「マイナンバー、全口座への紐付けを」菅政権の行政デジタル化に森信茂樹氏が提言
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デジタル庁創設を掲げる菅義偉政権になり、行政のデジタル化が急速に進もうとしています。デジタル化への優先課題の1つがマイナンバー制度です。官邸の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(WG)では、利便性が低いとされてきたマイナンバーカードの活用方法や、データ連携の仕組みの改善、新たな工程表づくりに向けて議論が進んでいます。WGのメンバーで、以前から適切な社会保障の給付のためにマイナンバーの活用を提唱してきた、東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹に展望を聞きました。(ライター・国分瑠衣子)
●全口座を紐づけなければ、社会保障の公平性は保てない
――菅政権になり、マイナンバー制度の改革は進展しますか。
「菅総理は官房長官時代からWGに出席していてメンバーの話を直接聞いているので、スピード感が圧倒的に変わると思います。WGで重要だと感じることは、『紙をやめてオンライン化する』など手段だけではなく、『デジタル化してどのような政策を行うか』という中身を話し合うことです。
WGではマイナンバーカードや個人向けサイト『マイナポータル』をどう使いやすくするかというシステムの議論は進んでいますが、今の段階ではまだ中身については議論されていません。
マイナンバー制度の本来の趣旨は『社会保障給付・負担の公平化』と『適正・公平な課税』です。マイナンバーを活用して、所得情報を正確に把握することは、困窮している人を早く見つけて、適切な社会保障給付をすることです。インフラを整備して終わりだと、本来の目的である効果的な給付に結び付きません」
――WGでは適切な社会保障給付のために、預貯金口座とマイナンバーの紐づけを提言されています。
「預貯金口座との紐づけは、11月以降のWGで議論が始まる予定です。自民党は今年6月、緊急時の給付事務のために1人1口座の振り込み口座をマイナンバー付きで、マイナポータルに登録・管理できるようにする議員立法を提出し、継続審議中です。
これはこれで必要ですが、私はさらに全ての口座を紐づけなければ意味がないと考えています。全口座に付番することによって、相続税などを把握する精度を高めることができます。さらに必要と考えるのは社会保障の面です。現在は給付や負担の多くが所得基準によって決められていますが、高齢者になれば皆さん所得は年金だけになります。
しかし、資産を多く持っている方は負担能力があるので、負担はより多くすべきです。そのためには預金口座を番号と紐づけて、国が調べようとすれば調べることが可能というツールを持つ必要があります。これは、口座残高を国がすべて把握するということとは異なります。これにより社会保障の適正化が図れます」
●プライバシーが侵害されるという根強い誤解
――マイナンバー制度が導入されて以来、口座付番は議論されてきましたが進みませんでした。なぜでしょうか。
「付番によって国が全国民の資産を把握できるようになる、プライバシーが侵害されるという根強い誤解があるからです。付番するのは、預貯金口座の所在を明らかにするということで、国が個人の資産を好き勝手に覗けるようになるわけではありません。
それに口座と番号が紐づいていない今でも国税通則法に基づき、税務調査の時には当局が口座内容を確認できますし、生活保護法の下でも同じことができます」
――日本の預金口座数は10億あるとも言われています。全口座を紐づけるとなると膨大な手間やコストがかかりませんか。
「全国銀行協会は付番に後ろ向きではありません。ただ、コストの問題と法律の立て付けをどうするかという2つの問題があります。既に、証券口座とマイナンバーの紐づけでは証券保管振替機構が介在して付番が効率的に進んでいます。
銀行口座との紐づけは、ペイオフに備えて口座の名寄せを行っている預金保険機構を活用すれば、コストを抑えることができて乗り越えられると考えています。法律の立て付けについては、金融機関側になんらかの付番の義務付けのようなものが必要ではないかと思います。
現状は、利用者が銀行にマイナンバーを提出することは任意です。今後預金者にマイナンバーの告知義務を課すことは反対が多く難しいと思います。法律上付番に向けてどういう立て付けにして、どう書くかが課題になると思います。もっともそのような法案が与党の事前審査で了承されるか、これはよくわかりません」
●マイナポータルとプラットフォーマーのデータ連携を
――現在2割にとどまるマイナンバーカードの普及率を上げようと、国はマイナポイント事業や保険証代わりの利用に加え、運転免許証との一体化すると公表しました。効果はあるでしょうか。
「デジタル化が進むと、免許更新の時の一部の手続きは簡単になるとは思います。ただ、免許証の場合、警察庁の権限の一部をデジタル庁に移すと考えられますが、免許証に関する警察の権限を完全に移行することは難しいと思います。デジタル化で言えば、パスポート申請のオンライン化なども同様でしょう。
マイナンバー制度を国民に便利だと感じてもらうためには、民間を巻き込むことが不可欠です。マイナンバーの個人向けサイト『マイナポータル』では、10月から生命保険会社各社が、生命保険料の控除証明書を電子交付して年末調整や所得税の確定申告を簡単にする連携サービスを始めました。
今後は、例えば銀行口座や自分が勤める会社などとも連携することで、家計簿のように使い、PL(損益計算書)やBS(貸借対照表)としてお金の流れを把握できるようになれば便利になると思います。WGでは民間が参入しやすくするためにAPI(データ連携の仕組み)をどうやりやすくするかについて話し合っています。ITを活用して納税する人の立場に立った利便性の高い申告制度をつくることが大切です。
また、今はウーバーイーツのようなインターネットを通じて単発で仕事を受発注する『ギグエコノミー』の拡大で、フリーランスで働く人が増えています。プラットフォーマーに支払い情報のマイナポータルへの提供を義務付けてデータ連携ができれば、今回のコロナ禍など有事の時にギグワーカーへの適切な給付に結び付き『デジタル・セーフティーネット』が構築できます。
また、公正な税負担という観点からも有効です。多くの民間企業がAPI連携することで、マイナンバーカードを持つメリットが出ると思います」