電子証明書を取得するには?費用や手続き、法人における電子申請について解説

電子証明書を取得しておくと、会社設立時もその後のさまざまな手続きにも利用できます。 役所等へ出向いたり、申請・取得を待つ時間が短縮でき、手数料が安くなることもあります。
そして2020年4月より、特定の法人について電子申請は義務化されました。今後も義務化の範囲は拡大する見込みがあるので、電子証明書についての知見を深めておきましょう。
目次
電子証明書とは
電子証明書とはインターネット上での身分証明のようなものです。
通常の文書では、その文書に付された作成者の署名や印鑑によって証明されますが、PDF等の電子文書の場合は、情報が途中で改ざんされる危険性があります。
そのようなことを防ぐために、電子証明書は、作成された電子文書がその作成者のものであること、改ざんされていないことを、電子認証局を通して法的に証明するものです。つまり、電子証明書は印鑑証明書、電子署名は実印の代わりとなります。
電子証明書を利用するメリット
電子証明書を利用することによって、官公庁や地方自治体への申請・届出などの手続きについて、以下のような利点があります。
- 夜間や休日でも24時間手続きができる
- 役所等へ出向くための往復時間や待ち時間を省略できる
- 自宅やオフィス、遠隔地からでもオンラインで手続きできる
- 郵送コストが削減できる
- 用紙の入手や記入が不要
- 書面申請に比べて申請手数料が安くなることがある
- インターネットバンキングやATMを利用して手数料等の電子納付が可能
- 申請後の進捗状況を確認できる
また、行政手続きのほか、民間企業間における電子契約での利用も可能です。今まで紙で作成していた契約書を電子ファイルに置き換え、印鑑の代わりに電子署名を行います。
利用可能な行政手続き
以下のような手続きについて、電子証明書を利用することができます。
- 国税/地方税の電子申告(e-Tax/eLTAX)
- 官公庁や地方自治体への社会保険・労働保険関係申請手続(e-Gov)
- 各種登記のオンライン申請/印鑑証明書のオンライン請求/供託のオンライン申請
- 輸入(納税)申告/輸出申告
- 自動車保有関係手続のワンストップサービス
- 特許庁への電子出願
- 各府省や地方自治体への電子入札
2020年4月から一部企業で電子申請義務化
2020年4月より、下記のような特定の法人について電子申請が義務化されました。
- 資本⾦、出資⾦⼜は銀⾏等保有株式取得機構に納付する拠出⾦の額が1億円を超える法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
行政手続きのコスト削減が目的ですが、その必要性は上記法人以外でも同じことがいえます。そのため、今後も義務化の対象範囲は拡大されることが見込まれます。
また、すべての手続きが義務化されるわけではなく、対象となる範囲は、健康保険・厚⽣年⾦保険、労働保険、雇用保険関係の手続きなど、頻繁に行わなくてはならない手続きに限られます。
特に、上記に該当する法人は従業員数が多い会社が大多数と考えられます。電子申請の手続きを失念するとその影響も大きく、コンプライアンス遵守の観点からも留意が必要と言えます。
電子証明書を選ぶポイント
電子申請などのサービスを利用するには、事前に電子証明書を取得しておく必要があります。電子証明書は発行している認証局によって証明対象やかかる費用、その形式も異なります。
そこで電子証明書を選ぶポイントとともに認証局の違いも理解しておきましょう。
利用内容に対応した認証局を選ぶ
電子証明書は複数の認証局(発行している機関)があり、認証局によって証明対象や利用できる用途に違いがあります。
公的個人認証サービスは、個人を証明する電子証明書であり、個人の国税に関する各種手続について電子的に手続きを行う際に使われるものです。
ほかの認証局より低コストで発行できますが、あくまで個人を対象としているため法人として利用できる用途は極めて限定的です。そのため、個人事業主向きといえるでしょう。
