軽減税率の影で葬り去られた「代案」 専門家「適用求める新聞が議論ゆがめた」 - 税理士ドットコム

税理士の無料紹介サービス24時間受付

05075861865

  1. 税理士ドットコム
  2. 税金・お金
  3. 軽減税率の影で葬り去られた「代案」 専門家「適用求める新聞が議論ゆがめた」

軽減税率の影で葬り去られた「代案」 専門家「適用求める新聞が議論ゆがめた」

税金・お金

軽減税率の影で葬り去られた「代案」 専門家「適用求める新聞が議論ゆがめた」
軽減税率について触れた読売新聞の記事(2015年9月16日付)

消費税が10%に引き上げられたことに伴い、軽減税率制度が導入されました。飲食料品と新聞が対象ですが、線引きが複雑で、事業者や消費者の間で「分かりにくい」という声が上がっています。この軽減税率制度に「代案」があったことを知っていますか。所得が低い人には減税し、給付金を支給する「給付付き税額控除」という制度です。民主党政権時代に成立した法律にも、低所得者の負担を軽減する逆進性対策として明記されていたのに、お蔵入りになりました。それはなぜでしょうか。(ライター・国分瑠衣子)

●3党合意で法律にも明記

軽減税率の対象品目が正式に決まったのは、2015年12月です。自民、公明の与党が「外食と酒類を除く飲食料品」と、「定期購読契約が締結された週2回以上発行の新聞」とすることで正式合意しました。2016年度の税制改正大綱に盛り込まれました。大学教授や弁護士など税の専門家でつくる民間税制調査会が「軽減税率では消費税の逆進性は解消されない」と反対するなど、各所から否定的な声が上がっていましたが、方針は変わりませんでした。

所得税は所得が多い人ほど税率が高くなりますが、消費税は一律(現在は10%)のため所得が少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」があるとされています。逆進性の緩和策として軽減税率制度を含む、複数の案が検討されてきました。軽減税率や給付付き税額控除が、検討の対象に上がったのは自民、公明が政権を奪還する前、民主党政権時代の2012年にさかのぼります。税と社会保障の一体改革に関して、自民、民主、公明の3党は、消費税率の10%への引き上げと、引き上げ分を財源にした社会保障の充実などで合意しました。これに基づいた税制抜本改革法第7条では、消費増税と組み合わせる施策として、低所得者対策について検討し、必要な措置を講じるよう求めています。

具体的には消費増税の負担軽減策として①総合合算制度②給付付き税額控除③複数税率――の3つを検討し、これらの制度が導入されるまでの暫定措置として「簡素な給付措置(臨時福祉給付金)」でつなぐというものでした。①の総合合算制度とは医療や介護、障害者支援などの自己負担の合計額について、所得に応じた上限を設定すること③の複数税率は軽減税率のことです。

●給付付き税額控除は、低所得者に現金給付

給付付き税額控除とは、納める税金から一定額を控除する減税で、課税する額より控除額が大きい場合は、差額を現金で給付する仕組みです。低所得者に有効とされています。例えば納税額が13万円の人に18万円の給付付き税額控除を行う場合は、差額の5万円を現金で給付します。社会保障給付と税額控除が一体になったもので、日本では2000年代に入ってから議論が始まったとされています。

海外に目を向けると、給付付き税額控除は、欧米などで導入されています。大蔵省(現・財務省)で主税局総務課長などを歴任し、消費税に詳しい東京財団政策研究所の森信茂樹・研究主幹は「カナダの給付付き税額控除がヒントになる」と話します。

カナダの制度は、日本の消費税にあたる付加価値税(GST)が導入された時に、低所得者の負担を軽減するために始まりました。カナダ歳入庁のホームページによると、世帯収入が一定水準に満たない場合、年間で大人1人あたり290カナダドル(11月28日現在で1カナダドル=82.37円)、19歳未満の子どもには153カナダドルが家族の人数に応じて給付されます。所得税を申告する時に申請を行い、審査に通れば納税者の口座に給付額が振り込まれます。

日本では、国が国民の所得を把握する手段がないため「給付付き税額控除は不正受給につながる」と懸念されていましたが、マイナンバーカードを活用すれば、所得を正確に把握できるのでこの問題は解消されます。

