退職金という「ニンジン」ぶら下げて勤続20年超えを優遇…時代にあった税制なのか - 税理士ドットコム

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退職金という「ニンジン」ぶら下げて勤続20年超えを優遇…時代にあった税制なのか

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退職金という「ニンジン」ぶら下げて勤続20年超えを優遇…時代にあった税制なのか
いらすとや

自民党税制調査会の甘利明会長は、10月の新聞社からのインタビューで、退職所得への課税が終身雇用を前提としており、転職者と非転職者で大きな手取りの格差が生じているとして、2020年度税制改正で所得税の見直しを議論する考えを示していました。

しかし、2019年12月12日に決定された「令和2年度税制改正大綱」では、退職金課税の改正は見送られ、企業の内部留保を放出させるため、ベンチャー企業投資や「5G」通信網整備を促すための税制などが盛り込まれました。優先順位的に、今は、退職所得の不均衡解消よりも景気回復のための投資促進税制の方が大事という判断なのでしょう。

ただ、今回の大綱にも、退職金にかかる税制について課題があることは明記されており、改善について考える必要があるとしています。そこで、今回は近い将来改正が見込まれる退職金課税(所得税)について、どのような問題があるのかについて考察したいと思います。(ライター・メタルスライム)

●退職金課税の仕組み

現行の所得税は、所得を「利子所得」、「配当所得」、「不動産所得」、「事業所得」、「給与所得」、「退職所得」、「山林所得」、「譲渡所得」、「一時所得」、「雑所得」の10種類に区分しています。

では、「退職金」がどの所得に該当するかですが、受け取り方によって所得の区分が変わります。退職時に退職金を「一時金」で受け取った場合は「退職所得」になり、「年金」で受け取った場合は「雑所得」となります。

【退職所得の課税方法】
退職所得の金額は、退職金額から退職所得控除額を控除して、その2分の1の額となります。算式で表すと次のようになります。

 退職所得の金額 =(収入金額−退職所得控除額)×1/2

退職所得控除の額は、次の計算により求めます。
○ 勤続年数が20年以下の場合
  40万円×勤続年数(最低 80 万円)
○ 勤続年数が20年を超える場合
  800万円+70万円×(勤続年数−20年)

退職所得は、他の所得とは合算されず、「分離課税」となっているため、退職所得の金額に所得税率を掛けて所得税額算出します。

【雑所得の課税方法】
退職金を年金で受け取る場合の雑所得の計算は、次の算式で求められます。

 公的年金等に係る雑所得の金額 = 収入金額 - 公的年金等控除額

公的年金等控除額は、「65歳未満」と「65歳以上」とで異なり、収入金額に応じて一定の控除額が決められています。

●勤続年数20年のライン、何ら合理性はない

(1)受け取り方の違いによる差異

1つ目の問題点は、退職金の受け取り方の違いによって課税の内容が異なるということです。退職金の受け取り方を「一時金」と「年金」とで選べる会社の場合、選択の仕方で納税額が変わるからです。退職金の性質が同じである以上、同じ課税であるべきではないかということが問題になります。

退職金の性質が同じである以上、受け取り方によって課税の方法が変わることは本来望ましくはありません。しかし、厚生年金基金のように、公的年金と企業年金が同時に支払われるものもあるため、退職金部分を公的年金と区別することが難しいものもあります。

また、年金総額について退職時に課税するとした場合、受取金額自体は年金なので少ないのに多額の課税が発生する可能性があり、担税力という観点からも難しいと言えます。したがって、受け取り方によって課税の仕方が違うのはやむを得ないと考えます。

(2)勤続年数の違いによる差異

2つ目の問題は、勤続年数が20年を超えると、退職所得控除の額が年あたり40万円から70万円に引き上げられるのは妥当なのかということです。長く同じ会社に勤務する人と転職を繰り返す人で、納税額に差異が生じるのは不平等ではないかという問題です。

この区分は、20年より長く働くと税制上恩恵が受けられるということですが、20年という期間に何ら合理性はないことから、期間の区別はなくすべきだと思います。たとえば、一律勤続年数1年あたり50万円を控除するなどにすべきです。

また、老後資金確保のための優遇と考えるならば、期間ではなく年齢で控除額に差を設けるという方法も考えられます。年齢が上がるにつれて控除額が逓増するようにすれば、転職回数に関係なく、高齢時の退職金については多く控除を認めることができるからです。

