【保存版】簡易課税制度とは?計算方法や事業区分の判定などわかりやすく解説

事業者にとって負担金額が多くなりがちで重要な支出のひとつが「消費税」です。事業を始めたばかりであったり、売上が一定の規模を満たさない場合には免除されますが、基本的にはどの事業者も納税義務があります。
売上が一定額以下の場合は、「簡易課税制度」というしくみを利用して納税額を計算することで、大きな節税につながることがあります。
この記事では、簡易課税における計算方法やメリット・デメリット、簡易課税を採用することで得する業種などについて解説します。
目次
簡易課税とは
簡易課税とは、仕入控除税額の計算を簡素化した方法のことをいいます。仕入控除税額とは、消費税の納付額の算出にあたり、売上等の消費税額から控除する消費税のことです。
原則的な計算方法では、実際の取引額をもとに納税額を算出しますが(一般課税、本則課税などと呼ばれます)、計算が複雑で事業者にとって事務的負担が多く、これを軽減するために簡易課税制度が設けられています。
簡易課税の適用要件と手続き
簡易課税は、どの事業者でも適用できるわけではありません。以下2つの要件を満たす事業者のみ、原則的な計算方法と選択適用することができます。
- 課税期間の前々年、または前々事業年度における課税売上高(※)が5000万円以下である
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している
ただし、簡易課税を選択した場合、2年間は簡易課税を継続しなければなりません。
※課税売上高の計算方法
事業を行う上での取引には、消費税がかかる取引とかからない取引がありますが、課税売上高とは、消費税がかかる取引における売上の消費税抜きの金額のことを指します。
取引には、「課税取引」、「不課税取引」、「非課税取引」、「免税取引」の4種類があり、この中で消費税がかかる取引は「課税取引」のみですが、課税売上高では「免税取引」も含めて計算します。
つまり課税売上高は、「課税取引の売上(税抜き) + 免税取引の売上(税抜き)」という式で求めることになります。
消費税簡易課税制度選択届出書の提出期限
簡易課税制度の適用を受けるには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を、簡易課税の適用を受けようとする課税期間の開始前日までに、納税地を所轄する税務署へ提出します。提出期限に遅れてしまうと、その課税期間中は簡易課税を選択することができません。届出書は国税庁のホームページからダウンロードできるので、早めに準備をしておきましょう。e-Taxでの手続きも可能です。
新たに届け出が必要となる場合
事業を承継する場合には、後継者が「消費税簡易課税制度選択届出書」の届け出を新たに行う必要があります。具体的には次のようなケースがあります。
- 相続により被相続人の事業を承継した場合
被相続人が提出した簡易課税制度選択届出書の効力は、相続人に及びません。 - 合併があった場合
吸収合併または新設合併によって事業を承継した合併法人には、届出書の効力が及びません。 - 分割があった場合
分割により事業を承継した法人は、分割法人が簡易課税制度選択届出書を提出していても、その効力は分割承継法人には及びません。
簡易課税の計算方法
簡易課税適用時の消費税額は、以下の方法で算出します。
課税売上等にかかる消費税額 ー( 課税売上等にかかる消費税額 × みなし仕入率 )
売上等にかかる消費税額に、事業区分に応じた「みなし仕入率」を掛けた金額が仕入控除税額となります。
みなし仕入れ率
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第1種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第2種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 |
第3種事業 | 70% | 農業、林業、漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 |
第4種事業 | 60% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業及び第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業となります。 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除く)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
複数の事業を営む場合
2種類以上の事業を営んでいる場合は事業を区分し、事業ごとの消費税額にみなし仕入率を乗じて、それぞれを足していくことで仕入控除税額を求めます。
(第1種事業にかかる消費税額 × 90%) + (第2種事業にかかる消費税額 × 80%)+ (第3種事業にかかる消費税額 × 70%) + (第4種事業にかかる消費税額 × 60%) + (第5種事業にかかる消費税額 × 50%) + (第6種事業にかかる消費税額 × 40%)
計算方法簡略化の特例
複数の事業を営む場合には、条件を満たすことで、ひとつのみなし仕入れ率を全体の課税売上高に対して適用できる特例があります。
【A】2種類以上の事業を営んでおり、そのうち1種類の事業の課税売上高が、全体の課税売上高の75%以上を占める場合
<計算方法>
全体の課税売上高の75%以上を占める事業のみなし仕入率を、全体の課税売上高に対して適用することができます。
【B】3種類以上の事業を営んでおり、そのうち特定の2種類の事業の課税売上高の合計額が、全体の課税売上高の75%以上を占める場合
<計算方法>
全体の課税売上高の75%以上を占める2つの事業のうち、みなし仕入率が高い方の事業にかかる課税売上高にはその事業のみなし仕入率を、それ以外の課税売上高には、低い方のみなし仕入率を適用することができます。
事業を区分していない場合
