にぎわう「Go Toキャンペーン」国民1人あたりの税負担は? いくら使わないと損になるか
税金・お金

新型コロナウイルスにより深刻なダメージを受けた観光産業を救済するため、7月22日からGo Toトラベルキャンペーンが実施されました。それに続き、Go Toイート、Go Toイベントなど、次々と政府による経済対策がなされています。
農林水産省は11月13日、Go Toイートについて、11月11日時点での予約サイト経由での利用が5000万人以上、ポイント付与額400億円以上になり、近日中に予算額の616億円に達しそうな勢いだと発表しました。まもなく新規の予約はできなくなりそうですが、東京で11月20日からプレミアム付食事券の発売が開始になるなど、まだにぎわいは続きそうです。
また、Go Toトラベルについても、赤羽国交相は、7月の事業開始から9月末までの利用実績が、少なくとも1099億円に上るとの速報値を発表しています。利用者数は延べ2518万人で、利用者1人の1泊の平均費用は約1万2千円とのことです。
経済の立て直しをという点では、Go Toキャンペーンはとても良い施策だと思いますが、40日間で1099億円使われたということは、1日あたり約27.5億円が使われていることになります。一体どれくらいの税金が使われる予定なのでしょうか。(ライター・メタルスライム)
写真はイメージです(Bulltus_casso / PIXTA)
●人口で割ると1人「1万3千円」、所得税納税者で割ると1人「2万6千円」
令和2年度の補正予算を見てみると、Go To関連の予算額は、1兆6794億円になっています。その内訳は、①Go Toトラベルが1兆3542億円、②Go Toイートが2003億円、③Go Toイベントが1198億円、④ Go To商店街が51億円です。
総務省統計局の人口推計 によると、令和2年10月1日現在の概算値で、日本の人口は、1億2588万人になっています。Go Toに関する予算を単純に人口で割ってみると、その金額は、1人当たり約1万3千円になります。
他方、平成30年12月31日現在の給与所得者数は5,911万人で、平成30年分の申告納税者数は、事業所得者が168万人、不動産所得者数は110万人、雑所得者は73万人、その他34万人となっています。
したがって、所得税を納税している人ということだと、6,296万人ということになります。つまり、所得税を納税しているのは、人口の約半分ということになります。そう考えると、Go Toに関する予算は、1人当たり約2万6千円も負担することになります。
もちろん、税収は所得税だけではなく、消費税、法人税、資産税などがあり、単純な計算ができないことは承知しています。しかし、主に消費税を支払うのは、所得を得ている人や法人であり、法人も結局は、給与所得者や株主が配当所得や譲渡所得として実質負担しているので、全人口で考えるよりも、所得税を納税している人で考えた方が現実的な負担額と言えます。
つまり、最低でも1人当たり1万3千円、所得税納税者で考えるならば2万6千円は、Go Toキャンペーンを使わないと損ということになります。Go Toキャンペーンは対象期間中であっても予算が尽きるとそれで終わりになってしまうので、まだ利用していないという人は早急に利用した方がいいかもしれません。
●「Go Toキャンペーン」4つの概要
(1)Go Toトラベル
Go Toトラベルは、宿泊や旅行商品について最大で旅行代金の2分の1相当額が補助されるというものです。補助の内容は、宿泊割引が35%、地域クーポンが15%です。上限額は、宿泊が2万円、日帰りが1万円となっています。
(2)Go Toイート
Go Toイートは、オンライン飲食店サイトで飲食店を予約した場合に夜なら1,000円分のポイント、昼なら500円分のポイントを付与するというものです。また、登録飲食店で使えるプレミアム付食事券の販売もあります。これは、たとえば、12,500円分の食事券を10,000円で購入できるというものです。
(3)Go Toイベント
Go Toイベントは、コンサート、美術館、スポーツ観戦などのチケットを購入する際に、チケット代を2割引にするか、チケット代の2割相当額のクーポンを付与するというものです。
(4)Go To商店街
Go To商店街は、商店街の賑わいを回復するため、感染予防対策を講じた上での商店街のイベントやキャンペーン、プロモーションなどを後押しするため、300万円を上限に支援するものです。消費者が直接利益を享受できるというものではありません。