(3)控除後の金額を2分の1にすることの妥当性

退職所得は、退職所得控除後、2分の1にした額になります。なぜ2分の1にするかというと、退職金は給与の後払い的な性質を有しているので、まとまった額に課税されると超過累進課税のもとでは高額の税が発生する可能性があるからです。しかし、1年勤務して退職しても、30年勤務して退職しても同じ「2分の1」というのは、合理性があるとは言えないため問題となります。

「2分の1」という計算はあまりに大雑把なので、もう少しきめ細かな修正をすべきだと思います。たとえば、退職金額を勤続年数で割って年当たりの退職金額を算定し、それに所得税率を掛けて求めた値に勤続年数を掛けた額と退職金全体にかかる所得税額を比較し、低い方の税額とするなどが考えられます。

●終身雇用を前提とした制度作りの弊害

退職金は、支払うことが法律上定められているわけではなく、会社が退職金制度を導入するかどうかは自由に決めることができます。では、多くの日本企業が退職金制度を導入しているのはなぜかと言えば、従業員が会社をすぐに辞めないようにするためです。

退職金は、同じ会社に長く勤めるとご褒美として退職金を支給するという作りになっています。つまり、退職金という「ニンジン」を前にぶら下げて「ここまで来ると食べられるよ」というようにして、従業員を長く働かせているわけです。

退職金の額は通常、勤続年数が長くなればなる程多くなるようになっています。たとえば、5年で辞めたら30万円、10年で辞めたら250万円、15年で辞めたら800万円というように勤続年数が増えると多くの退職金がもらえるようになっています。年数に応じて単純に増えるのではなく、勤続年数が多くなると急激に多くなるようになっているのが一般的です。

そのため、「今辞めると損だから、あと2年頑張ろう」とか、「55歳までは頑張る」というように同じ会社に長く働き続けようという動機が生まれます。会社はこれをうまく利用することによって、人材流出を防止してきたわけです。

政府もかつては終身雇用を維持することは良いことと考えていたため、退職金は老後の生活保障にもなるとして、長期間同じ会社に勤続した場合、退職所得控除を多くして後押ししてきました。

しかし、非正規労働者が年々増加し、今や約4割は非正規労働者という現状において、長期間同じ会社に勤務する人だけが優遇を受けられるという税制は、時代にマッチしなくなってきています。そのため、退職金課税の改正が議論されるようになったのです。

●退職金は日本独自の文化

多額の退職金が一時金として支払われるのは、日本独自の文化と言えます。アメリカでは、自己都合で会社を辞めても基本的に退職金は支払われません。欧州諸国もほとんどの国で退職金制度はありません 。辞めるとき退職金を払うくらいなら、「給与を上げて欲しい」という発想があるからです。

フランスとイタリアには、退職金を支払う制度はありますが、日本に比べて金額は少ないものとなっています。やはり終身雇用という日本独自の文化を構成するために退職金があると言えます。

アメリカの労働者は、転職するのが当たり前で、退職金のことを考えている人はいません。常に条件の良いところを探しているので、優秀な人材に十分な給与を与えていないとすぐに辞めてしまいます。また、優秀な人材を獲得するためには高い給与を支払っても構わないというスタンスになっています。

そのため、賃金相場が上昇していくわけです。会社としてはできるだけ高い給与を支払う必要があるため、退職金に回すお金などないというのが実状です。

それに対し、日本では、特に大企業の場合、リストラにならない限り社員は辞めないので、優劣に関わらず賃金は同一で、給与の上昇も微々たるものです。そのため、賃金は上がらず、いつまでたっても負のスパイラルから抜け出せない状況が続いています。

この状況を打開するためも、退職金課税制度の改正は必要になります。長く勤めても税制上の優遇がないとなれば少しは退職金のあり方に変化があるかもしれないからです。退職金を減らし、給与を引き上げる動きになれば、日本の経済は、少しは活性化するでしょう。

退職金などは、退職時の給与の1カ月分位払えば十分であり、何十年も勤めて何千万円もの退職金を支払うというスタイルは時代にそぐわなくなってきています。退職金が給与の後払い的性質のものと考えるならば、何千万円ものお金を長期間にわたって従業員に支払わずにいたということになります。そのこと自体問題だということに日本人は気づかなければならないのではないでしょうか。

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