節税保険が大きく改正。税務における取り扱いの変更点とは

先般、「節税保険」として販売されていた中小企業向け法人保険の税務上の取り扱いについて、大きな変更がありました。
ことの起こりは2019年2月13日、国税庁が生命保険会社に対し、法人における支払保険料の経費算入ルールについて、抜本的に見直すことを伝えたこと。これを受け、各生命保険会社はいわゆる節税保険の販売を自粛する運びとなりました(バレンタイン・ショック)。
その後、定期保険等の新しい税務上の取り扱いについて、パブリックコメントを経て2019年6月28日に法人税法基本通達が改正されたのです。
目次
節税保険といわれる仕組み
まずは一般に、節税保険と言われていたものについて概要を見ていきましょう。
そもそも保険の基本には「リスクに対する保障」という考え方が原点にあります。保険に加入し毎月の保険料を支払っていれば、医療保険であれば病気になったときに保障を受けることができますし、生命保険であれば死亡時に家族等にお金を残すことができます。
しかし、同じ保険という枠組みの商品ではあるものの「リスクに対する保障ではなく、法人向けの節税に使用できる」というセールストークで販売されるものを、一般に節税保険と言っています。
具体的には、会社が契約者となり、経営者や役員を被保険者とした保険で、解約返戻率が高く、毎月の保険料について法人の会計上は「損金(経費)」に計上できるようなものが該当します。
セールストークの内容としては次のようなものです。まず、商品によって異なるものの、毎月の保険料のうち全額、1/2、1/3といった一定割合が経費として計上されます。これにより経費が増加し、その分利益が圧縮されるため、法人税の支払額は減少します。
さらに解約返戻率が80%以上と高く、保険期間満了前に解約すると、支払った保険料の大部分を解約返戻金として受け取ることができます。
このようにして「毎月の保険料を経費に計上しつつ、解約返戻金として受け取ることができる資金を簿外に積み立てることができる」というのが、保険を使った節税スキームといわれる概要です。
ただしこのスキームは、節税というよりも課税の繰り延べというのが本質になります。というのも、解約返戻金を受け取る際に、いままで損金として処理した部分は益金として処理する必要があるため、納税のタイミングを遅らせる効果はあるものの、結局トータルで見ると納税額そのものを大きく低減させるような効果はありません。
なお、セールストークでは「解約返戻金受け取り時に、役員退職金等の大きな支出とタイミングを合わせれば課税されない」というような説明がされますが、本来的には役員退職金を支払うことによる利益圧縮効果と保険による解約返戻金は別の話であるため、節税策として同一に語るのは少々違和感があります。
今回の通達では、このような節税保険といわれる高い解約返戻率の支払保険料の経費算入ルールが見直されることとなりました。
通達による改正内容
では、今回の通達による改正内容をみていきましょう。ポイントは大きくみて次の3つです。
商品ごとの損金算入割合を定めていた「個別通達」の廃止
従来の通達では、たとえば長期平準定期保険等の保険料や法人契約の新成人病保険の保険料、法人が支払う「がん保険(終身保障タイプ)」の保険料のように、保険の種類により「個別通達」という形で税務上の処理方法を規定していました。
これは前述のとおり、法人向け保険が短期での解約を前提とした節税商品として取り扱われているため、新たな保険が販売されるたびに、国税庁がその都度「通達」という形で規制をかけ、規制のたびに保険会社がまた新たな商品を開発するという状況になっていたためです。
国税庁側としては、以後解約前提の節税効果を謳った保険商品の販売に歯止めをかけることを目的として、これまでの各保険商品への個別通達を廃止した上で改正通達へ織り込むこととしています。
最高解約返戻率50%を超える商品の取り扱いを規定
今回の通達では、保険商品の内容や保険期間ではなく、最高解約返戻率を切り口として、節税商品として販売されると思われる最高返戻率50%超の商品の取り扱いを規定しています。
前述のとおり、従来は保険の種類や期間ごとに通達を出していましたが、これでは新たな種類の保険が出るたびに規制をかけなければなりません。保険を利用した節税スキームは高い解約返戻率がキーポイントとなっているため、そこを切り口として保険の取り扱いルールを規定しています。
最高解約返戻率に応じ、損金算入できる割合を3段階に区分
法人を契約者とし、役員または使用人等を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超える商品については、最高解約返戻率に応じて3段階に区分。そして支払保険料に一定割合を乗じた金額を一定期間資産に計上し、残額を損金の額に算入するという取り扱いとなりました(一定の例外を除く)。
従来の取り扱いでは解約返戻率が90%を超えていても支払保険料の1/2を損金に計上できる場合もありましたが、今回の通達では高い解約返戻率と毎月の保険料の損金化が両立しないように意図されています。
なお、資産計上期間経過後については、保険料を期間の経過に応じて損金化するとともに、資産に計上した金額は取り崩し期間において損金の額に算入されます。例外処理を含めた具体的な損金算入ルールについては、通達に細かく記載されていますが、ザックリとしたイメージで簡略化すると次のとおりです。
- 最高解約返戻率 50%超70%以下
保険期間の40/100に相当する期間を経過するまで、支払保険料の40/100を資産計上 - 最高解約返戻率 70%超85%以下
保険期間の40/100に相当する期間を経過するまで、支払保険料の60/100を資産計上 - 最高解約返戻率 85%超
保険期間の開始の日から最高解約返戻率となる期間終了の日まで、支払保険料の70/100(保険期間開始の日から10年を経過する日までは90/100)を資産計上
改正前の契約はどうなるか
それでは通達の改正前の契約については、どのような取り扱いとなるのでしょうか。この点については、国税庁が出しているQAにも明記されていますが、今回の改正通達は令和元年7月8日以後の契約について適用されるため、以前の契約については従来通りの取り扱いとなります。
[Q1]
改正通達の適用時期はどのようになりますか。
[A]
改正後の法基通及び連基通の取扱い(解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険を除きます。)は令和元年7月8日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料について適用されますので、同日前の契約に遡って改正後の取り扱いが適用されることはありません。
また、法基通9-3-5の2及び連基通8-3-5の2に定める解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険又は第三分野保険の保険料については、令和元年10月8日以後の契約に係るものについて、改正後の取り扱いが適用されますので、同日前の契約に遡って改正後の取り扱いが適用されることはありません。
なお、上記のそれぞれの日前の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料については、引き続き、改正前の法基通若しくは連基通又は廃止前の各個別通達の取り扱いの例によることとなります。
(国税庁| 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ(PDF/316KB))
おわりに
保険を使用した節税スキームは良くも悪くも非常に有名であるため、今回の改正通達により今後保険会社各社がどのような動きをしていくのか、注目されるところです。ただ、保険に限らず節税といわれるスキームについては、国税庁の動きにより左右される部分が大きいもの。検討の際には、専門家に相談することをおすすめいたします。
もっと記事を読みたい方はこちら
無料会員登録でメルマガをお届け!