元国税局職員の芸人による税務調査体験談「競走馬の売買と“期ずれ”」

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元国税局職員の芸人による税務調査体験談「競走馬の売買と“期ずれ”」

著者: 倉田 健一 芸人

元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな調査は「内観調査」です。税務調査で確定申告の内容に誤りが認められた場合、修正申告書を提出するように促されます。納得いかなければ提出しないという選択もありますが、「更正」をされて、勝手に税額を確定されてしまいます。

税務署との見解に差異が生じた「売上の計上時期」

Aさんは、牧畜業を行う法人Bの代表者で、法人の所得は毎年100億円ほどでした。あるとき税務調査が入り、申告内容について争うこととなりました。

問題となったのは一点だけで、B社が売却した競走馬についてでした。競走馬の価格はおよそ2000万円で、決済は約束手形10枚で行われました。「約束手形」を銀行に持っていくと、額面のお金が受け取れます。手形を振り出すことによって、馬を買った人は今すぐではなく支払期日までに代金を用意すればよいわけです。もし、用意できなければ「不渡り」となります。

今回の取引では手形は無事に決済されていました。しかし、この手形の支払期日を根拠に算出された売上の計上時期を巡って税務署と見解が一致しなかったのです。

一般的に、売上の計上は収益の計上基準となる商品の引渡しの時期とされています。国税庁の通達でも、棚卸資産の販売による収益の帰属の時期として(このケースでは棚卸資産=競走馬)、「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する」としています。

棚卸資産の引渡しの日の判定については、「棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、たとえば出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日など、棚卸資産の種類及び性質、契約の内容に応じ合理的であると認められる日のうち継続して行うこととしている日」としています(一部抜粋)。

つまり、商品の引渡しの時期とはいつかというと、請求基準とか検収基準とかいろいろありますが、それらを継続して採用しなければいけません。取引によってころころ基準を変えてはいけないわけです。今回B社では、10枚目の手形の支払期日に代金の支払いがすべて完了したとして、売上を計上していました。これは、契約書上の馬の引渡し日の1年後となります。

「競走馬」の販売による売上はいつ計上されるべきか

売上の計上は、決算期をまたがなければ納税額に影響がないので問題とされませんが、このような場合、いわゆる「期ズレ」として指摘されてしまいます。納税というコストを繰り延べできるわけですから、売上を翌期で処理するようなことが恣意的に度々行われます。

税務署は、売買契約において「馬の引渡日が10月末日」と定められているので、その日に売上を計上すべきであると主張しました。また、約束手形も、支払期日は未到来ですが、手形自体は受け取っているので、売上として計上すべき、と主張しました。この主張は間違っていないように思います。一般的な取引であれば、それは正しい考え方と言えるからです。しかし、これらの税務署の主張は認められず、B社の会計処理が認められました。これは、なかなかに珍しい。

B社は以前、馬の売買の収益計上基準に関し、「最終代金を受けとった時に馬の引渡しを完了したものとし、この時をもって収益計上時期とする」と記載した念書を税務署に提出していました。そして、これ以外の競走馬の取引においても、最終代金を受領した日に売上として計上しています。事前に今回のような処理をすることを伝えていて、かつ、それを継続的に実施していたのです。

さらに、競走馬の売買においては、その代金の完済まで馬の引渡しをしないのが業界の慣習です。代金は約束手形で支払い、その最終の手形期日に引渡しがあったものとするのもこの業界では一般的な処理でした。

業界の慣例が優先されるケースも

法人税法では、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする、と規定されています。このケースは、競走馬の売買の収益計上時期については、現実の引渡しにより物理的な移動を伴う一般的な商品の売買とは異なり、馬の売買後も引き続き売主の管理の下に飼育・調教が行われることがあり、収益計上基準については、業界の取引慣行や成育状況に照らして妥当性があって、継続してこれに基づく会計処理が行われていれば、その収益計上基準は公正妥当なものとなる、と判断されました。

B社は同じ会計処理を継続していますし、競走馬売買の業界では、買主の引渡し後の代金支払拒否を担保するために、代金の受領後に馬の引渡しを行うことが慣例となっていて、そちらの面でも妥当と考えられます。

B社は、競走馬の売買において、書類を改ざんし、あるいは、架空の取引を捏造した事実もなく、あくまで引渡し日をいつにするかという考え方の問題で起こった事案でした。ただ、恣意的に引渡し日を操作する法人・個人は散見されますし、単純無知による処理の誤りもあります。国税局も税務署も、常にその点は留意していて、税務調査の指摘事項の主菜となっています。

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