して本来支払うべき税金も少なくする 脱税方法には、売上だけを隠す方法と、売上とそれに対応する仕入の両方を隠す方法の2つがあります。

そこで車の仕入台数と売上台数を突き合わせてみましたが、それぞれの車種・台数は完全に一致。つまり売上除外は確認できませんでしたが、もしかするとそもそも仕入から除外していたために見つけられなかっただけかもしれません。また、ベンツやBMWといった高級中古車の仕入れ価格が20万円程度となっていたことに驚き、社長に確認すると、故障箇所が多いのでこの値段になる、とのことでした。

ここまで帳簿を確認したところで、昼になり、昼食を取ることに。

「45分ほど休憩にしましょう」とぼくが提案すると、「先生、近くにうなぎ屋があるので行きましょう」と社長が先生を誘いました。

「ぼくも外に出ます」と椅子から立ち上がると、お前もうなぎを食いに来るのか?オレにたかるつもりか?という心の内を露骨に顔に出して、社長がぼくを見ましたが、「あぁ、ぼくはお弁当があるので」と伝え、くたびれたプレハブの事務所を出ました。

消費税を申告しなかった法人の行方は・・・

ぼくは、調査の前に必ず昼食場所を確認します。

当時は、スマートフォンもそれほど普及しておらず、携帯電話で飲食店を検索するようなことは難しい環境でした。地図を広げて、その日調査する法人事務所近くの飲食店を探すのです。もちろん、営業時間や定休日は分かりません。味がよいか悪いか、店内が清潔か否かなどは優先されず、とにかくカロリーを摂取することが目的でした。 現役の調査官の方々は、スマートフォンで容易に検索して、好きなものを食べられることでしょう。それでも、飲食店が周辺にないようなエリアで調査を行うときは、このときのぼくのように、公園のブランコで揺られて、早起きして作ったお弁当を食べることになります。

ぼくは、甘じょっぱい卵焼きをほおばりながら、消費税の申告について考えていました。

申告していないことは全員がわかっている。それでもその話をしないのは、このままなんとかなると思っているのか、そもそも顧問料1万円の法人の消費税の申告を税理士の先生がするだろうか。

昼食後に、先生と社長に消費税の話をすると、ふたり揃って「申告したくない」と子供みたいなことを言うのでした。

その後、先生は1年分の消費税の申告だけして顧問契約を打ち切り、社長は夜逃げをして、ひとり残された従業員も元いた会社に戻ったようでした。 後日訪れたプレハブにあったのは、土埃にまみれて地面でなびく「都合により、お休みをいただきます」と書かれた張り紙だけでした。

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