ニューヨーク公共図書館はなぜ「世界一の図書館」なのか? 理念と予算獲得の舞台裏を映画に - 税金やお金などの身近な話題をわかりやすく解説 - 税理士ドットコム

税理士の無料紹介サービス24時間受付

通話無料 0120537024

  1. 税理士ドットコム
  2. 税金・お金
  3. ニューヨーク公共図書館はなぜ「世界一の図書館」なのか? 理念と予算獲得の舞台裏を映画に

税金・お金

ニューヨーク公共図書館はなぜ「世界一の図書館」なのか? 理念と予算獲得の舞台裏を映画に

ニューヨーク公共図書館はなぜ「世界一の図書館」なのか? 理念と予算獲得の舞台裏を映画に
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」より

ニューヨーク公共図書館(NYPL)といえば、世界でも最も著名な図書館の一つ。正面にライオンの彫像を抱えた、重厚なボザール様式の建築で知られる本館を含め、92館の図書館から構成される知の殿堂だ。年間の予算は約414億円(3億7000万ドル)。日本の国立国会図書館の予算186億円(平成31年度当初予算)と比べても、2倍以上の規模を誇る。

その巨大図書館の舞台裏をつぶさにとらえたドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」が5月18日から、東京都千代田区の岩波ホールで公開される(全国順次)。監督はドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマン。約3時間半にも及ぶ映画では、地域の小さな図書館の日常から、利用者が入り込めないような役員会議の意思決定の場まで、カメラは容赦なく映し出している。

この映画を見れば、NYPLがただの書庫ではなく、市民社会に欠かせない情報拠点であり、市民の生活を支えていることがわかる。映画公開前に来日したNYPLの渉外担当役員、キャリー・ウェルチさんは、「デジタルの時代だからこそ、図書館の重要性が増すと思います」と語る。世界中が注目するNYPLとは一体、どのような図書館なのだろうか? (弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「人力Google」と呼ばれる司書たち

映画は、ベストセラー「利己的な遺伝子」で知られるリチャード・ドーキンス博士のイベントの場面から始まる。ドーキンス博士が、アメリカ社会のキリスト教原理主義を容赦なく批判するのを、利用者たちは足を止めて聞き入っている。これは、エントランスに近い場所で開かれていた人気のトーク企画という。世界的に著名な学者の話を、誰もが無料で気軽に聞ける。まさに、情報拠点である図書館の象徴ともいえる。

そこからは、ナレーションもなく、語り手も不在のまま、怒涛の勢いでNYPLの日常が映し出されていく。利用者からの質問に対し、電話で即答する「人力Google」と呼ばれる司書たち。地域の図書館でダンスをする高齢の利用者たち。NYPLが熱心に行なっている就職支援のプログラムで職場の説明をする消防署の職員。「図書館は本の置き場ではない。図書館は人です」と断言するオランダの建築家。そして、どうやって予算を獲得するか、今、市民が抱える課題は何か、10年後に必要とする人のためにどの本を買うべきか、会議で議論する幹部たち。映像のシャワーを浴びているうちに、やがて、NYPLの輪郭が浮かび上がってくる。

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asset.zeiri4.com/topics/1412.jpg

●日本の図書館との違いは?

映画の公開前、東京都千代田区の日比谷図書文化館で関係者が登壇するトークイベントが4月12日、開かれた。NYPLについて口火を切ったのは、その活動を取材した「未来をつくる図書館」(岩波新書、2003年)の著者で、アメリカ在住のジャーナリスト、菅谷明子さんだ。

菅谷さんはフリーランスになってから、データベースを使うために図書館に通い始め、日本の図書館との違いに気づいたという。

「毎日、図書館に来ている人たちがたくさんいました。環境問題の活動家や起業しようとする人、訴訟に巻き込まれた人などでした。日本の図書館は、本を借りて教養を高めるというイメージですが、ここでは利用者が図書館の情報を活用してステップアップしようとしていました」

NYPLのビジネス支援を中心に紹介した菅谷さんの著書は2000年代前半、日本の図書館界にも大きな影響を与え、全国のビジネス支援図書館が生まれるきっかけとなった。

今回のドキュメンタリー映画について菅谷さんは、「ワイズマン監督は、私たちを透明人間にして、NYPLに送りこみ、現場に立ち会わせてくれるのが魅力です。この映画は、生の素材を提示して、そこからそれぞれ図書館を理解をしてもらう。非常に知性が問われます。3時間以上という上映時間も、何でもお手軽になっていることに慣れている私たちへの挑戦状です」と語った。

●「人々のための図書館」という信念

NYPLは1911年に本館が竣工、資産家アンドリュー・カーネギーらの寄付により各地に分館を増やしてきた。その特徴について、イベントに登壇したNYPLの渉外担当役員で、映画にも登場するキャリー・ウェルチさんは、こう説明した。

「NYPLはとてもユニークな図書館です。125年前、慈善事業をしていたカーネギーは、お父様が出身地のスコットランドで図書館を設立した経験があったことから、本人も図書館には社会にとって重要だという信念を持っていました。

その信念とは、『Library for the people』、図書館は人々のためになければならないというものです。そして、当時、莫大な金額だった500万ドルを自身の資産から寄付し、アメリカ中で図書館をつくりました。NYは人口密集地でしたので、その恩恵を受け、彼の寄贈をもとに19世紀末につくられた図書館が現在も16館あります。