法務省発行の商業登記に基づく電子証明書は、法人を証明するためのものです。法人の電子申請全般を行うことが可能で、幅広い用途に対応しています。
民間認証局発行の電子証明書も個人や法人を証明する電子証明書として広く利用されているもののひとつで、特に電子入札では、商業登記に基づく電子証明書よりも広く利用されています。しかし、電子申請については商業登記に基づく電子証明書より用途が限定的です。
有効期限と料金を確認する
電子証明書を取得するには発行手数料がかかります。
公的個人認証サービスは、マイナンバーカードに電子証明書を記録する方法で行われるものですが、有効期間は発行の日後5回目の誕生日までです。原則として電子証明書の発行・記録の手数料は無料です。
利用者の氏名や住所に変更があると、署名用電子証明書は使えなくなります。一方、一方、利用者証明用電子証明書については、失効しません。
商業登記に基づく電子証明書は証明期間に応じて金額が定められており、証明期間は3か月〜27か月まで3か月単位で選ぶことができます。
証明期間中は、何度でも申請手続等に電子証明書を利用することができるが、期間中に商号や代表者の氏名などの変更登記がされた場合、その電子証明書は無効となり再度取得しなければならないため注意しましょう。事前に変更の予定がある場合には、期間を短く選択することがおすすめです。
民間認証局発行の電子証明書は、扱う会社に応じて金額は様々ですが、法務省発行の商業登記に基づく電子証明書よりも多少割高となってしまうため、法人であれば法務省発行の商業登記に基づく電子証明書を利用する場合が多いです。
ICカード形式かファイル形式を選択
電子証明書には、ICカード形式とファイル形式の2種類があります。
ファイル形式はパソコンに直接ダウンロードし、場合によってはCD-ROMやフロッピーディスクに格納する方法で行うものです。
複数のパソコンで利用できることがメリットのひとつですが、同時に、共有パソコンにダウンロードすれば誰でも利用でき、コピーも可能ということなので、不正コピーや社外流出のリスクを伴います。
その点、ICカード形式はカード自体が不正アクセスを拒否する機能をもっているためコピーは不可能であり、機密データが外部に流出するリスクを防止することができます。
しかし、ICカード形式はICカードを読み込むためのカードリーダライタを別途用意する必要があります。
認証局 | 電子認証登記所 | 公的個人認証サービス | 民間認証局 |
---|---|---|---|
発行者 | 法務省 | 市区町村 | 民間企業 |
証明対象 | 法人 | 個人 | 個人 |
電子証明書の形式 | ファイル形式 | ICカード形式 | ファイル形式 ICカード形式 |
このように、唯一法人を証明することのできる電子認証登記所はファイル形式となります。
法人がICカード形式での利用を希望する場合、電子証明書の発行申請を代理しICカードへの格納までの対応をしてくれる、法人認証カードサービスを行う民間認証局に依頼しなくてはなりません。
電子証明書の種類・費用の一覧表
このように、電子証明書は、複数の認証局(発行している機関)があります。しかし、それぞれで取得できる対象者(法人・個人)が限られたり、費用や有効期間、それによってできる手続が異なります。そこで、代表的な認証局を以下の通り一覧表にしました。
認証局 | 対象者 | 取得費用 | 有効期限 | 特徴 |
---|---|---|---|---|
公的個人 認証サービス | 個人 | 原則として電子証明書の発行・記録の手数料は無料 | 発行の日後5回目の誕生日まで | 市区町村が窓口。 マイナンバーカードにデータを記録して使用する。行政手続き対応可。 |
電子認証 登記所 | 法人 | 2,500円/3か月 15,100円/2年 (消費税なし) | 3~27か月まで | 法人の代表者が対象となるので設立登記終了後の取得となる。 ICカードリーダライタが不要の為、初期費用が抑えられる。行政手続き対応可。 |
