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書籍にも「消費税の総額表示」って誰得!? 「本体価格+税」表示はNG、揺れる出版業界

消費税

書籍にも「消費税の総額表示」って誰得!? 「本体価格+税」表示はNG、揺れる出版業界
木瀬貴吉さん

4月1日から、消費税込みの「総額表示」が義務化され、スーパーや飲食店でも、本体価格に併記する形で税込価格が表示されるようになった。税別と明記すれば、総額表示でなくてもよいとした特別措置法が3月31日に期限を迎えたためだ。しかし、この義務化への対応に苦慮している業界がある。出版界だ。

店頭に並んでいる本を手に取ってみてほしい。以前からある本は、これまでの「本体価格+税」表記のままだが、4月1日以降に刊行された書籍では、(a)総額表示をカバーに印刷しているもの、(b)本に挟み込むスリップ(定価カード)に印刷しているもの、(c)カバーがないため本体に印刷しているもの、(d)あるいは従来表記のままのものと、それぞれ対応はバラバラである。

画像タイトル 日本書籍出版協会(書協)と日本雑誌協会(雑協)は2020年12月、出版社向けのガイドラインを発表。総額表示について、「読者が出版物を開かずに一見して分かるよう、どれか一つに一箇所だけでもあれば有効」としている(https://www.jbpa.or.jp/pdf/guideline/tax20201221.pdf)

違反しても罰則はないものの、こうした状況に対し、財務省主税局の担当者は「(総額表示を実施していない商品の販売は)違法行為であることから、消費者からクレームが寄せられるような事態になれば、なんらかの対応を取らざるを得ない」と話す。

1989年に3%から導入が始まった消費税は、数年単位で徐々に引き上げられてきた。今後も社会状況に応じて変動を繰り返すだろう。その都度、総額表示を修正しなければならなくなる。

果たして、書籍という商品にそのような対応が妥当なのか。そもそも消費者にとって「本体価格+税」から総額表示になることが、どのようなメリットを生むのか。

「総額表示を考える出版事業者の会」で中心的な役割を果たしている出版社「ころから」(東京都北区赤羽)代表の木瀬貴吉さんに話を聞いた。(ライター・大友麻子)

●「10年前の本」も書店では当たり前なのに…

――そもそも、なぜ今になって、出版社は価格表示問題で揺れているのでしょう?

その背景には、本という商品の特殊性があります。まず、本というのは市場に流通する期間が非常に長い商品であるということ。

野菜や肉などの生鮮食品は数日単位で商品が入れ替わりますし、車などでもせいぜい2年くらいで入れ替わるでしょう。一方、本という商品は、当たり前のように5年10年流通し続けます。30年以上続く商品も珍しくありません。

つまり、消費税3%が導入された当時から今に至るまで、市場で売られ続けてきている商品も少なくないということ。その間に、消費税率は5%、8%、10%と変化してきたわけですよね。

本のもう一つの特殊性は、メーカー側が価格を決めていい商品であるということ。

世の中に流通している商品のほとんどは、メーカーの希望小売価格などがあっても強制ではなく、小売店が自由に価格設定できますが、本の場合は取次および書店との「再販契約」によって、書店が自由に販売価格を設定できません。そのため、商品である本に金額が印刷されて出荷されます。

そこで発生するのが、消費税法で義務とされている総額表示の問題です。

●すぐに上がる消費税

――つまり、市場に長く流通している間にも、ポンポンと税額が変わってきてしまうので、総額表示に対応するのは非常に難しいということですね。

そうです。消費税が初めて導入された1989年当時、市場に出ている書籍を税込表記に修正しようとして大騒ぎになったと聞いています。大きなコストをかけて総額表示に対応しようと試みたものの、その後、10年も経たないうちに消費税が5%にアップします。

画像タイトル 消費税3%の時代、総額表示に対応していた文庫本の価格表記。消費税10%の今売られていたとしたら、消費者に誤解を与えかねず、「総額表示」の未来と言ったら大げさだろうか?

