BIG4「最年少パートナー」の独白 ぜんぜん地味じゃない「税の世界」
税金・お金

2018年度の税理士試験の合格発表が12月14日にあり、受験者数の減少に今年も歯止めがかからなかった。学生優位の売り手市場が続いており、あえて資格試験に挑戦せず、民間企業への就職を選ぶ学生が引き続き多いことが、背景のひとつにあるとみられる。
税理士業界の将来を担う若手の人材が先細りしかねない状況で、危機感を抱く税理士は少なくない。世界4大会計事務所(BIG4)のひとつ、「EY税理士法人」(東京都千代田区)で現役最年少パートナーを務める阿久津隆一税理士(40)もそのひとりだ。阿久津税理士に、税理士業務について感じる魅力や可能性などについて聞いた。
●知名度の低さが課題
ーー受験者数の減少が続いていることについて、どう捉えていますか
「私は大学を卒業し、就職1年目である2001年に税理士登録に必要な5科目に合格しました。最近、ある資格予備校の方から聞いたところによれば、2001年と比べて、25歳未満の受験者数がこの17年で約半分近くに減っているという現状でした。税理士を目指そうとする若い人が減っているというのは、非常に由々しき事態です」
ーーなぜ減っていると思いますか
「よく比べられる公認会計士の試験と比べて考えてみたいと思います。かつて、公認会計士試験は『一発合格』が求められた一方で、税理士試験はいまと同じように数年かけて必要な科目合格を積み上げていく『積み上げ式』という違いがありました。その意味では、税理士試験の方がより取り組みやすい環境にあったとも言えると思います。
ところが、いまでは会計士試験も『積み上げ式』のような形(短答試験に合格し、論文試験に不合格となった場合でも、一定期間にわたり短答試験が免除されるなど)になっていて、さらに会計士試験の合格率は、税理士試験に比べれば高い状況が続いています。こうしたことが、税理士試験の受験生の減少にある程度影響しているのではないでしょうか。
また、士業と言われて、まず世間の皆さんが『税理士』を思い浮かべるかというと、残念ながらそうではないというのが現状です。まずは弁護士、次に会計士となっているのが実態であり、税理士の知名度は決して高くないのではないかと思います。また、税理士の仕事は地味だ、キツい、その割に給料が安いなどというイメージで捉えられているのかもしれません」
● 国内外がフィールドの「税務アドバイザリー」
ーーただ、阿久津税理士は必ずしも地味な仕事をしているわけではないのですよね
「はい。私は、いわゆる税理士業務の根幹である外資系企業や日系企業の税務申告業務を担当する一方、特に日系企業が海外で事業を行う際における日本・海外に関する税務アドバイザリー業務を主に提供しています。
ちなみに、税務申告業務は決して地味な仕事ではなく、税務アドバイザリー業務を行うにあたり、必要な知識・経験を養うために必ず必要となる仕事です。
また、国内・国際税務に関する会社の税務顧問として担当する企業は、主に上場企業約35社超で、売上規模でいうと連結売上高が約数百億円〜数兆円ほどの企業です」
ーーどのようなアドバイスをするのでしょう
「非常に多岐にわたりますが、たとえば海外へ事業を展開したり海外の会社を買収したりする際に、どのようなお金の入れ方(投資方法)・入れたお金の回収(資金還流)方法があり、それらの方法の中で、潜在的な税務リスクの洗い出しとともに、事業の観点からも税効率(かかる税金を合法的な中で最低限にする)の観点から最も望ましい方法は何かというのを分析し、アドバイスすることなどです。
企業の中には、事業を最優先に、法務や会計に関する検討も優先的に行うものの、税務リスクの検討は十分でない例がよく見受けられることから、我々税務アドバイザーが専門家として、問題の洗い出しや解決方法のアドバイスをすることで、企業の事業戦略を税務の側面から支援するということです。
海外の税金がかかわるケースも多く、仕事をする際には我々の海外の提携事務所と緊密に連携を取りながら対応していきます。海外出張の機会も少なくありません」
●時には企業の背中を押し、止めることも
ーー世間一般でイメージされる税理士の業務とは違いそうですね
「そうだと思います。もちろん日々の記帳代行の業務や決算書類・申告書の作成業務なども大変重要です。ただ、日系企業がこれからまさに事業を展開・拡大しようとする『オンゴーイング」な段階で、経営者と近い距離で企業の発展のために共に働けるというのは、大変やりがいのある仕事です。
企業がその方向性を決めきれないときは、税務アドバイザーとして、時には止めたり、背中を押したりすることもあります。目指す姿は、企業にとっての信頼できるビジネスアドバイザーであることです」
ーーなるほど。税理士が力を発揮できる分野は幅広いのですね
「はい。税理士はあくまで税に関する専門的な知識を生かしたサービス業です。なので、クライアントの悩みを聞き(時には引き出し)、正確に理解し、論点整理をした上で、解決のためのソリューションを提供し、満足いただくことに、大きな喜び・やりがいを感じます。
ただ、単に税金の世界だけしか知らないようでは、クライアントから『それはビジネス上ワークしないよ』と言われかねません。
したがって、税に関する深い専門知識・経験もさることながら、それと同様に、クライアントのビジネスや法務・会計などの周辺分野についても理解していることが重要です。我々税理士は、最終的には、税務アドバイザーという枠を超えて、企業にとっての信頼できる真のビジネスアドバイザーにならないといけません」
【プロフィール】阿久津隆一(あくつ・りゅういち)税理士、EY税理士法人 パートナー。趣味はキックボクシング、ショッピングなど。2001年に、簿記論、財務諸表論、法人税法、相続税法、消費税法の5科目合格、2003年に税理士登録。