ビッグモーター経営破綻でも「資産管理会社」を隠れ蓑に逃げ切り?兼重父子に責任追求できる可能性は
税金・お金

連日ニュースを賑わせている、中古車販売大手のビッグモーター。自動車保険の保険金不正請求に端を発し、顧客車両の破損、店舗前の街路樹へ除草剤散布など、問題が次々発覚し、騒動は収まる気配がない。すでに国土交通省や金融庁などが調査に乗り出す事態となっている。
ビッグモーターは直近で300億円以上の現預金があるとのことで、すぐに資金繰りに苦しむ状況ではないものの、顧客離れによる業績悪化は避けられない状況といえるだろう。
問題発覚後の記者会見で、兼重宏行(かねしげ ひろゆき)社長(当時)は経営陣の関与を否定した上で、不祥事の責任を取り、息子の兼重宏一副社長とともに同社辞任を発表。だが、ビッグモーター退任後も、未上場企業である同社の株式100%を保有する資産管理会社ビッグアセットの経営陣として名を連ねている(※)という。
資産管理会社を設立するとどのようなメリットがあるのだろうか。また今後ビッグモーターが経営破綻した場合、前経営陣の経営責任はどうなるのか、上仲 孝明税理士に聞いた。
●富裕層は資産管理会社を設立すると税金面で有利
——資産管理会社を設立するケースとしては、個人の資産家であったり、会社員で副業や資産運用をしている場合などさまざまありますが、本件のように法人経営者が資産管理会社を設立すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
「資産管理会社は一般的に、不動産や株式を保有し、不動産賃貸による賃料収入や株式の配当収入を得ることを目的とする会社です。
所得税は所得が多いほど税率が高くなる“超過累進課税”であるのに対し、法人税は“税率が一定”です。そのため、法人経営者などの富裕層は資産管理会社を設立した方が、税金の面で有利になるケースが多くなります。」
——ビッグモーター株を100%保有する資産管理会社が、同社に与える経営的な影響をお教えください。
「株式会社の経営者は、株主から会社経営を委任されて職務を行っています。そのため、ビッグモーターの株主であるビッグアセットは、株主総会を通じて役員の選任など経営に参加することができます。
ビッグモーターの役員が変わったとしても、株主がビッグアセットのままであるため、ビッグモーターに対する経営上の影響力は残ることになります。」
●債務保証をしていれば責任を負わせることもできるが…
——兼重前社長と前副社長はビッグモーターの経営者から辞任していますが、もしビッグモーターが経営破綻に陥った場合、どのような責任が生じるのでしょうか?
「株式会社は出資の範囲で責任を負うものの、債務に対しては責任を負わない“有限責任”となっています。ビッグモーターとビッグアセットは別会社であるため、ビッグモーターが経営破綻に陥ったとしても、株主であるビッグアセットがビッグモーターの債務を負うことは原則としてありません。
ただし、兼重父子やビッグアセットが債務保証をしている場合は状況が異なります。会社が金融機関から融資を受ける場合に、社長を保証人とするように求められる場合があります。会社が経営破綻したため借入金の返済ができないとき、社長は金融機関から保証債務の履行を求められます。
兼重父子が債務保証に応じていた場合、ビッグモーターの経営破綻時には、個人で保有する土地や建物を売却するなどして債務の返済に充てることとなります。ビッグアセットが債務保証をしている場合には、ビッグアセットが保有する財産を返済に充てることとなるため、ビッグアセットの株主である兼重父子は実質的に財産を失うことになります。
第三者の視点から正確な判断はできませんが、債務保証が無い場合には、兼重父子やビッグアセットに責任を負わせることは難しいでしょう。」
※ビッグアセットの経営陣については、これまでに報道されている情報に基づいた上での仮定
【取材協力税理士】
上仲 孝明(うえなか・たかあき)税理士
みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)、KPMG税理士法人等を経て開業。個人事業主、営利法人、公益法人等の税務顧問等を行っている。常にお客様の立場に立って考え、長期的な視点で寄り添うパートナーを目指して活動している。
事務所名 : 上仲パートナーズ税理士事務所
事務所URL:https://upz.jp