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東京都の巨額消費税申告漏れ……公的組織でも起こりうる「税務リスク」から企業が学べる教訓とは?

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東京都の巨額消費税申告漏れ……公的組織でも起こりうる「税務リスク」から企業が学べる教訓とは?
soraneko / PIXTA

2025年9月、東京都は都営住宅等事業会計について、5月に東京国税局から2022年度以前の事業分について照会を受け、消費税の申告・納付漏れが発覚したと公表し、話題となった。

時効にかからない2019年度から2022年度分までの、総額約1億3,642万円(消費税約1億1,965万円、延滞税約1,079万円、無申告加算税約598万円)を税務署に納付したと公表。

都住宅政策本部は「特別会計は一般会計と同様に申告・納税の義務がない」と誤認しており、一般会計から特別会計に変更された2002年度以降、消費税を申告・納付していなかった。

東京都でさえ、思い込みや誤認で申告漏れが起きている。この巨額の消費税申告漏れから、企業が学ぶべき教訓やリスクとはどのようなものだろうか。田中将太郎税理士に聞いた。

●消費税の時効は原則5年。意図的な隠ぺいで7年に延長されるリスク

ーー消費税を申告・納税しなかった場合、何年で時効が成立するのでしょうか。

消費税の未納に関する時効は、一般的には5年です。これは国税通則法で定められた「国税の消滅時効」の基本期間となります。

今回、東京都が納付を行わなかった2002年度から2018年度までの17年分については、すでに時効が成立しているため納付義務がなくなりました。

ただし、脱税の意図が認められるような重大な不正行為や隠ぺいがある場合は、時効が5年から7年に延長される可能性があります。

今回の都の事例では「特別会計は申告義務がない」という誤解が原因だったため、意図的な脱税ではないと判断されたのでしょう。しかし企業の場合、「申告義務を知らなかった」という主張だけでは、必ずしも時効の保護を受けられるとは限りません。経理部門や顧問税理士による事前の確認義務が問われることになります。

●消費税の申告漏れが指摘された際のペナルティは重い

ーー消費税を申告・納税せず、税務署等から指摘された場合、一般的にはどのようなペナルティが発生するのでしょうか。

発生し得る主なペナルティについては、一般的に(1)の義務である本税を納めるほか、(2)〜(4)の優先順位で発生します。

(1)本税(納めるべき消費税)

まずは納税漏れとなっている税金本体を支払う必要があります。

(2)延滞税

次に、納税が延滞したことに対する利息です。納期限の翌日から日割りで計算され、次のような計算式となります。

・延滞税 = 納付すべき本税の額 ✕ 延滞税の税率 ✕ 日数 ÷ 365

延滞税の税率は、最初の2か月は年2.4%、以降は年8.7%(令和4年~令和7年の適用率)が適用されています。この税率は毎年見直されます。

(3)無申告加算税(通則法66)

無申告加算税は、期限内に申告をしなかったことに対する「罰金」です。申告が1日でも遅れると課され、自主的に申告した場合と税務調査で発覚した場合などで税率が変わります。

・無申告加算税 = 納付すべき本税の額 × 無申告加算税の税率

無申告加算税の税率は、本税の金額に応じて15%〜30%となりますが、自主的に申告することで5%〜25%まで軽減されます。

<無申告加算税の税率>

・原則…本税が50万円以下の部分:15%/本税が50万円超300万円以下の部分:20%/本税が300万円超の部分:30%

・税務調査の通知後に自主的に申告…本税が50万円以下の部分:10%/本税が50万円超300万円以下の部分:15%/本税が300万円超の部分:25%

・税務調査の通知前に自主的に申告…5%

(4)重加算税(通則法68)

申告内容に仮装や隠ぺいがあると、無申告加算税に代えて、重加算税が課されます。重加算税の税率は40%となっており、無申告加算税よりも高い税率が課されることになります。
 
・重加算税 = 納付すべき本税の額 ✕ 重加算税の税率

●税務当局からの「照会」があった際の初期対応5つのポイント

ーー今回、国税局の「照会」で発覚しましたが、一般企業に対して税務当局からの照会があった場合、どのように対応するのがよいのでしょうか?