●読売新聞、「給付案」に反対

本来なら軽減税率と給付付き税額控除は双方のメリット、デメリットを検証し、どちらの制度にするか決めなければなりません。

ただ、当時の新聞各紙の主張を読むと、給付付き税額控除に反論する論調が目立ちます。

読売新聞は、2015年9月16日付朝刊で「軽減税率の優位 鮮明」の見出しで、与党税制協議会が消費税を10%に引き上げた時の負担緩和策の検討に入ったとのニュースを報じました。その記事で「公平性や制度設計の容易さといった観点で比較すると、軽減税率の優位性は鮮明だ」と主張しています。

給付付き税額控除については「消費税率は変わらず、減税や給付は一定期間後となり、買い物時の負担感は大きい」と指摘しました。また、世帯ごとの所得に応じて減税や給付を行うため、所得の正確な把握が前提で、日本は世帯単位の所得を把握する制度が整っていないことを理由に反対しています。

2015年12月20日付の社説では「(給付付き税額控除は)軽減税率に比べて分かりにくく、消費者の痛税感も緩和されないのではないか」「所得を正確に捕捉できなければ不正受給の恐れもある」と、給付付き税額控除に反対の考えを示しています。

また、新聞自らへの軽減税率適用についても言及しています。新聞よりも水道や電気が必需品だという指摘に対しては「民主主義や活字文化を支える重要な公共財である新聞や出版物に対する理解を欠いていると言わざるを得ない」と主張しました。

新聞業界は、以前から軽減税率の対象に新聞を含めることを要望してきました。専門家からは「軽減税率の対象に入りたいから、給付付き税額控除を積極的に論じなかったのでは」という声が上がっています。純粋に給付付き税額控除の方が問題が多いから見送るべきだ、というのであれば理解できるのですが、新聞自身の利害が絡んでいるため、どうしても「思惑」があるように見えてしまいます。

毎日新聞も社説で「軽減税率 導入に向け詰め急げ」(2013年1月25日付)の見出しで、「軽減税率は低所得者対策としてもっとも分かりやすいやり方」と、軽減税率導入に賛成の論調でした。また、別の記事ではフランスでは行政機関などの専門家による委員会で、どの活字メディアを軽減税率の対象にするかを審査している事例を挙げました。その上で「わが国なら日本新聞協会の新聞倫理綱領を掲げるものとするのも一法である」と述べています。

●「与党は公平な負担と給付の議論を放棄」朝日が指摘

一方、「議論が不十分」と主張した記事もありました。朝日新聞は2015年11月22日付の社説で、給付付き税額控除を取り上げ「与党は検討を始めるそぶりも見せない」「どんな制度が負担と給付の観点から公平なのか。根本から考える絶好の機会を、与党は自ら放棄している」と、議論の深掘りを求めました。

しかし、その後も活発な議論には至らず、政治の場面では軽減税率制度を支持する流れは変わりませんでした。総合合算制度も軽減税率による減収分を補てんするために見送られました。

東京財団政策研究所の森信研究主幹は、軽減税率導入で与党が正式合意した後の、2016年2月29日に開かれた衆議院・財務金融委員会の参考人質疑でこう述べています。

「消費税改革法の選択肢である給付付き税額控除とメリット、デメリットを比較しながら議論することが本来の在り方だと思います。しかし、今回行われてきた議論は軽減税率導入賛成か、反対かだけでした。このような議論に終始したことの責任の一端は新聞の報道ぶりに問題があると考えています。

新聞業界はみずから新聞への軽減税率の適用を与党に長年要望してきました。したがって、軽減税率の代替案である給付付き税額控除についてのメリット、デメリットなどを議論する機会はほとんどありませんでした。その報道は公平、中立なものからはかけ離れていたと思います」

日本は今後、社会保障費の急増が見込まれ、消費税は10%以上に引き上げられると予測する専門家は少なくありません。給付付き税額控除は、今年7月に投開票された参院選の公約に掲げる党もありました。既に軽減税率は始まっていますが、本当に今の制度でいいのか、議論を続けることは大事ではないでしょうか。

税金・お金の他のトピックスを見る

新着記事

もっと見る

公式アカウント

その日配信した記事やおすすめなニュースなどを、ツイッターなどでつぶやきます。

協力税理士募集中!

税理士ドットコムはコンテンツの執筆・編集・監修・寄稿などにご協力いただける方を募集しています。

募集概要を見る

ライター募集中!

税理士ドットコムはライターを募集しています。

募集概要を見る

「税理士ドットコム」を名乗る業者にご注意ください!