「総務省の違法な関与は地方自治の根幹を揺るがす大問題」泉佐野市ふるさと納税訴訟、市長が高裁判決取り消し訴え
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総務省と大阪府泉佐野市の2年にわたるバトルがクライマックスを迎えた。総務省がふるさと納税制度の対象自治体から泉佐野市を除外したのは違法だとして、同市が取り消しを求めた行政訴訟で、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は6月2日、双方の意見を聞く弁論を開いた。同日結審し、6月30日に判決が言い渡される。
1月の大阪高裁判決は、同市の主張を全面的に退けたが、この判決が見直される可能性もある。弁論後に行った記者会見で、同市の千代松大耕市長は「大阪高裁の判決は、国が好き勝手に法を解釈し、運用することに裁判所がお墨付きを与えてしまったようなもの。最高裁でしっかりと見極めてほしい」と訴えた。(ライター・国分瑠衣子)
●コロナで大きな経済的影響「ふるさと納税が活用できれば…」
「新型コロナウイルスの感染拡大で、泉佐野市も経済活動に大きな影響を受けている。他の自治体はふるさと納税で地元の産業を支援する施策に取り組んでいる。『もし、ふるさと納税が活用できれば』と考えることが幾度となくあり、悔しい思いだ」。結審後、東京都内で開かれた泉佐野市の記者会見の冒頭、千代松市長はこう吐露した。
訴訟の主な争点は、過度な返礼品を出すことを禁止した改正地方税法が施行する前の実績を基に、泉佐野市をふるさと納税制度から除外できるのかだ。1月の大阪高裁の判決は、過度な返礼品競争などの経緯を踏まえると、過去の実績を考慮し参加自治体を指定するのは「総務相の裁量の範囲内」と認めた。
この判決に対し、千代松市長は「総務相に白紙委任と言ってもいいような広範な裁量を認めており、行政に対するチェック機能を司法自らが放棄してしまったに等しい」と憤る。
●「地場産品縛り」の解消を何度も国に要望
居住地以外の自治体に寄付をすると、2千円を超えた分が所得税や住民税から控除される「ふるさと納税制度」は2008年度に始まった。各自治体は多くの寄付金を獲得しようと、ブランド牛や高級海産物、電化製品などを返礼品として扱い、寄付を募るようになった。特に「牛肉・カニ・コメ」は「三種の神器」とも呼ばれ、ふるさと納税で全国の自治体が集めた寄付金は、制度が始まった08年度の8億円から2018年度には5127億円にまで急増した。
この返礼品競争を総務省は「本来の制度の趣旨が忘れられている」と問題視し、17年4月に返礼品は寄付額の3割以下にするよう各自治体に要請。さらに翌18年4月には「返礼品は地場産品に限るように」と要請した。
泉佐野市は「調達率3割は守るが、地場産品の規制は特産品資源の豊富な自治体と、そうでない自治体に格差が生じる」として、地場産品に限るという規制を取り下げるよう何度も国に要望してきた。同市が総務省に送った回答書には、ブランド和牛やカニなどの高級海産物といった特産品に乏しい自治体が、知恵を絞った結果、さまざまな返礼品がそろったとし「地方の汗と涙の結晶だ」と指摘した。しかし、総務省は同市の要望に応じず、議論は平行線をたどった。
総務省の要請は法的拘束力がない「技術的指導」のため、泉佐野市は鹿児島のウナギや長野のクラフトビールの返礼品や、キャンペーンの特典としてアマゾンギフト券のポイント付与で、18年度の寄付額は497億円と全国でトップに躍り出た。関西国際空港に拠点を置くLCC(格安航空会社)のピーチ・アビエーションの航空券購入に使えるポイントも付与した。同市は「『ピーチポイント』でピーチ・アビエーションの就航路線が増え、街の活性化につながった」と説明する。
業を煮やした総務省は19年6月施行の改正地方税法で、総務相の指定を受けた自治体だけがふるさと納税制度を使えるようにした。泉佐野市も申請したが、総務省は同市を含む4自治体を新しいふるさと納税制度から除外した。
●アマゾンギフト券は返礼品ではない
同市市長公室の阪上博則・成長戦略担当理事は大阪高裁の判決を「返礼品の還元割合が極めて高い、換金性が高いという点など事実誤認で根拠がない部分が多い。総務省が持っている泉佐野市の情報が正確ではない」と反論する。泉佐野市の返礼品で換金性が高いものはアマゾンギフト券とピーチポイントだが、阪上理事は「アマゾンポイントはキャンペーンの特典として付与したもので、単独の返礼品ではない。ピーチポイントは換金できない」と説明した。
千代松市長は「総務省の自治体への違法な関与は地方自治の根幹を揺るがす大きな問題と考えている」と訴える。国側は「寄付金募集を適正なものにするため、過去の取り組み実績も審査基準に含まれるべき」と主張する。最高裁は通常、結論を変更する際に弁論を開く。総務省と泉佐野市のバトルは6月30日に決着がつく。