非効率な「確定申告」、技術と制度の進化で「自動納税」の時代はやってくるか?
確定申告

個人事業主やフリーランスの人にとって、毎年書類をかき集めて、漏れなく記入することに骨が折れる確定申告。マイナンバーも導入され、インターネットバンキングやキャッシュレス決済が普及し、仮想通貨まで登場しているのに、確定申告の面倒くささは相変わらずだ。
電子納税といっても、税務署への納税手続きが電子化されたということであって、本質的に納税の仕組みが変わったわけではない。
今後、さらなる技術の進展によって、お金の動きをより把握しやすくなる社会がやってくることも考えられるが、申告など何もしなくても、納税が自動的に完了する時代はやってこないのだろうか。佐原三枝子税理士に聞いた。
●書類集めと転記という面倒臭い「作業」
申告しなくても納税まで自動的完結する社会。どう考えても税理士は要りませんね(笑)
でも、現状のような確定申告の面倒くささが変わるべきだと思います。
その面倒くささの一つが、書類集めと転記という「作業」です。
医療費控除一つとっても、いまだに医療費の領収書を集めて集計している方が多いのではないでしょうか。健康保険組合などが発行する「医療費のお知らせ」から集計することに制度が変わったにもかかわらず、12月までの医療費のお知らせが来るのは確定申告がとっくに終わってから。マイナンバーで各人の医療費を集計できるしくみも、導入当初は決まっていたのに進んでいないようです。領収書を集め、電卓で集計し、入力する・・・面倒くさくて非効率です。
●ITを駆使している人たちはかなり効率的になっている
一方、1年間の事業にかかる資料といったら医療費とは比べ物にならない量ですが、この辺りは、ITを駆使している人たちはかなり効率的になっています。
銀行はネットバンキングから、カードはカード会社から、請求書は請求書ソフトから、給与は給与ソフトから、わずかな現金取引で生じた領収書はスキャナで読み込み、それぞれデータとして会計ソフトに流し込んで決算まで行っています。ソフトによっては所得税の申告まで連動しているものもありますから、このような方にとっては確定申告はすでに「自動」の領域に入っているかも知れません。
従来のやり方と異なる点は、紙でのデータが極端に少ないということです。現金取引がほとんどないため、書類から解放されており、書類集めと転記の手間がないのです。
ただ、日本の事業者のうち、ネットバンキングを行っていない人が半数以上というデータがあるそうです。いくら社会がIT化しても、人がそれを利用していないのが現状です。
●もう一つの壁は「日本の税法」
アフリカでは、送金しようにも銀行が近くになくて不便なことが、スマホ保有率を上げ、ペイパルなどによる決済手段や仮想通貨を普及させたといわれています。一方の日本では、少し前まで行員さんが現金の受け渡しに来ていたなどというサービスがあり、そのような手厚さが日本の生産性を低いものにし、IT化が出遅れてしまったとすると皮肉なことです。
ともあれ、会計・申告業務がIT化でかなり自動化できたとしましょう。それでも、「知らないうち」に税金の計算ができている、という風にはなかなか進みません。そこには税法の壁があり、自動的にできたものが正しいかどうかを検証する必要があるからです。面倒くささのもう一つが「日本の税法」なのです。
日本の税法は複雑で、それが税理士という職業を成り立たせている、とも言えます。これがシンプルにならない限りは、国として申告から納税までが自動化することはないでしょう。
●エストニアは税法も極端にシンプルにした
ところで、皆さんはエストニアという国をご存知でしょうか。徹底したIT化を国家戦略として掲げ、なんでもデータで完結する社会を作り上げました。その結果、税理士はほぼ不要になったのです。
しかし、それはIT化だけが原因でなく、税法も極端にシンプルにしたことを見逃してはいけません。ITで企業の入出金を国が把握するとともに、「経費」という概念が不要な税法にしました。会社にお金が溜まっている間は税金をかけず、それを配当で取り出したときに税金をかけるだけ、というのです。(給与は別)
また、日本の消費税に相当する税金はありますが、これは国が企業の入出金を把握しているため、自動的に計算されるとのこと。これにより、企業は節税対策や経理事務に神経をとがらせることなく、本業にいそしむことができ、国力が上がる、という考え方をエストニアはとりました。さらに、税務調査も提出書類の整理もほぼ要りませんから、税務署職員も少なくて済み、行政の運営費も抑制できるのです。
日本がここまで変わるかはわかりませんが、2020年には年末調整を手始めにかなり自動化が進みます。年末調整とはいえ、保険料の控除証明書を会社に提出したり扶養申告書を書いたりと完全な自動ではありません。まずはそこからです。
10年後に要らなくなる職業に税理士が入っています。
私は税理士ではありますが、税理士が今のような仕事をしている社会がもし10年後も続いているとしたら、日本という国の生産性が低すぎて、税理士どころか日本の存在も危ういでしょう。そういう思いで、一人一人が時代の流れを感じて、やり方を変えていく時だと思います。
【取材協力税理士】
佐原 三枝子(さはら・みえこ)税理士・M&Aシニアスペシャリスト
兵庫県宝塚市で開業中。工学部やメーカー研究所勤務から会計の世界へ転向した異色の経歴を持つ。「中小企業の成長を一貫してサポートする」ことを事務所理念とし、税務にとどまらず、経営改善支援、事業承継や海外事業展開の支援を手掛けている。
事務所名 : 佐原税理士事務所
事務所URL:http://www.office-sahara1.jp/