元国税局職員の芸人による税務調査体験談「税理士の苦悩」

元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな申告は「修正申告」です。
昨年から税理士さんとの交流が盛んです。FacebookやTwitterでご連絡をいただいたり、ライブに来てくださってその後に声をかけてくださったり、積極的にコンタクトをいただいております。
普段なかなかできない税金についての話ができるので、連絡先を交換し飲みに行くのですが、先生方もさまざまな悩みや不満を感じていらっしゃるようです。やれ、◯◯税務署の窓口は閉鎖的だとか、担当調査官は話が通じないとか、顧客がこちらの説明を正しく理解できなくて契約を解除されたとか、自分の言うことではなく同業の社長のいい加減な節税を信じて「そんなことできない」と言ったら罵倒された、といった楽しい話を伺えます。その中でも、特に先生同士が共感していた不憫な話を紹介します。
勝手に作られた「修正申告書」で報酬がゼロに
顧問先の法人に税務調査が行われたそうです。2日間の調査を終え、それ以降は電話でやりとりをし、調査のまとめに入りました。否認項目と金額、重加算税の賦課について社長にも納得してもらい、質問等記録書を取ると言うので、2人で税務署に行ったときのことです。
担当調査官とその上司と会い、話をしてから、そろそろ帰ろうかなと思っていると、調査官がファイルの中から修正申告書を出しました。どうやら、今回の調査に関するもののようです。
「作っておきましたので、こちらで」などと戯言を言う調査官。
「はい? いやいやいや、それ作られちゃったら、申告書の作成代金請求できないじゃん。なに勝手なことしてるの? 信義則に反するじゃん」と思ったけれど、おくびにも出さずに、苦虫を噛んで咀嚼して嚥下して消化したような顔をしました。社長はなんのことか分かりません。
担当調査官もよかれと思ってやったのでしょう。責めることはできない。しかし、無知というか考えが至らないというか、愚か者の粗忽者であることは間違いない。
なんて注意してやろう。「おれの仕事を奪うのか」と言うのがよいか、「あ、これは間違っていますね。こちらで作り直します」と言うのがよいか、逡巡します。
だめだ、どのように話しても、不自然さが出てしまいそうだ。この社長にはそんなこと見透かされて、信頼関係に亀裂が入るかもしれない。受け入れるしかない。結局、調査官が作った申告書を使うことにしました。
どうすればよかったのか。もっと、自分が場を支配して、話の段取りを組むべきだったのか、悔しい、◯万円もらい損ねた、この損害をあいつに請求しようか・・・そんなことを他の先生と話されていました。
2000万円が4000万円に?!覆された調査結果
また、とある法人では、否認金額の調整で問題が起こりました。
何をどのように否認するかは決まっていて、あとは証拠資料から金額をまとめるだけとなったときのこと。社長には確定してから報告するので、調査官となんども電話でやり取りをし、2000万円の増差で落ち着いたところで、金額を社長に伝え納得してもらいました。連れ立って税務署に行くと、調査官がこんなことを言い放ったそうです。
「2000万円ではなく、4000万円で」
もちろん抵抗します。たしかに、本来はそれくらいの金額なのですが、税務調査というのは、そんな単純なものではありません。円滑に修正申告まで進めるには、すり合わせや忖度が必要です。その結果の2000万円だったはずなのに、急に後ろからバットで殴打された気分です。視界がぼやけて、集中できません。何を言っているのか、そんなこと受け入れられるわけがないじゃないか、と抗議しました。しかし、調査官は言うのです。
「だったら、再調査しますよ」
なんてひどいやつなんだ。私はそんな脅しに屈しないぞ、おう、だったら再調査でも反面調査でもなんでもすればいいじゃないか、好きなだけ現物もやらせてやる、こっちにはやましいことなんてひとつもないんだ、再調査なんてしてさらにコストをかけて。その分の人件費は誰が払ってると思ってるんだ、みんなの血税だぞ、失敗は許されないぞ、そのリスクを背負う覚悟がお前にはあるのか、おれだったらやらないね、再調査して何も出なかったら国民に申し訳が立たないもん、でもお前は再調査すると脅してくる、恫喝してくる、平和に楽しく生きている私達を恐怖で包んでくる、そんなに言うならやればいいじゃないか!ーーと言えたらどんなによかったことか。
実際には、再調査されるわけにはいきません。こちらは4000万円を飲むしかない。だって、隣りにいる社長が震えているのだから。再調査されたら1億くらい出てきそうな顔をしているのだから。
そんな不正もミスも自分は知らない。ただ、知らないだけで、あってもおかしくはない。決算期末に会ったとき、不明確な部分がないことはなかった。ここで突かれたら、大きな損害がでるだろう。いちかばちかで勝負に出るか。再調査では何も出ないかもしれない。しかし、再調査して何も出なくとも、4000万円で取りにくるかもしれない。
くそ、受け入れるしかない。社長の精神状態はもう限界だ。
結局、4000万円で受け入れたそうです。
おわりに
先生たちはさまざまな悩みを抱えていて、それらは税理士会の会報や専門性の高い雑誌で共有されています。でも、宴席で仲間と共有して、たのしく飲むのは素敵だな、と思った夜でした。
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