国の借金は「幼児虐待」、税の再分配で「もっといい社会に」 青山学院大学長

将来的に自動車の走行距離に応じた税制が導入されるーー。こうした観測が2018年末に報じられると、車が必需品の地方を中心に、「ふざけるな」「東京目線はやめろ」などの反発がいっせいに広がった。ふるさと納税の見直し議論も話題になった。
普段、「何となく難しい」と正面から考えない税金も、自分の暮らしに直結するとなると関心度合いはいっきに高まるようだ。
弁護士や大学教授らでつくる民間税制調査会では、税金の話題にアンテナを張り、情報発信を続ける。共同代表を務める青山学院大学の三木義一学長に1月29日、気になる税の問題について聞いた。
●ふるさと納税、見直しは当然
ーー将来的な自動車税制で「走行距離に応じた課税」が検討されることが2018年末にかけて報じられました
「走行課税という議論は出ていましたね。現状では具体的な中身はよくわかりませんが、多く走った人に担税力(税を負担する能力)があるのか、ということは大いに疑問があります。
地方では車は贅沢品ではなく必需品です。公共交通機関が発達せず、置き去りにされてしまった地域にさらなる負担を強いるものになってしまいます。
また、そもそも消費税は課税されるわけで、自動車関連税制それ自体が必要なのかどうか本当は問わないといけないと思います」
ーー税制改正大綱には、ふるさと納税の見直しも盛り込まれました
「見直しは当然でしょう。もともと、納める税金の使いみちを納税者自らが決められるという点が、ふるさと納税のいいところでした。ところが返礼品合戦になって、マスコミはそれを煽りました。
納税者はモノをもらって当たり前、どれをもらおうかと考えるようになってしまった。もう完全に失敗ですね。自治体が行う事業を入り口に、応援するかどうかを選ぶように限定すべきです。
例えば貧しい子どもたちに食べ物を宅配するような事業に賛同する人から、ふるさと納税による寄付を集める、といった取り組みは素晴らしいです。見返りを求め、モノから入るのはおかしい」
●ひとり親への支援、さらに手厚く
ーー昨年は「寡婦(夫)控除」の対象に、未婚のひとり親を加えるかどうかで、議論が重ねられました
「個人的には、婚姻歴の有無で控除のあるなしに差をつける必要はまったくないと思っています。結局、そのまま寡婦控除に加えるということにならなかったのは、法律婚にこだわる意見に配慮してということでした。
『伝統的な家族観が崩れる』なんていう指摘もあったようですが、そういうことじゃないでしょうと思います。また、ひとり親の多くは所得が少なく苦しんでいます。現物給付とか、さらに支援を手厚くする方向をめざすべきです」
ーーゴルフ場利用税については、超党派で「廃止」をめざした動きがあると言われます
「スポーツに課税をするな、という考え方は問題だとは言いません。ただ、国土が狭いなかゴルフ場を作って、高額なプレー代をとり、それを払う余裕がある人がプレーをするというのが実態です。やはり、担税力がないとは言えません。
ゴルフ場の料金を安くして、もっと多様な所得層の人がプレーできるようにしたらいいのかもしれません。現状では地方にとって貴重な財源になっているということもあります」
●金持ちたちの牢獄
ーー巨額を投じて「月に行く」と宣言する経営者がいる一方、その動きを受けて「税の再分配」が不十分じゃないかという指摘もありますね
「税の再分配は絶対やらないといけません。資本主義社会において、『もてるもの』が儲かるのは仕方ありませんが、『儲けた人は還元してよ』というのは極めて当たり前のことです。
国境を利用し、税負担を減らしたり回避したりするために外国に移る人もいますが、自分には理解できません。そういう地域は、個人的には『金持ちたちの牢獄』だと感じています。
日本社会に税を納め、税の再分配が機能し、社会の底辺が安定したら、もっといい社会になる。政治はそのためにあるはずということを、改めて多くの人に考えてもらいたいです」
ーー税金は複雑で難しいということで、考えるのを避ける人が少なくないように思います
「確かにそうですね。税金のことは難しいからといって、議論を避ける人が多いように思います。本来はもっとシンプルな税制にしてくれたらいいのですが。多くの人がわからないでいるうちに、日本はどんどん国債を発行し、借金を積み重ねています。
ある米国の学者は、日本のことを『財政的に幼児虐待をしている』と表現しているそうです。現時点ではしゃべれない将来世代の人たちに負担をおしつけることを、虐待していると言っているのです。社会のあり方として、非常に不健全です」
【プロフィール】三木義一(みき・よしかず)青山学院大学長、弁護士、専門は税法等。