遺言書を遺すなら、忘れちゃいけない「遺言執行者」とは?

遺産相続対策として、遺言書を書く人が徐々に増えてきています。遺言書の書き方などについては、数多く解説されていますが、それ以外にも注意すべきポイントがあります。それは「遺言執行者」についてです。
あまり聞きなれない単語かもしれませんが、実は遺言書を残す際に、遺言執行者を決めるかどうかで、非常に大きな違いが出てくる場合があります。
今回は、遺言書を書く前に知っておくべき「遺言執行者」について解説します。
目次
意外に気がつかない遺言書の落とし穴
遺言書を書く時は、遺言書に記載する遺産分割の内容や、民法上の成立要件などについては非常に気を使うかと思いますが、そもそも重要なことを忘れていませんか?
当然のことながら、遺言書は自分が死亡した後に家族の誰かがそれを見つけて確認することになります。例えば、不動産や株式など複数の遺産の分け方を遺言書に細かく書いたとして、一体誰がその手続きをすると思いますか?
不動産の相続では、相続人全員から書類を回収して、さらに役所から戸籍などを収集した上で法務局に申請しなければなりません。遺産を相続する相続人が手続きをする場合、手続きが煩雑なため時間がかかったり、他の相続人から積極的な協力が得られない可能性もあります。
このように、遺言書というのはあくまで相続発生時の遺産分割方法を記載したある種の「道標」に過ぎず、その目的を達成するためにはその道標に沿って最後まで責任を持って手続きを実現してくれる人が必要なのです。
そして、遺言書の内容を具体的に実現する人のことを「遺言執行者」というのです。
遺言執行者は誰でもできるの?
遺言執行者と聞くと、一定の資格者でなければなれないように聞こえるかもしれませんが、実際は何の資格も必要ありません。
よって、相続人のうちの誰かや、家族や親族などが担うことも可能です。また、一人である必要はなく、複数の人に依頼することも可能ですが、未成年者や破産者についてはなることができません。
ただ、現実的には相続登記など相続に伴って必要となる様々な手続きを円滑に行う必要があるため、通常は弁護士や税理士、行政書士などに依頼することが一般的です。
遺言執行者は誰が決める?
遺言執行者については、通常、遺言書を書く際にその中で遺言執行者も指定します。よって、遺言執行者は被相続人が自分の意思で決めることができます。
ただ、万が一遺言執行者が書かれていない遺言書が発見された場合でも、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てをすることで、遺言執行者を家庭裁判所に選任してもらうことも可能です。
遺言執行者がいるとこんなに便利
遺言執行者がいない場合、遺産相続における各種財産の名義変更手続きや解約手続き等は、原則として全ての相続人の協力を得ながら進めなければならないため、その都度多くの書類が必要になり大変煩わしくなります。
これに対し、遺言執行者を選任している場合は、遺言執行者だけが窓口となって対応することで進められるようになるため、とにかく手続きがスムーズになります。
また、遺言執行者については、遺言書の執行にあたって、たとえ相続人であっても遺言執行の手続きを妨げることができないと規定されているため、協力しない相続人がいる場合でも、これに従わせることができます。
このように、遺言執行者とは遺産分割手続きを「仕切る」権限を持っているのです。
遺言執行者がいないとできない2つの手続きとは?
遺言執行者がいなくても、相続人全員が協力的であれば手続き自体は問題ないでしょう。ただし、次の2つの手続きについては遺言執行者にしかできないので注意が必要です。
相続人の廃除
生前に相続人から虐待などを受けていたような場合は、本人の意思によってその人を相続人から廃除することができます。これを「相続人の廃除」と言います。
相続人の廃除は、生前に家庭裁判所に請求するか、遺言書に廃除する旨を記載するかのいずれかの方法ですることができます。
ただ、遺言書で廃除する場合は、相続発生後に家庭裁判所に廃除の請求をする遺言執行者の選任が必須となります。他の相続人では相続人の廃除の請求はできないので注意しましょう。
子供の認知
生前は家族の手前隠していて、本人の死後に遺言書によって結婚をしていない女性との間に産んだ子供を認知するというケースがあります。
この場合も、遺言執行者でなければ認知届を本人に代わって提出することができないため、必ず遺言執行者の選任が必要です。
おわりに
このように遺言執行者は、強い執行力を持つとともに義務も負います。そのため、遺言執行者についてはたとえ遺言書で指定されたとしても、本人の意思で辞退することができます。ですので、万全を期すためには、やはりプロとして遺言執行を請け負ってくれる弁護士、税理士、行政書士などの専門家に、生前のうちに依頼しておくことをおすすめします。
最近では、遺言書の作成を相談する時に、同時に遺言執行者まで依頼するケースも増えていますので、これから遺言書を書くという方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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