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遅すぎる定額給付、オンライン申請混乱の背景にある「マイナンバー」の根本問題

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遅すぎる定額給付、オンライン申請混乱の背景にある「マイナンバー」の根本問題
東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹(取材はオンラインで実施)

全国民に10万円が給付される特別定額給付金で、オンライン申請をするためのマイナンバーカードがかつてないほどに注目されています。しかし、これまでほとんど使われてこなかったため、暗証番号を忘れた人が自治体の窓口に殺到、大混乱が起きています。

早くからマイナンバーとマイナンバーカードの活用を訴えてきた、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹は「制度をつくっただけで、国も政治も積極的に広げようとしてこなかったことが原因」と指摘しています。森信氏にどのような壁を乗り越えれば、利便性が高いものになるかを聞きました。(ライター・国分瑠衣子)

●制度が整備されていれば、所得に応じた給付もやりやすかったはず

ーー今回、大混乱が起きている原因はなんでしょうか。

「制度設計があまりにも貧弱だからです。制度をつくって終わりで、総合的な絵を描く人は誰もいなかった。各省庁は縦割りで情報連携という形で横に広げようとしませんでした。政治家も積極的にマイナンバーの利活用を訴えてこなかった。『プライバシーの侵害』などと国民から批判されることを避けてきたように思います。

国民が利便性を感じないからマイナンバーカードの普及率も低いままです。カードを取得しても、大したサービスがないので個人向けサイト『マイナポータル』を開かない。そのうち登録したパスワードも忘れてしまって、ここまできてしまったのです。

マイナンバー制度は、税と社会保障、災害の3分野で活用しようと始まりました。しかし、現行の法律では税と社会保障が有機的に結びついていないことが、スムーズな給付を阻んでいます。各市町村の税務課は、住民の納税情報を把握しているので、福祉課が情報をもらうことができるなら、所得に応じた給付もやりやすいのに、今の法律ではそれができないのです。

つまり、今回の10万円給付ではマイナンバーカードやマイナポータルは使われていますが、マイナンバーは利用範囲が限定的で、ほとんど使われていないのです。

番号法には別表で『Aという事務とBという事務を連携する』ということが定められています。これに所得情報と給付事務を加えて連携できるようにすればいいのです。ただ、今回の10万円の給付は、法律の枠組みの中ではなく、予算措置だけで行っているため、番号法の別表の連携に加えることができません。よって立つ法律がないためです。

もし、マイナンバーで社会保障と税(所得情報)が紐づけられれば、児童手当や給付型奨学金など世帯の所得によって受給額が変わるものを行政側が判断して簡単に受け取ることができるようになります。ですが、このような制度設計をしてこなかったため、今回の10万円も国民全員に給付するしかありませんでした。今回は仕方ないにしても、今後を考えると、高所得者も含めた全員給付は財政資金の無駄遣いです」

●スムーズに給付できたアメリカやイギリスとの違い

ーーアメリカやイギリスはスムーズに給付を行っています。制度面で日本と何が違うのでしょうか。

「アメリカやイギリスでは税と社会保障を連携させる制度(給付付き税額控除)と仕組みが整っています。アメリカは税務当局が、個人の年収や銀行の口座番号を把握しています。今回の新型コロナウイルスによる経済対策でも、原則、税務当局のシステムが自動的に金額を計算し、口座に振り込みました。

国民が申請手続きをする必要がないため、スムーズです。また、納税情報をもとに、高所得者は支給の対象から除きました。イギリスでも社会保障官庁が同様の役割を果たしています」

ーーそもそもマイナンバーカードの普及率が16.4%(2020年5月1日現在)と低い。使える人が少ない中で、なぜ国はオンライン申請に踏み切ったのでしょうか。

「『早く給付してほしい』という国民の声も多く、プレッシャーがかかっていた中で、オンライン申請なら早いと考えたのでしょう。ですが結果的には、郵送で申請したほうが早かった。