<民間認証局> 帝国データバンク | 法人/個人 | 28,000円/2年 33,000円/3年 (消費税別途) | 2~約4年10か月まで | 官公庁のシステムはほぼ利用可。 企業間電子商取引にも使用されている。 指定のICカードリーダライタが必要となる。 |
<民間認証局> 日本電子認証 | 法人/個人 | 15,000円/1年30日 28,000円/2年30日 (消費税別途) | 1年30日~5年まで | 電子入札中心だが、官公庁のシステムはほぼ利用可。 指定のICカードリーダライタが必要となる。 |
<民間認証局> セコムトラストシステムズ | 個人 | ダウンロード形式14,000円/2年 媒体(CD-R)形式16,400円/2年 (消費税別途) | 2年または3年 | 個人の電子入札、電子申請、電子納税で利用可。 ダウンロード形式と、CD-Rに格納する形式の2種類を展開。 |
電子証明書の取得手順
それぞれの認証局によって取得方法は異なります。ここでは一例として、公的個人認証サービスと電子認証登記所での、電子証明書の取得方法を紹介します。
公的個人認証サービスの電子証明書の取得手順
1.マイナンバーカード(ICカード)を入手する
住民基本台帳に記録のある市区町村が窓口となります。
必要なもの
- 通知カード
- マイナンバーカード交付申請書(窓口にあります)
- 身分証明書
- 顔写真
- 印鑑
2.マイナンバーカードに電子証明書を記録する手続きをする
住民票のある市区町村役場で、マイナンバーカードに電子証明書を記録してもらうことができます。原則として電子証明書の発行・記録の手数料は無料です。
必要なもの
- 電子申請証明書新規発行申請書(窓口にあります)
- マイナンバーカード
3.ICカードリーダライタ(ICカードに記録された電子情報を読み取る機器)を用意
市区町村によって発行されるICカードにより、利用できる機器は異なります。事前に問い合わせるか窓口にて確認しましょう。ICカードリーダライタは家電量販店やネットで2,000円程度で購入できます。
4.利用者クライアントソフトをダウンロードして設定
公的個人認証サービスのホームページよりダウンロードできます。インストールが完了したら、画面の案内に従って設定を行えば、実際に手続きを行うことができます。
電子認証登記所の電子証明書の取得手順
1.専用ソフトウェアをダウンロード
法務省が提供する専用ソフトウェア「商業登記電子認証ソフト」をダウンロードします。これは法務省のホームページから無償でダウンロードすることができます。
2.「商業登記電子認証ソフト」を起動して申請書等を作成
商号や氏名を入力すると「鍵ペアファイル」、「登記所に提出するファイル(SHINSEI)」「登記所に提出する申請書」が作成されます。
「登記所に提出するファイル(SHINSEI)」をCD、DVD、USBメモリ等に保存し、「登記所に提出する申請書」は印刷して、必要事項を記入します。
3.会社の所在地を管轄する登記所で電子証明書の発行申請手続きをする
必要なもの
- 申請書
- 「SHINSEI」ファイルのみを保存したCD、DVDまたはUSBメモリ
4.電子証明書発行確認票の交付
手続完了後、「シリアル番号」が記載された電子証明書発行確認票が交付されます。
5.「商業登記電子認証ソフト」を起動し電子証明書取得画面を表示
必要なもの
- 「鍵ペアファイル」
- 「電子証明書発行確認票」
「シリアル番号」と「鍵ペアファイル(保存先のアドレスを指定する)」「鍵ペアファイル」パスワードを入力すると電子証明書が取得できます。
こうして、実際に手続きを行うことができるようになります。
おわりに
電子証明書を取得しておくと、オンラインで様々な手続きが行えて大変利便利です。
なお、これから取得を検討している人は、税務・労務関連の業務をお願いしている税理士や社労士が電子証明書を取得していれば、あえて新たに取得する必要はありません。どのような場面で利用したいのかを考えて、取得を検討するとよいでしょう。
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