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ゆるいコロナ対策が話題のスウェーデン、税財政にみる「政府と国民」との信頼関係

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ゆるいコロナ対策が話題のスウェーデン、税財政にみる「政府と国民」との信頼関係
ストックホルムの旧市街(c6210 / PIXTA)

スウェーデンによる独自の新型コロナウイルス感染症対策が、国際舞台で大きなニュースになっています。いわゆる都市封鎖をせず経済活動を維持し、集団免疫の獲得を目指すというものです。

多くのニュースでは、個人主義が政策実施を可能にしていると解説されています。しかしながらスウェーデンは、歳出対GDP比で見ると世界で最も“大きな政府“を保持する国であり、個人主義といえど政府の存在が前提です。そこでこの記事では、税制や財政の面からスウェーデンのしくみを考え、独自政策を分析してみたいと思います。(ライター・ワタナベマリア)

●GDPの4割以上が税収、他国を上回る高負担

スウェーデンにおいて、国内総生産(GDP)に占める税収の割合は43.9%です。これはOECD加盟国の中で第4位であり、OECD平均の34.4%、日本の31.4%、イギリスの33.5%、アメリカの24.3%等を大きく上回っています。(参照:Revenue Statistics 2019, OECD。各国の指標は2018年暫定値、日本は2017年の指標)。

国内総生産の半分弱が税収というのは大変大きく感じられますが、スウェーデンにおける税制はとても合理的に設計されています。

対法人では、社会保障税の雇用者負担分を極めて高くする代わりに(税率31.42%)、法人税率はそれ程高くありません(税率21.4%)。対個人では、個人所得税率が高い代わりに(最高税率57.2%)、社会保障税の被雇用者負担分は低く (税率7%)ほぼ雇用者によって負担されるように設計されています。

また、かつて存在した相続税や富裕税は、高所得者や資産家の国外流出を抑えるために廃止されています。潜在的な高額納税者を国内に留まらせるための政策としては、日本が採った手段(相続税率の引き上げ、海外移転に対しての引き締め等)とアプローチが正反対です。

●所得分配後のジニ係数は低く、格差が小さい

個人所得税制を掘り下げて見てみます。スウェーデンにおいて、所得税は国と地方自治体との二段階で徴収されます。地方自治体の所得税は区域により異なるものの平均32%前後で賦課されます。

いっぽう国の所得税率は20%ですが、年収が約540万円を超える場合にのみ納税義務が生じるため、実は多くの市民は負担していません(スウェーデンにおける個人の年間平均収入は約400万円、参照:Statistics Sweden)。

これは富の再分配に有効であり、何段階もの累進税率を構えるよりも簡素で合理的です。格差を示すジニ係数というものを見てみると(1に近いほど格差があり、0に近いほど格差が無い)、スウェーデンの所得分配後、つまり租税や社会保障等を考慮した後のジニ係数は0.28と大変低くなっています。因みに、過去“1憶総中流”と揶揄されていた日本の所得分配後ジニ係数は、現在0.37前後で推移しています。格差社会の代表格であるアメリカ合衆国の所得分配後ジニ係数は0.4前後です。

画像タイトル ストックホルムの旧市街(Ryhor Bruyeu / PIXTA)

●キャピタルゲインへの税率は相対的に高い

個人所得税制の中の、特にキャピタルゲインに関する税制について見てみます。キャピタルゲインは株式や不動産等の売却から生じる売却益が代表例ですが、多くの国において、それらへ適用される税率は勤労所得への税率より低く設定されています。

例えば日本でも、株式等の譲渡益へは所得税15%、住民税5%と低い比例税率が適用されます。香港やシンガポール等の低税率国においては、キャピタルゲイン税自体存在しません。これは投資を奨励する効果がある一方で、不労所得で生計を立てる資産家等が低い税率の恩恵を享受する等、問題視されることも少なくありません。

そんな中、スウェーデンにおいてはキャピタルゲインへの税率が30%と相対的に高く設定されており、これも富の再分配に寄与しているのかもしれません。資産家の視点に立つと、その代わり相続税や富裕税が無いという飴鞭政策になっています。

●付加価値税は高いが、低減税率が設定されている

次に付加価値税(日本でいうところの消費税)について見てみます。ヨーロッパ諸国は付加価値税の税率の高さが有名ですが、スウェーデンも例外ではありません。スウェーデンにおける付加価値税の標準税率は25%です。しかし実際には12%、6%、0%の低減税率を設定し、市民生活で消費するモノ・サービスの多くを低減税率に含むよう設計しています。

例えば12%の低減税率には飲食料品だけでなく、レストランやケータリングサービス、靴、革製品、衣服、家庭用リネン、ホテル宿泊費、アート品等が広く含まれ、6%税率には交通費、書籍、新聞、文化・スポーツイベント等の入場料が含まれ、0%税率には処方薬とNPOの活動のための諸経費が含まれます(参照:VAT rates applied in Member States of the European Union, EC)。これらを踏まえると、日常生活を送る上での消費はほぼ低減税率の対象となり、付加価値税は日本よりも少し高い程度の肌感でしょう。

