一口馬主の赤字で「節税できる人」と「できない人」の決定的な違いとは?「所得区分の壁」に要注意
税金・お金
「自分の馬がターフを駆けるロマンを味わいたい」。そんな願いを少額から叶えられる「一口馬主」が人気だ。最近では芸能人や著名な経営者の所有馬が活躍するニュースも増え、高額な競走馬に数万円程度から投資できる趣味として、一般層に浸透してきている。
しかし、一口馬主になるには、クラブ入会金や出資金(馬代金)のほか、維持費やクラブの月会費といったランニングコストがかかる。投資した競走馬が勝てなければ分配金も手に入らず、赤字が発生してしまうのだ。
一方で「維持費で赤字が出た分、確定申告で税金が戻ってくるのでは?」と期待する声も聞かれるが、実は「所得区分の壁」を理解する必要がある。
●一口馬主で出た赤字は給与所得と相殺できない
一口馬主で愛馬が走って得られる分配金は、税務上、原則として「雑所得」に分類される。ここが最大のポイントだ。
会社員が副業の赤字で節税しようとする際、ある所得の赤字を給与所得から差し引いて、全体の税金を安くする「損益通算」という仕組みが用いられる。ところが、給与所得と損益通算できるのは、以下の4つで生じた赤字に限られる。
1)不動産所得
2)事業所得
3)山林所得
4)譲渡所得(総合課税の対象となるもの)
つまり、「馬主活動で年間50万円の赤字(雑所得)が出たから、給与年収から50万円マイナスして所得税を還付してもらう」という裏技は、残念ながら使えない。
では、どのようなケースなら節税が可能なのか、また意外な活用法はあるのか。米世毅税理士に聞いた。
●他の雑所得がある場合、一口馬主の赤字と通算できる
ーー「一口馬主の赤字」が節税につながるケースとは、どのような場合でしょうか?
一口馬主の赤字が、結果として税負担の軽減につながるケースは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、分配金から源泉徴収された税金の還付を受けるケースです。一口馬主の分配金には20.42%の源泉徴収がかけられます。年間の収支がトータルで赤字、あるいは利益が少額であれば、確定申告をすることで源泉徴収された所得税が還付される可能性があります。
これは厳密には「赤字で節税」というよりも「取られすぎた税金を取り戻す」という話です。ただし、そもそも分配金がなければ源泉徴収もされませんので、愛馬がまったくレースで賞金を稼がなかった場合には還付もありません。
2つ目は、一口馬主の赤字を「他の雑所得」と通算するケースです。雑所得は給与所得とは損益通算できませんが、雑所得同士であれば通算が可能です。
たとえば、暗号資産(仮想通貨)の売却益や、副業の原稿料収入、フリマアプリ等の不用品販売(生活用動産以外)など、同じ雑所得に該当する黒字の所得がある方は、一口馬主の赤字と相殺することで雑所得全体の金額を圧縮し、結果的に税負担を軽減できる場合があります。
ただし、いずれのケースも金額的なインパクトは限定的です。雑所得の赤字は翌年以降に繰り越すこともできませんので、毎年赤字が続く場合は、毎年その赤字が切り捨てられてしまうという点も理解しておく必要があります。
●公的年金の雑所得との相殺で、源泉所得税が還付される可能性あり
ーー年金生活者が一口馬主を始めた場合、現役世代よりもメリットがあるのでしょうか。
実は、年金生活者の方には現役の会社員にはないメリットがあります。
公的年金も税務上は「雑所得」に分類されます。つまり、一口馬主の所得と同じ区分です。先ほどお話ししたとおり、雑所得同士であれば通算が可能ですので、一口馬主で赤字が出た場合、公的年金の雑所得と相殺できるのです。
具体的にご説明すると、年金から源泉徴収されている所得税がある方は、一口馬主の赤字分だけ雑所得の合計額が下がりますので、確定申告をすることで年金から天引きされた源泉所得税の一部が還付される可能性があります。
会社員の場合は、給与所得と雑所得の損益通算ができないため、一口馬主の赤字はどこにもぶつけられずに切り捨てとなります。しかし年金受給者であれば、年金という雑所得があるおかげで赤字の受け皿が生まれるわけです。
ただし注意点もあります。まず、公的年金等控除額を差し引いた後の、年金に係る雑所得の金額がゼロに近い方は、もともと相殺できる所得が少ないためメリットは限られます。また、確定申告をすることで住民税や国民健康保険料に影響が出る場合もありますので、総合的に判断することが大切です。「年金受給者は必ずお得」というわけではなく、ご自身の年金額や他の所得の状況を踏まえて検討する必要があります。
●節税は「おまけ」程度に考えて楽しむのがオススメ
ーー節税目的で一口馬主を検討している方へアドバイスをお願いします。
先ほどご説明したとおり、一口馬主の所得は雑所得です。給与所得との損益通算はできず、赤字の繰越控除もできません。税制上のメリットは非常に限定的であり、節税効果を期待して出資すると、まず間違いなく期待外れに終わるでしょう。
競走馬の世界は、そもそも黒字になること自体がかなり難しいものです。出資した馬が未勝利のまま引退するケースも珍しくなく、出資金がほとんど戻らないことも十分にありえます。維持費や月会費といったランニングコストは馬が走っても走らなくてもかかり続けますので、投資としてのリターンを求めると厳しい現実に直面します。
もし本格的に税務メリットを得たいのであれば、法人を設立して法人名義で出資するという方法もあります。法人であれば、一口馬主の損益を法人の他の事業の損益と通算できますし、損失の繰越控除も可能です。ただし、法人の設立・維持コストもかかりますので、相当な出資規模でない限り現実的ではありません。
一口馬主の本当の魅力は、自分が出資した馬がレースで走る姿を応援できるというロマンにあります。パドックで愛馬を間近に見たり、勝利時の口取り写真に参加したりと、競馬ファンにとっては何物にも代えがたい体験ができます。節税はあくまで「おまけ」程度に考えて、無理のない範囲で楽しむのが一口馬主との正しい付き合い方と言えるでしょう。
【取材協力税理士】
米世 毅(よねせ たけし)税理士
資生堂本社、資生堂パーラーの経理部門に勤務後、税理士米世毅事務所を開業。会計・税務の専門知識に加え、事業会社で培った視点と現場対応力を駆使し、税務や財務の複雑な課題に対して実践的な解決策を提案。企業経営者であるクライアントの視点を理解しつつ、よりよい未来のための戦略を共に考えることを使命としている。
事務所名 :税理士米世毅事務所
事務所URL:https://tax-yonese.jp/