私も試しにマイナンバーカードを使って申請画面にログインしましたが、2日間やってもうまくいかなった。不思議なのは公的認証されているマイナンバーカードを使ってログインしているのに、再度住所を打ち込まなければならない点です。マイナポータルに情報は入っているはずなのに、おかしな話です。

今回の一連のことでわかったのは、多くの人がマイナンバーとマイナンバーカード、マイナポータルの違いを理解していないということです。私が社会保障と税の事務連携を提唱している『マイナンバー』は番号そのもので、これは法律事項です。事務の連携はメリットとデメリットがあるので、国会で審議をしてメリットが大きいとなれば、法律を変えるということになります。

一方で、『マイナポータル』は、法的な根拠はありますが、自由度が高い。マイナポータルを民間企業のシステムを結びつける『API連携』で、生活に便利なサービスを入れようという取り組みが始まっています。

今秋から消費増税の景気対策としてキャッシュレス決済を使えば、マイナポータルにポイントが還元される事業も始まりますが、この事業もマイナポータルを活用しています。

個人情報保護の観点から、法律で連携を最小限にしなければならないマイナンバーと、便利に使うためにさまざまなサービスを入れていくマイナポータルは区別して考えなければなりません。国民には混同があるので、きちんと説明することが必要です」

●国民が嫌だと思っているのは「国家に一元管理されている」ということ

ーー今回の混乱を受けて、自民党は、国民の銀行口座とマイナンバーを紐づけて管理する議員立法を検討していると報じられました。

「銀行に多大なコストがかかり、彼らの協力を得なければならないことなので、簡単ではないと思いますが、スムーズな給付へのきっかけになるのではと思っています。

日本では、NISA(少額投資非課税制度)など証券口座はマイナンバーを届け出なければなりません。銀行は調整がつかず、任意のままです。預金保険機構を活用して一気に付番するという方法もあるはずです。

アメリカは納税者番号がなければ、口座を開けません。スウェーデンも銀行のカードにマイナンバーが記載されていて、国民は首からそのカードを下げています」

ーーこれからマイナンバーやマイナンバーカードへの意識は変わりますか。

「これだけ大規模にマイナンバーを使ったことはなかったので、その点については評価できます。混乱が起きましたが、いつかは通らなければいけない道だったので、国や政治は今回の混乱の原因を検証し、使いやすいシステムに変えていかなければなりません。

よく『マイナンバーでプライバシーが侵害される』と言う人がいますが、『国民の所得情報は、以前から番号で管理されている』という事実を知らない人が多いのでは。国が番号で所得情報を管理することが、果たしてプライバシーの侵害になるのでしょうか。

実は、国民がいやだと思っているのは、プライバシーの侵害ではなく『国家に一元管理されている』ということ。このため日本は、各省庁がマイナンバーを分散管理していて、包括的に一つ一つ法律で決めるようにしているのです」

ーーそうであれば、分散管理していたがために今回、給付がスムーズにいかなったということでしょうか。スムーズな給付につなげるためには何が必要でしょう。

「私は分散管理が問題ではなく、システムの問題だと思っています。オンライン申請をした後も、自治体職員が手作業で住所や口座番号を確認しなければならず、自治体の負担になっています。

システムを地方自治体が整備するのは財政的に厳しいので、国が予算化しなければなりません。デジタル時代のセーフティネットの構築をおろそかにしてきた結果が、今回はっきりしたので、議員立法も含めて、議論を進めなければなりません」

ーー今回のことで、マイナンバーカードが普及するきっかけにはなりそうです。理想論でもいいのですが、将来、どんな活用を期待しますか。

「マイナポータルは国が見ることはできません。そこでこれを個人の家計簿のように使えるようになれば、便利になると思います。そうすればマイナポータルを毎日開くでしょうし、15年ぐらい先には、個人のPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)として活用できるようになれば理想的です」

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