その後、もはや総額表示の対応は非現実的だろうと、書籍の価格表示は「本体価格+税」というところで落ち着いていきました。厳密に言えば総額表示を義務付けた消費税法の63条に違反しているが、書籍の特殊性を考えると仕方ないじゃないか、というわけです。

【消費税法63条:事業者は、(…)消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。】

なんていう解説をしつつも、私自身、こうした書籍の価格表記の変遷について、これまで特に意識していたわけではありません。きっかけとなったのは、昨年9月に目にした、出版業界紙のネット記事です。

そこには、2013年10月に施行された「消費税転嫁対策特別措置法」(以下、特措法)の期限が2021年3月31日に迫っていると書かれていた。そんな特措法の存在自体、まだ出版業界に参入して10年ほどの自分には寝耳に水でした。

●「本体+税」の表示でなぜダメなのか?

――特措法が施行された2013年というと、消費税が5%から8%にアップする前年ですね。

翌年の消費税率引き上げを前に、総額表示の弾力的運用のための特措法でした。その10条には、「税込価格であると誤認されないための措置を講じているときに限り、税込価格を表示することを要しない」と書かれていました。

つまり、この特措法によって、「これは税抜きの本体価格ですよ。この価格に、今の消費税が加算されますよ」ということが明記されていれば、必ずしも税込価格を表示しなくても構わないことになったんです。

それにより、これまでグレーな状態で続けていた「本体価格+税」表示が合法になりました。これはメーカーにも消費者にも、非常に合理的なものだったと思います。

画像タイトル 長らく、書籍は「本体価格+税」表記で落ち着いていた

しかし特措法ですから、あくまでも時限立法です。これが2021年3月31日に期限を迎え、その後は消費税法63条に基づいた総額表示が義務付けられることになると。これはえらいこっちゃ、と思いました。この特措法の期限切れを目前にして、現実問題としてどう対応すべきか中小出版社の間で動揺が広がりました。

――実際、その特措法の施行期間中も、税率はさらに8%から10%に上がっているわけですしね。

昨年9月以降、大手を含む400の出版社による日本書籍出版社協会(書協)や中小の出版社が多く加わる日本出版社協議会(出版協)は、相次いで特措法の延長などを求める要望書を発表しました。しかし、それらの要望は「出版業界の特殊性」を訴える内容になっていた。

そうやって「出版業界は特殊だから特例措置を継続してください」という、「お目こぼし」みたいな形で小手先の対応を続けていくことは、非常にリスクが大きいし問題の根本的な解決に至らないと感じました。

しかも厳密に言うならば、この消費税法の対象は、消費者に直接商品を販売する小売の事業者です。つまり、(条文をそのまま読めば)義務違反を問われかねないのは、実は出版社ではなく書店なのです。我々出版社としては、取次なり書店なりへの納品書に税込価格を明記すれば、消費税法対応としては事足りてしまう。

しかし、客商売でただでさえ矢面に立たされやすい書店をそんなグレーな状態に放置していいわけがありませんよね。ということで、中小の出版社に問題提起をしたところ、出版業に携わる25人が集まり、総額表示に関する要望書をまとめ上げました。総額表示を考える出版事業者の会が2020年11月に立ち上がり、208もの事業者が賛同者に名前を連ねました。

――具体的に、どのような要望になったのでしょう?

大変シンプルな話です。特措法の10条を、消費税法63条の第2項に付け加える形で恒久法にしてください、と要望しました。これまで通り「これは税別だよ」ということを明記しておけば、消費者の誤認は避けられるし、出版社も書店も大きなリスクや混乱を避けられるわけですから。

そして、重要なのは、これを出版界だけの問題に限定すべきではないということ。

タクシー業界や飲食店、小売店など、消費税が変わるたびにメーター交換やら価格表記の大量修正やらに追われ、「消費者保護」の名目で過剰な負担を強いられている業界は少なくありません。

要は、消費税法の目的である消費者保護が果たされればいいわけです。表示されているのは本体価格です、と、はっきり明記して示しておけば、消費者の誤認も混乱もありません。

画像タイトル 赤羽で出版社「ころから」を営む木瀬貴吉さん。総額表示を考える出版事業者の会の中心メンバーの一人だ。

●いったい「誰得」なのか?