2種類以上の事業を区分せずに営んでいる場合には、区分をしていない事業の中でいちばん低いみなし仕入率を適用して、仕入控除税額を計算します。
事業区分の判定
簡易課税では、事業区分によってみなし仕入率が異なるため、事業区分を正確に把握することが大切です。業種からおおよその判断はできるかもしれませんが、判断に迷うこともあるかもしれません。
たとえば飲食業でも、店内での飲食や出前を行う場合は第4種事業、店舗で惣菜や弁当を作り、店頭で販売する場合は「商品を製造して販売する」ことから、第3種事業に区分されます。そのほか、不動産業を営んでいる人が、仕入れた土地や建物をそのまま事業者に販売した場合は「不動産業」を営んでいることから第6種事業だと判断してしまうかもしれませんが、このケースは第1種事業に該当します。
このように、事業の中でも取引の内容によっては、ほかの業種として区分しなければならないこともあるので、事業区分の判断は慎重に行いましょう。
特に、複数の事業を営んでいる場合は、それぞれの事業区分をしっかりと行わなければ、正確な仕入控除税額が算出できない可能性があります。判断に迷ったときは税理士に相談をすることをおすすめします。
判定フローチャート

計算方法の違いによる比較シミュレーション
実際の仕入控除税額が、みなし仕入率で計算された仕入控除税額よりも少ない場合は、税負担が軽減される可能性があります。
たとえば、みなし仕入率が50%であるサービス業で、実際の課税売上に対する課税仕入の割合が50%以下となった場合は、簡易課税を選択した方が仕入控除税額が大きくなるため節税につながります。
一方で、課税売上に対する課税仕入の割合によっては、その節税メリットが受けられない可能性もあります。たとえば多額の設備投資を行った場合などは、原則的な方法で計算した方が仕入控除税額が大きくなることがあるので、注意が必要です。
では、計算方法の違いで消費税の納税額にどのような違いがでるのか、実際に例を挙げてシミュレーションをしてみます。
例1 サービス業を営んでいる場合
課税売上高:2000万円 課税仕入高:800万円 みなし仕入率:50%
【原則的な計算方法】2000万円 × 10%ー800万円 × 10% = 120万円
【簡易課税】2000万円 × 10%ー2000万円 × 10% × 50% = 100万円
このケースでは、簡易課税を選択した方が20万円の節税になります。
例2 多額の設備投資を行った場合
上記と同じサービス業を営む事業者が、内装工事などで多額の設備投資を行ったと仮定します。
課税売上高:2000万円 課税仕入高:1500万円 みなし仕入率:50%
【原則的な計算方法】2000万円 × 10%ー1500万円 × 10% = 50万円
【簡易課税】2000万円 × 10%ー2000万円 × 10% × 50% = 100万円
このケースでは、原則的な計算方法を選択した方が50万円の節税になります。
以上のように課税仕入高が増加する場合は、原則的な計算方法を選択した方が税負担が軽くなることがあります。
簡易課税を選択した方がよい業種
簡易課税は、みなし仕入率が高いほど仕入控除税額が多くなり、消費税の負担を軽減することができます。そのため、みなし仕入率が高い卸売業や小売業は、簡易課税を検討した方がよいといえます。
また、給与は非課税なので、経費の多くを人件費が占めるような業種も、簡易課税を選択した方が有利になる場合があります。たとえば、IT関連の事業や医療・介護、美容などのサービス業は、経費の多くを人件費が占めるため、簡易課税を検討してみるとよいでしょう。
インボイスの2割特例(軽減措置)とは
「2割特例(軽減措置)」とは、消費税の負担を「課税売上等にかかる消費税✕20%」に軽減できるというものです。
この2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者になった課税事業者が対象となります。ただし以下のような場合は2割特例の対象外となります。
- 基準期間における課税売上高が1,000万円を超える
- 消費税課税事業者選択届出書を提出した
- 資本金1,000万円以上の新設法人
- 課税期間の短縮の特例を受ける場合
たとえば第3種事業の場合、簡易課税制度を利用した場合に納める消費税は、売上にかかる消費税の30%(みなし仕入率70%)となるので、2割特例のほうが税負担は軽くなります。そのため簡易課税制度と2割特例のいずれを適用するか、慎重に選ぶ必要があります。
なお、2割特例が適用されるのは、2023年10月1日から2026年9月30日までとなっています。
簡易課税を取りやめるときの手続き
簡易課税を取りやめる場合は、適用を取りやめたい課税期間が開始する前日までに、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を国税庁のホームページからダウンロードし、必要事項を記入して納税地を所轄する税務署に郵送または持参をして提出します。e-Taxでの手続きも可能です。
ただし、簡易課税の適用を受けてから原則2年間は、適用を取りやめることができないという決まりがあります。つまり不適用届出書は、簡易課税の適用を受けた課税期間の初日から2年を経過していなければ提出することができないので注意しましょう。
簡易課税を取りやめるタイミング
簡易課税を取りやめるタイミングのひとつとして、多額の出費が予想される年が目安となります。前述の比較シミュレーションでも説明したとおり、高額な機械や不動産などを購入したり、多額の設備投資を行った年は、原則的な計算方法を適用していた方が消費税額が少なくなる可能性があります。
翌年や翌々年に多額の出費が予定されている場合は、簡易課税の取りやめを検討してみましょう。
おわりに
簡易課税を選択すべきかは、事業の経営状況により異なります。また、インボイス導入に伴い課税事業者となった場合には、2割特例の適用も可能です。
なお、簡易課税を選択していても計算が複雑になる場合もあります。税務申告のなかでも特に消費税申告は難易度が高いため、少しでも不安なことがあれば迷わず税理士に相談するようにしましょう。
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