手取り額が増えにくい「地獄の納税ゾーン」はいくら? 税理士に聞いた
所得税

累進課税制度がとられている日本では、所得が多い人ほど、手取り額が増えづらくなる。中でも、ある年収帯だけ特に伸びが鈍化するという。
「頑張って働きすぎると、地獄の納税ゾーンに引っかかる」
今年3月、こんなツイートが一部で話題になった。そのゾーンとは「年収2595万超~2695万以下(所得2400万超~2500万円以下)」。該当する人は限られているだろうが、この範囲では収入が増えても、前後の年収帯と比べて手取り額が増えづらいという。
ざっくりいうと、前後の年収帯では年収が100万円アップすると、手取りは約50万円増える。しかし、このゾーンに入ってしまうと、年収100万円アップでも、手取りが30万円程度しか増えないことがありえる。
いったいどういうことなのだろうか。蝦名和広税理士に聞いた。
●「基礎控除」がなくなるから
――これはどういうことなんでしょうか?
所得税法86条に、基礎控除(所得から控除できる金額)が定められています。
合計所得金額が一定の金額を超えるとこの控除額が減少するため、結果として手取り額が思ったより増えていない、という事は起こります。
――「地獄の納税ゾーン」では具体的にどうなっているんでしょうか?
所得税額を計算する際は、実際の年収から「社会保険料控除」「生命保険料控除」「扶養控除」など様々な控除を行います。そのうちの一つが「基礎控除」です。
基礎控除とは、「個人の収入の内、本人の最低限度の生活を維持するのに必要な部分については課税しない」、という考え方に基づいており、すべての方がこの基礎控除を受けられます。
しかし、個人の所得の額に応じて控除される額が変わるため、ツイートにあるような事態が起こりえます。
具体的には、年収が2595万円の方は48万円の基礎控除が受けられますが、年収2695万円を超える方は基礎控除額が0円になります。
それまで100万円の増収に対して48万円控除されていたものが、控除額が0円になるのですから、当然手取り額の上り幅は減少します。
――「地獄の納税ゾーン」にかかりそうなら、給料を抑えた方が良いのでしょうか?
「節税という観点から考えると、控除を受けられるラインに近い方は、控除を受けた方が所得税額は抑えられます。ただ、手取りが増えないという事ではないので、納税額を抑えることと収入(手取)を増やすことのどちらを優先するか、という考え方になるかと思われます。
基礎控除には、担税力(税負担を担える能力)に即した課税という考え方がありますので、担税力の少ない方=所得の少ない方の税額を少なくする目的があります。
『所得の再分配』という観点からみても、高所得者に対して税負担の軽減効果を及ぼす必要性は乏しいとの指摘もあったことから、基礎控除が段階的に廃止されています」
【取材協力税理士】
蝦名 和広(えびな かずひろ)税理士
特定社会保険労務士・海事代理士・行政書士。北海学園大学経済学部卒業。札幌市西区で開業、税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味はジョギング、一児のパパ。
事務所名 :Aimパートナーズ総合会計事務所
事務所URL:https://office-ebina.com