●Go Toキャンペーンのメリット
Go Toキャンペーンのメリットは、特定の産業に対して需要を喚起することができるということにあります。Go Toトラベルで考えてみると、一定期間旅行代金が実質半額に割り引かれるというのは、旅行に行く大きな動機になります。
また、上限はあるものの、旅行代金に対して比例的に割り引かれるので、大きな金額を消費してくれるというメリットもあります。
また、地域クーポンを発行することで、旅行業者や宿泊施設だけでなく土産物店や飲食店の消費につながっている点もメリットと言えます。Go ToイートやGo Toイベントも同様の効果が期待されています。
●Go Toキャンペーンの課題
①高級旅館や高級ホテルばかり潤う
Go Toトラベルの場合、旅行代金に比例して割り引かれるため、富裕層を中心に高級旅館や高級ホテルに予約が殺到し、安い旅館やホテルでは閑古鳥が鳴いているという弊害が出ています。経済を動かすという点では定率給付は優れていますが、弱者救済になっていないという問題があります。
②利用方法が複雑
Go Toトラベルの利用方法はバラバラで、旅行代金が予め差し引かれるところと、全額支払った上で、利用者が自分で申請して還付を受けるところがあります。そのため、割引前の価格なのか割引後の価格なのかわかりにくく、申込みにくいという問題があります。Go ToイートやGo Toイベントも対象が限られており、何が対象なのかわかりにくいという問題があります。
③予算枠が不明確
宿泊施設などは、旅行代理店などに比べ予算配分が少なく、人気のある宿泊施設ではすぐに配分された予算を使い切ってしまうため、数時間でGo Toトラベルの利用ができなくなることがあります。早い者勝ちのような状況になっており、インターネットで情報が得られない高齢者などは事実上予約ができないという問題があります。
④事務局に巨額の業務委託費
国から事務局への委託費は1866億円で、人件費は322億円になっています。観光庁は10月15日、Go Toトラベル運営事務局の人件費は、役職に応じて1人当たり日額6万1千~2万4千円であると公表しています。
Go Toトラベル運営事務局には、JTB、日本旅行、KNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト)、東武トップツアーズから社員が出向しており、高額な日当が支払われていると批判されています。しかも、4社だけが公表前に情報を得ることができるため、圧倒的に準備の点で有利であり、中小旅行会社との関係で不平等だと指摘されています。
⑤不正の横行
Go Toトラベルを使った合宿免許、ホテルへの長期滞在、出張での利用など、本来の趣旨に沿わない利用が横行しました。また、Go Toイートでは、食事代金に制限がなかったため、1,000円以内で食事をすると差額が利益になるという「トリキの錬金術」が問題になりました。
さらに、予約サイトのEPARKとくら寿司では翌日にポイントが付与されるため、毎日くら寿司に予約すると毎日1,000円まで無料で寿司が食べられるという「無限くら寿司」も話題になっています。既に対策がなされたものもありますが、次々と問題が発生しています。
弁護士ドットコムニュースでも取り上げた「トリキの錬金術」
●今後のあり方
以上のように課題は色々ありますが、Go Toキャンペーンによって助かっている事業者もたくさんあり、制度としてできあがってしまった以上、後は使い勝手を良くしていくしかありません。
たとえば、ホテルや旅行のサイトについては、割引後の価格を表示するようルール化し、普通に予約すればGo Toトラベルキャンペーンが適用されるようにするなどです。Go Toイートに関しては、シンプルに食事券のみにして1万円単位ではなく、1,000円単位で食事券を購入できるようにすれば、もっと多くの人に利用してもらえるはずです。
コロナ禍でもっとも打撃を受けたのは、観光業や飲食店であることは間違いありませんが、百貨店やアパレル業、自動車産業なども苦しい状況にあります。時限的な消費税減税も含めて、今後は、他の業種についても経済対策を考えていく必要があるのではないでしょうか。
Go Toキャンペーンの実施や気温の低下などもあって、新型コロナウイルスの感染者は増加傾向にあります。第3波が来ているとの指摘もある中、今後は、どのような状況になったら、Go Toの対象から除外するのかについて、基準の策定が求められます。