夫婦に万が一のことがあると住宅ローンの債務がゼロに?「ペアローン連生団信」の落とし穴を税理士が解説
税金・お金

首都圏の住宅価格の高騰が止まらない中、共働きの夫婦が借入額を増やすため、ペアローンを組むケースが増えている。
ペアローンとは、夫婦それぞれが債務者となり、お互いを連帯保証人とする住宅ローンのこと。それぞれの契約で団体信用生命保険(団信)に加入し、債務者が死亡または高度障害状態になった場合には、残りのローンを保険金で精算するというしくみだ。
たとえばローン残高が夫4,000万円、妻が2,000万円だった場合、夫が亡くなると夫のローン残高4,000万円はゼロに、妻の残高2,000万円はそのまま残ることになる。
この団信に、どちらか一方に万が一のことがあった際に、夫・妻両方のローン残高がゼロになる「連生団信」が続々登場している。
亡くなったのが夫でも、妻の分のローン残高もゼロになり、以後の返済の必要がなくなるのは魅力的だが、デメリットもあるので注意が必要だ。
●消滅した債務が一時所得の対象になる可能性がある
ペアローン連生団信の注意点は以下のとおりだ。
<1>住宅ローン金利に一定の上乗せが必要なケースが一般的
<2>債務者の一方に万が一のことがあった際、被保険者2名分の保険金が支払われた(ローン残高がゼロになった)場合、免責事由に該当しない被保険者が免除された債務は「一時所得」の対象となる可能性がある
もしもの場合は、被保険者2名分の保険金が支払われるため、金利の上乗せはやむを得ないと考えられる。一方で、免除された債務が「一時所得」の対象となる場合、税金はどうなるのだろうか。小林拓未税理士に聞いた。
●2,000万円のローン残高が免除されると約220万円の所得税が発生
ーー連生団信により、免責事由に該当しない被保険者が免除された債務が「一時所得」の対象となった場合、所得税はいくらかかるのでしょうか。
「それでは、以下の条件で、妻の所得税がいくらかかるかシミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
・ペアローンで連生団信に加入。ローン残高は夫4,000万円、妻2,000万円
・夫が亡くなり、それぞれのローン残高がゼロになった場合(妻の給与所得は400万円、特別な控除や経費などはないものと仮定)
※令和6年分の税制に基づき計算(定額減税を除く)
<所得金額>
・一時所得:(免除された債務2,000万円-特別控除額50万円)✕1/2=975万円
・給与所得:400万円-(給与所得控除400万円✕20%+44万円)=276万円
└合計所得金額:一時所得975万円+給与所得276万円=1,251万円
<控除される金額>
・社会保険料控除:給与所得の14%程度と仮定=56万円
・基礎控除:48万円
<税額の計算>
・(合計所得金額1,251万円-社会保険料控除56万円-基礎控除48万円)✕33%-153.6万円=224.91万円
上記金額に、復興特別所得税2.1%分(4.723万円)を加え、合計229.63万円(百円未満切捨)
債務が免除されなかった場合の税額は、8.78万円なので、その差は220万円以上になります。妻のローン残高自体はなくなりますが、一時所得の影響はかなり大きいと言えます。」
●iDeCoやふるさと納税の活用で所得控除を増やす対策を
ーーペアローンで連生団信を組む際の注意点や、こうしたケースに該当して一時所得が発生した際の対策があればお教えください。
「たとえば2,000万円の債務が免除されたということは、『2,000万円の利益を得て、その利益で債務を返済した』ということになるため、基本的に課税の対象になるということを理解しておく必要があるでしょう。
特に今回のケースは、給与所得+一時所得のある個人であるため、経費になるものがほとんどありません。よってiDeCoを始める、ふるさと納税を限度いっぱいまで行うなど、所得控除を増やすなどの対策が精一杯ではないでしょうか。」
【取材協力税理士】
小林 拓未(こばやし たくみ)税理士
2017年東京都中央区にて開業。「専門家として、長期的な視点で顧問先の発展に尽力する」ことを経営理念に掲げる。2018年から社会保険労務士業務開始。横浜支店と葛飾支店、津田沼支店を開設し、業務拡大中。
事務所名 :税理士法人石川小林
事務所URL:https://www.ktaxac.com