画像タイトル スウェーデンのオーロラ(ズッペ先生 / PIXTA)

●スウェーデンの財政:法人税が小さく見えるが、法人の負担が軽いわけではない

税制の細かな部分に触れましたが、国の税収構造も見てみましょう。税収は大きいものから個人所得税29.9%、付加価値税を含む間接税27.8%、社会保障税21.8%、法人税6.3%、固定資産税2.2%、その他11.9%の構成となっています。

法人税の占める割合が大変小さく感じられますが、既述のとおり社会保障税の主な負担者は雇用者つまり法人であるため、決して法人に対する租税が軽いわけではありません。むしろ法人は莫大な人件費コストを抱えますが、その一方で従業員への厚生は国から提供されるため、日本企業のような福利厚生費の負担がありません。

上記の税目を原資として、高福祉国家が成り立っています。歳出の構成は大きいものから順に社会保険給付が39%、教育、医療、公務員の人件費等がそれぞれ約14%、経済政策が9%、文化・スポーツと警察が3%、防衛が2%、環境対策と公営住宅がそれぞれ1%という構成です(参照:General Government Spending, OECD Data)。

約4割を占める社会保険給付ですが、出産手当、育児手当、児童手当、失業手当、傷病手当、年金受給者住宅手当、高齢者生計費補助等数えきれない現金給付が存在しています。また20歳未満は医療無料や大学まで学費無償等、高福祉と呼ばれるあらゆる制度が整備されています。

なお日本に国、都道府県、市町村があるように、スウェーデンにおいても国、ランスティング、コミューンがそれぞれの規模で行政サービスを提供しています。しかしスウェーデンの人口が東京都よりも少ない1000万人程度であることを鑑みると、その規模を三段階の政府で舵取りしている点は、とても特徴的に思えます。

具体的には、現金給付や年金事務は国が、医療サービスは中規模のランスティングが、介護サービスは小規模のコミューンが予算から執行まで一任しています。既述のとおり地方政府は所得税の主な課税主体です(スウェーデンにおいて国への所得税はごく一部の高所得者しか納税しない)ので、医療や介護の分野で独自の政策を取る固有の財源があり、政策実現のため国へ忖度する必要が無いのです。

画像タイトル moovstock / PIXTA

●国の政策に対する信頼感が高い

スウェーデンの税制を見ると、法人と個人への租税がバランスよく配分されていることが分かりました。飴鞭をうまく織り交ぜ、偏った負担が無い租税になっています。また課税主体に着目すると、付加価値税は国への財源に、所得課税は地方政府の財源になっていることが特徴的です。財政を見ると、国が社会保険給付を手厚く行ういっぽう、地方政府には独自の財源で医療・介護サービスを行う能力があることが分かりました。

国の給付する手厚い社会保険給付や合理的な税制に対する国民の反応は好意的です。国の政策への関心も高く、投票率は85%前後を推移しています。国民の主体的な政治参加は政策実施を容易にしており、今回の新型コロナウイルス感染症への対策方針についても、国民は政府への信頼を口々にしています。

ちなみに、先ほど年金受給者住宅手当や高齢者生計費補助について紹介しましたが、これは半数以上が単身世帯であるという非常にユニークな背景が寄与しています。補助が手厚いから一人暮らしが可能であるのか、または逆の矢印なのかは定かではありません。しかしこの事実は、一連の新型コロナウイルス感染症対策において“ソーシャル・ディスタンシング”を自然と可能にしたと言われています。

●政府と国民の信頼関係で、独自政策は成功できるか

地方政府の財源で行う医療サービスも、新型コロナウイルス感染症対策に優位に働きました。スウェーデンは人口10万人当たりの病院ベッド数が260床、ICUベッド数は5.8床であり、EU平均(560床、ICUは11.5床)を大きく下回っていました(参照:Hospital beds (per 1,000 people), The World Bank Data)。

少ないベッド数はプライマリ・ケアの浸透が進んでいることや、介護行政との切り分けが明確なため老人が病院に不要に留まらないこと等が理由として考えられます。しかし今回の世界的パンデミックを受け、スウェーデンではICUベッド数を倍近くまで増やすことに成功したという現地在住の医師のインタビューがありました(参照:Forbs Japan、2020/5/7記事)。地方のニーズに合わせて迅速に資金配分が出来るのは、予算から実施までを地方政府が管轄しているからではないでしょうか。

スウェーデンの独自政策が成功するかは未だ不明です。国内では批判の声が上がっているという情報もあります。しかし、確実に分かることは、マスコミや世論が政策批判に走り、本来の目的を見失うという状況には陥っていないことです。感染症対策はどれも手探りである中、国全体が一丸となって戦うためにも、日頃から両者の信頼関係を築くにはどのような社会制度が好ましいか、スウェーデンから学ぶ側面があるかもしれません。総括は、偏った負担を強いることのない飴鞭税制というところでしょう。

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