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「消費税を減税したら、現場で大混乱が起きる」元国税の税理士が語る「複雑地獄」

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「消費税を減税したら、現場で大混乱が起きる」元国税の税理士が語る「複雑地獄」
能渡洋一税理士

新型コロナウイルス感染症による経済の冷え込みに対して、消費税をどうするのかが話題になっています。報道によると、国は減税に否定的ですが、広く国民を支援するには消費減税が最も効果的だと訴える論者も多数います。

一方で消費減税となれば実務上は困難が山積しているという指摘もあります。実務家はどう捉えているのか、国税当局で消費税部門の統括官として勤務した経験のある能渡洋一税理士に聞きました。(ライター・拝田梓)

●ただでさえ軽減税率で複雑になっているのに…

――以前からくすぶっている消費減税という議論が、新型コロナウイルスによる足下の経済状況を見て今再燃していますが、軽減税率を導入し、さらに減税となれば、実務家にとっては大変だという声もあります。

税理士会としては、税率が違う消費税の導入は今も強く反対しています。経理担当、税理士がそう主張するのは、今すでに本則税率と軽減税率で区分しなければならないので苦労して処理しているからです。

実務上、今は仕入の8%と10%、売上の8%と10%が混在しているわけですよ。さらに事務所家賃など年をまたぐ契約では、経過措置で増税前の8%を継続しているようなところもある。

売上だけを管理すれば仕入控除は管理しなくてよい、という簡易課税制度を利用している事業者でも、10%の売上と8%の売上がある場合、分けて申告書を作らないといけない。今でも、簡易課税の申告書は非常に複雑です。

――これにさらに新たな税率が加わると…

現場の経理の負担は多大なものがあるでしょうね。

システムさえしっかりしていれば大変ではないとは思いますが、システムエンジニアが足りるのかと。小売業やファミレスなどでも、全従業員に研修を受けさせなければならない。それで小さな小売店でレジスターがバーコードに対応できていないなどで間違えると、苦情の嵐になるわけでしょう。

話が少し変わりますが、消費税が導入されるまでは消費にかかる税金として物品税というものがありました。これはぜいたく品に課税するという趣旨のもので、家具は課税されるけど桐ダンスは伝統的なものだから課税されないなど、商品ごとに税率を決めているため不合理が多いものでした。

現在の消費税と同じ間接税ですが、消費税と一つ大きな違いがあって、物品税がいくらか消費者が購入する際には知らせる必要がなかったんです。価格に税額は転嫁されているんですが、申告者が分かっていれば良かった。

そして消費税が導入されて物品税が廃止されたわけですが、軽減税率が導入されるとなった際、商品によって税率が変わるということで「また物品税のような段階税率になるのか」というのが実務家の感想でした。

●全部8%に戻そうとしたら、何がおきるか

――全部軽減税率の8%に合わせてしまえば、という意見もあります。

8%に戻せば一緒じゃないかと言われますが、一口で8%と言っても国税と地方税の税率が旧8%の時代と新8%の部分で違います。

現在の消費税は、国税たる消費税と地方消費税とに分かれています。

消費税増税の際にこの地方消費税の取り分が変わり、標準税率(10%)の場合、消費税率は7.8%、地方消費税率は2.2%、軽減税率(8%)は消費税率6.24%、地方消費税率1.76%、さらに増税前(8%)は消費税率6.3%に地方消費税率が1.7%となっています。これらを分けて記帳しているのが現状です。

もし減税となった場合はこの地方税に当たる部分から減らすのか、国税から減らすのか、両方から減らすのか。これを全部計算しないといけないので、非常に担当者泣かせになると思います。議論は簡単ですが、申告上は非常に複雑になるでしょう。

――前回の増税時は乗り切れたわけですよね。

増税時には時間があったから対応できましたが、これを短期間でやるのは非常に難しい。

まだ今回の軽減税率導入の大きな問題が出ていないのは、決算が来ていないからです。

日本で一番多い3月決算の法人の申告が5月末。税務当局は7月に定期異動があり、書類を精査するのがそのあとからです。調査で問題点が指摘されだすまで1年ぐらいかかります。なので、これから2年ぐらいしたら今回の軽減税率の問題点が色々と指摘されだすと思います。

――軽減税率の影響が分かってくるのは今からで、それが分かる前にまた税率を変えるのは国税当局としても大変だと。

税務当局には5万6千人ぐらいしか職員がいませんし、調査しなければいけない法人はたくさんありますし、それが今消費税率減税となると、もう大混乱ですね。ただでさえ軽減税率で経理も税理士も調査立会の職員も大変なところ、さらに何とかするとなると厳しいだろうと思います。小手先でいじると歪みがさまざまに出るでしょうし、やるとなれば、国会等でしっかり検討したうえでやるとは思いますけども。

●消費税を減税せずに、消費者や事業者の支えとなる方法は?

――消費税で今回の新型コロナウイルス対策を行うとしたら、何か良い手はあるのでしょうか。

実務的に一番良いのは、現状の通りに消費税を申告して、申告書の金額から納税額を直接1割なら1割差し引くことでしょう。申告の段階での減税措置となるので消費者に還元されることはないでしょうが、事業者にとっては大変助かるかと思います。今回のことで大変な事業者に対する救済策ですね。

また、今、支払いの電子化を進めるためにキャッシュレス・ポイント還元を政府がやっていますが、これをキャッシュレス化していない事業者にも拡大・延長するというのも考えの一つじゃないでしょうか。

これも、申告を作る側は一度計算して消費税を納めて、減額した分について、国から助成金をもらう、補填を受ける形です。消費税を申告上いじらないでいい。そして、最終消費者が得したなという感覚がある。

ただ今までは事前審査を受けた企業だけが利用できていたわけですが、キャッシュレスに関係なく申告書を出した企業が還付を受けるとなると、ポイント還元という手段は取れず企業の独自性に任せる形になるので消費者にきちんと還元されるか難しいでしょうね。

【プロフィール】
能渡洋一(のわたり・よういち) 能渡洋一税理士事務所所長。東京国税局採用後、特別国税調査官として公益法人、消費税部門の統括官として高額な還付申告審査、都内中心署で印紙税の質疑などに数多く対応。現在東京税理士会京橋支部登録の税理士及び一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/member)の主任研究員として活躍中。

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