――逆に、書籍などは総額表示にしてしまうことで、今後、ふたたび消費税率が変化したタイミングでは、古い税率の総額表示のままの商品が書店に残り、消費者が価格を勘違いするという混乱が発生しそうですよね。

要は税込価格か本体価格かわからないという紛らわしさを回避して、消費者を勘違いさせないことが一番大切なわけですから。ある時期の税率の総額表示をすることが、果たして消費者保護に本当につながるのか、冷静に考える必要があります。

小さい話ですが、バーコード対応をしていない手打ちレジの書店などでは、お客さんが並んでいたりすると焦ってしまい、これまで瞬時に把握できていた本体価格を一瞬見間違いかねない、というような話も聞きます。

――講談社は文庫など一部のレーベルで、商品全体をフィルム包装(シュリンク)して、その上にシールで総額表示を貼るという対応をスタートさせて注目を集めていますね。購入前に中身をパラパラと見ることができなくなり、果たしてこれが消費者のメリットにつながるのかとの疑問の声もあります。

シュリンク対応は総額表示対策だけでなく、商品の汚れや破損など、返品の際のリスクを考えてのことも大きいと思いますが、消費者目線では疑問が残ります。いずれにしても、私たちは現実の合理性にかなった法改正が急務だと考え、国会議員に陳情を行うことにしました。

どの委員会に持っていけばいいのか、というところから手探りで動き始めましたが、どうやら財務金融委員会がいいらしい、ということになり、そこのメンバーである議員の方たちにアプローチしたところ、野党議員を中心に面談に応じ、問題の本質をかなり鋭く理解してくれました。

そもそも、出版社の立場からすれば、かなりのコストとリスクを引き受けて総額表示にしたところで売り上げが1円たりとも増えませんよね。「あっちの本は本体価格しか明記してないけど、こっちは総額表示していて親切だから、こっちの本を買おう」なんていう消費行動は起こりえないわけですから。

それでありながら、総額表示への移行のための補助金も1円も出ない。しかも、それにより消費者の保護が進むとも思えない。もはや、どう考えても「誰得?」な総額表示義務化だという状況であることは共有できたと思います。

画像タイトル カバーのないブックレットは本体に価格を印刷するしかない。消費税が上がったときの対応が難しそうだ。

●国会でも取り上げられた

――陳情後、具体的な動きはありましたか?
 
残念ながら、3月31日の特措法期限には間に合いませんでしたが、4月20日の衆議院財務金融委員会で、末松義規議員(立民)が麻生太郎財務大臣(自民)への質問としてこの問題を取り上げてくれました。

特措法の恒久化だとか、特措法延長といった具体的な答弁は得られませんでしたが、「(総額表示義務化に)反対意見があることは承知している」という一言が麻生大臣から得られただけでも大きいと思います。

画像タイトル https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120404376X01220210420&spkNum=21&current=1

アンケート(消費者庁が定期的に行なっている消費者に対する物価モニター調査)では、97、98%が総額表示でよいとしている、と麻生さんは答弁していましたが、こういう調査も質問の立て方次第だと思います。

税込価格が明記されたものと、本体価格だけ明記されたものを並べて、「どっちがわかりやすいか」と消費者が聞かれたら、それは総額表示の方が、「わかりやすい」と答えるでしょう。

しかし、「本体価格がきちんと明記されていても、税込の総額表示は義務付けるべきだと思いますか」という聞き方をしたら、また違った意見の形が見えてきたはずです。

また、衆議院の消費者特別委員会所属の尾辻かな子議員(立民)からは、スーパーの連合体や外食産業などからも、特措法10条の対応での継続を望む声が上がっているという情報が得られました。やはり、総額表示義務化で困っているのは出版業界だけではないのだと意を強くしました。

画像タイトル 「ころから」の5月の新刊本『ヘイトを止めるレッスン』を手に。ちなみに価格表示は、問題提起したいとの思いから、これまでと同様の「税別表示」にしている。

●「消費税が変わるたびに対応するのは不合理」

――今後の展望は?

今年の3月31日、コロナ禍という未曾有の大災害の中で迎えた特措法の期限でした。産業界全体が苦境に立たされているような状況で、一部業界にとってはことさらに負担の大きな総額表示義務化を、あえて今のタイミングで実施しなければいけない理由はなかったはずです。

そもそも、総額表示の義務化は、国の根幹をなす税制と密接に関わった問題です。消費税の税率を上げるのか、下げるのか、はたまたなくすのかは、主権者たる我々が決めることです。それなのに、将来にわたって消費税=10%という足かせになるような総額表示は、まったく合理的ではありません。

理にかなっていない総額表示に対応するために、一部業界に非合理的な負担を強いるような法制度に対しては、やはり異を唱えていく必要がある。

そのためにも、業界の垣根を超えて、さまざまな業界団体と問題を共有し、議論を深めて特措法の恒久化に向けて訴えていきます。法治国家における市民として、やるべきことを粛々とやっていくしかありません。

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