国税局からの「照会」は、税務調査の入り口です。対応を誤ると、その後の調査の進行が大きく変わってくるため、初期対応が極めて重要です。以下の5つのポイントを押さえて対応しましょう。

ポイント1)照会の意味を正しく理解する

照会とは、税務当局が特定の取引や項目について「詳しく教えてください」と求める段階です。まだ「申告漏れがある」と認定された段階ではありません。ここで焦って不正確な情報を提供したり、曖昧に回答したりすれば、後の調査で「隠ぺい意図があったのでは」と疑われる可能性があります。

ポイント2)正確な情報を収集してから対応する

照会に対しては、社内で必要な情報を整理した上で、正確かつ完全な回答を心がけるべきです。「分かりません」と答えるより、「確認した上で後日お答えします」という対応の方が、税務当局からの心象も良好です。

経理部門だけでは判断できない場合は、顧問税理士に相談し、専門的なアドバイスを受けた上で対応することをお勧めします。

ポイント3)不備があれば早期に修正申告を検討する

もし照会の過程で「実は申告漏れがあった」と気付いた場合、自主的に修正申告を行うことは、後々の調査トラブルを大きく減らすことができます。税務当局から指摘される前に自分たちで気付いて対応する姿勢は、加算税の軽減にもつながりやすいです。

ポイント4)コミュニケーションを大切にする

税務当局との対応では、「隠ぺいしようとしている」と思われないことが重要です。不誠実な回答や遅延は、さらなる調査の深掘りを招きます。

一方、「分からないことは分からない」と正直に答え、必要なら専門家に相談して対応する姿勢は、信頼関係の構築につながります。また後日の齟齬を避けるために、口頭でなく書面での回答の方が望ましい場合があります。

ポイント5)記録と証拠を整える

照会への回答と同時に、その根拠となる帳簿、領収書、契約書などの証拠資料も整理しておきましょう。これらが揃っていれば、その後の調査がスムーズに進み、余計なペナルティの追加もしにくくなります。

その過程で、もし申告内容の誤りを発見した場合は、自主的に申告することで無申告加算税を減らすことができます。

●一般企業が陥りやすい消費税の申告漏れ6つの落とし穴

ーー例えば一般企業でも、消費税の申告漏れに繋がりやすい具体的な取引・項目などがあれば教えてください。

消費税の申告漏れは、「ルール理解の漏れ」と「システム管理の隙間」に生じることが多いです。企業が特に気を付けるべき主な項目を6つご紹介します。

(1) 課税事業者・免税事業者の判定ミス

基準期間の課税売上高が1,000万円以上であれば課税事業者になりますが、「特定期間」制度を見落としがちです。前年の前半6か月の課税売上高が1,000万円を超えた場合、翌年は課税事業者になる可能性があります。また、インボイス登録事業者は「免税事業者ではない」ため、売上が1,000万円未満でも免税にはなれません。

(2)インボイス経過措置の誤適用

免税事業者からの仕入の仕入税額控除は、2023年10月~2026年9月までは80%、2026年10月~2029年9月までは50%、2029年10月以降は0%と段階的に削減されます。「インボイス登録番号がない請求書は全く控除できない」と誤認し、期間中の経過措置を見落とすケースや、登録番号を確認せずに全額を仕入税額控除としてしまう例があります。

(3)95%ルール・5億円超ルールの誤認

課税売上割合が95%未満、または課税売上高が5億円を超える場合、仕入税額控除を全額取ることができず、按分計算が必要です。居住用物件の賃貸収入などの非課税売上が多い場合、課税売上割合が95%を下回り、控除額が大きく減ることがあります。

(4) 海外取引のリバースチャージ課税漏れ

海外企業が提供するインターネット等を通じて提供されるサービスの利用料などは「リバースチャージ方式」が適用され、海外企業に代わって日本企業が申告・納税する責任を負います。海外請求書に消費税が記載されていないため、消費税なしと誤処理しやすい項目です。

(5) 高額特定資産取得に伴う免税・簡易課税制限

税抜1,000万円以上の固定資産を取得した場合、翌課税期間から3年間、免税点制度と簡易課税制度の使用が制限されます。そのため本来は免税事業者となる年度でも強制的に課税事業者として申告する必要があります。

(6) 輸出免税の証憑不備

輸出取引は消費税が免税とされますが「輸出許可書」「契約書」「インボイス」などの証憑保存が必須です。書類不備等で免税が否認される例があります。

上記のように消費税には非常に細かい決まりがあります。企業規模に関わらず「これは消費税の対象だろう」という推測で進めるのではなく、要件を細かくチェックして判断することが重要です。

【取材協力税理士】
田中 将太郎(たなか・しょうたろう) 税理士・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業後、シカゴ大学ビジネススクールでMBAを取得。公認会計士試験合格後、監査法人の国際金融部で財務諸表監査や国際会計基準(IFRS)導入アドバイザリーに従事。 その後、経営コンサルタントとして大企業向けの経営戦略、マーケティング、M&A等を支援。現在は、(株)田中国際会計事務所およびIGNIQ税理士法人を設立し、クラウド会計やAIツールを駆使した会計、税務、M&A等のサービスを展開。Youtubeチャンネル「たなSHOW: お金と経営の学校」等のSNSでの情報発信も積極的に行う。
事務所名:
株式会社田中国際会計事務所
田中将太郎公認会計士・税理士事務所
【事務所HP】https://shotaro-tanaka.com/
【Youtube】たなSHOWチャンネル:https://www.youtube.com/@tanashow_cpa

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