NYPLは現在、4館の研究図書館(注:本館はここに含まれる)と88館の分館で構成されています。とても複雑で巨大な図書館です。地域社会でそこに暮らす人たちにサービスする図書館としての機能と、学術研究のための資料を提供する図書館としての機能を両立させてきたことも特徴です」

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asset.zeiri4.com/topics/1413.jpg

●アフリカ系住民の問題に耳を傾ける館長

映画では、分館が数多く登場する。たとえば、ハーレム地区のマコームズ・ブリッジ分館。研究図書館の一つである「黒人文化研究図書館」の館長が訪れる場面があった。教科書で黒人奴隷について嘘が書かれていると訴える女性教師や、貧しくて学校に行けずに全てを図書館で学んだという男性、白人によって商売を締め出されていると悩む男性。アフリカ系住民が抱える様々な問題を丁寧に聞いた館長は、こう言うのだ。「しかし黒人文化研究図書館がこの地域にはある。あなたもお子さんも一生通うことができる」。

キャリーさんによると、現在職員数は3000人で、こうした分館で働いている職員は2300人。NYPLの役割の一翼を担う分館は「Neighborhood library」(ご近所の図書館)と呼ばれているという。

「分館の利用者には、低所得者やホームレスもいます。そういう方たちのためにどうサポートできるのか。その人が持ってる最高の自分を出現できるようにサービスをしています。また、地域の中のコミュニティセンターとしても機能しています。実際、分館は顔見知りの司書やスタッフのところに、ちょっと相談にいく、といったように使われています。利用者ではなく、愛好者です。ただ利用するだけではなく、地域の人たちとのもっと深い関係を築くことが重要と考えています」

●予算獲得の攻防戦

NYPLが市民にとっていかに重要を理解する一方で、これだけの巨大な組織をどうやって運営しているのか、という疑問がわく。そこで、映画で何度も映し出されるのが、幹部たちの会議だ。会議では方針をめぐり、真剣な議論がかわされ、時には意見が対立することもある。

特に重要なのが、予算の問題だ。NYPLは公立ではない。独立法人によって運営され、財政基盤はNY市やNY州からの公金と民間からの寄付で成り立っている。幹部会議でも度々登場するキャリーさんは、前職で国際救済委員会の資金調達を担当、そのモデル構築を行った実績を持っているという。その経歴をみても、NYPLで予算獲得がいかに重視されているかが伝わる。

キャリーさんは現在の予算について、こう説明する。

「予算は年間3億7000万ドルで、その50%がNY市からの公的な資金です。これらは、地域館のために使われます。NY州からの2000万ドルは研究図書館のためのものです。残りの資金は民間からの寄付になります」

NYPLでは、予算獲得のために、市長や市議会に働きかけを行なっているという。

「交渉は面白くないし、成果もなかなかあがりません。ブルームバーグ市長の時代から、市からの予算は横ばいでなかなか伸びませんでした。私たちはそれをダンスを踊ることにたとえています。ああいえばこういう、といった感じで前へは進みません。

でも、今の市長になってからは、彼が掲げている重要目標と私たちのサービスが重なってきました。たとえば、彼は早期からの読み書きが大事だといい、私たちが行なっている幼児の段階からの識字教室を支援することは、公約の実現につながるので、予算獲得に寄与しています」

映画でもクリスマスが近く時期、来年の準備を話し合う幹部会議で、館長がいみじくもこう発言している。「資金を得るために政治家へのメッセージが必要だ。それも、『週6日開館』といったシンプルな主張が受ける」

https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asset.zeiri4.com/topics/1414.jpg

●「NY公共図書館があったから、生きられた」

こうしたNYPLの舞台裏を見ていると、サービスだけでなく、図書館に対する意識が日本の公立図書館とは全く異なっていることに気づく。キャリーさんが、イベントでこう語ったのが印象に残った。

「公的な資金だけでなく、民間からの寄付をいただいています。少額でも寄付してくださる人の中には、『NYPLがあったから、英語の読み書きを覚えることができて、就職もできて、生きていくことができた。今の自分があるのは、図書館のおかげだ』と言ってくださる方もいます」

NYPLは、「公共図書館」と呼ばれる。つまり、誰に対しても開かれた図書館であるということだ。キャリーさんは重ねてこう語った。

「今、デジタルの時代だからこそ、物理的な空間、場所としての図書館の重要性が増すと思います。といいますのは、今のNYで、一銭も払わずに安全に時間を過ごせる場所は、図書館くらいしかありません。そこでネットにもつながるし、情報も得られます。

そういう場所であり続けることが、とても大事だと思っています。気を許すと自宅でひとりぼっちでスマホの画面を見てしまっているのが当たり前の時代だからこそです」

(税理士ドットコム トピックス)

税金・お金の他のトピックスを見る

新着記事

もっと見る

公式アカウント

その日配信した記事やおすすめなニュースなどを、ツイッターなどでつぶやきます。

協力税理士募集中!

税理士ドットコムはコンテンツの執筆・編集・監修・寄稿などにご協力いただける方を募集しています。

募集概要を見る

ライター募集中!

税理士ドットコムはライターを募集しています。

募集概要を見る

「税理士ドットコム」を騙る業者にご注意ください!