タレントのタレントによるタレントのための経費

元 国税局職員 くらたです。
無人島にひとつ持って行くとしたら「領収証」です。
個人事業でも、法人でも経費があります。税務調査でも経費は精査する項目です。税務署や国税局とあなたの見解が異なって、すり合わせが必要になることも多々あります。税理士と税務署が揉めることだってあります。それくらい不安定なのが経費の取扱いなのです。
ましてや、タレントという職業は、幅広い事業展開、豊富な知識、円滑な接待が求められ、業務に関する支出なのか私的な流用なのか曖昧になることもしばしば。今回は、タレントが税務調査で調査官に指摘された内容やよく聞く事例を紹介します。
そもそも経費って?
まず、そもそもどんなものが経費として認められるかというと「必要経費に算入できる金額」というのが定められていまして、国税庁は次のようにいっています。
総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
つまり、「収入を得るために使ったお金、業務で使ったお金が経費になる」ということです。
さらに、国税庁は、経費を考えるに当たって注意しなければいけないことも教えてくれています。
個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費などがあります。このうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます
つまり、「業務で使ったお金と私的なお金が混ざったときは、レシートとか帳簿でちゃんと分けているときに経費して認められますよ」みたいなことを言っています。ちゃんと財布を2つ持って、分けましょう、ということですね。
経費にならない例
さらに、国税庁は必要経費にならないもの例も示してくれています。なぜこれを示しているのかは分かりませんが、きっとよくある間違い、あるいは、よくある質問なのだとぼくは推察します。
「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費になりません」
「生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金は必要経費になりません(青色申告だと、青色事業専従者給与というのがあって、経費にできます)」
「罰金、科料及び過料などは必要経費になりません」
「公務員に対する賄賂などについては必要経費になりません」
国税庁は、公務員に対する賄賂についてもちゃんと教えてくれています。なんて、親切なんでしょう。きっと、「どうせ経費にできないんだから、我々に袖の下渡すのなんてやめましょう」とか「賄賂を渡す余裕があるなら、経費にしないでもっと納税しましょう」とかそういうことなんでしょう。
賄賂の取扱いが例示されるなんて、日本の経済は成熟したように見えて、まだまだ発展途上国並みです。賄賂を経費にしようなんて、まるでアメリカンジョークです。
「今年は税金が安かったよ」
「どうしてだい?」「役人にたくさん金を払ったからね」
「HAHAHAHA」
タレント経費の具体例
経費の基礎をご理解いただいたら、具体的な事例をご案内します。
タレントというと、接待交際費、衣装、美容関係、小道具あたりが経費計上を迷うでしょう。税法で明確に定められているわけではないので、税務調査で認められるには、客観的な事実を示して、調査官を納得させる必要があります。
飲食代など
まず、接待交際費は、ディレクター、プロデューサー、作家、仕事で一緒だった後輩などに食事を振る舞うのであれば、経費として認められる可能性が高いです。異業種交流会への参加なども仕事につながる可能性があるので、積極的に経費にしてもいいと考えます。
地元の友達と飲んだり、家族と食事をした、子供にお年玉をあげた、親戚の葬式に香典を出した、などは業務と関係ないので、経費にできません。
衣装代など
衣装代は、多くのタレントの方が、テレビで着たものを、プライベートでも着用しているんではないでしょうか。そうなると、経費としての計上は難しい。二つは明確に分けることが望ましいです。
例えば、クローゼットの中で衣装と私服を分けて保管するとか、衣装だけでなく私服を買った時の領収証も保管して区分するとか、やり方はいろいろあります。
また、芸人の方ですと、後輩に服や物をあげる文化があります。経費で買ったものを、可愛がっているという理由だけで譲るなんて、とても業務上の行為とは思えません。あげるなら私服をあげましょう。
税理士さんによっては、「衣装をあげるのはだめです。貸すのなら大丈夫。後輩の方にも、FacebookやTwitterで『◯◯さんからもらいましたー!!』と言わないように伝えてください。税務署が検索してますので」とアドバイスする方もいるようです。ぼくからは、事実と異なる申告はだめですよ、とだけ申し上げたいです。
美容関係について
美容関係は、さらに曖昧です。髪を切ったとか、歯医者に行ったとか、エステに行ったとか、化粧品を買ったとか。業務に関連するとも言えますが、会社員やアルバイトとして生活していても必要になる支払いです。だから、全てを経費にすることはできないと考えます。
仕事で必要だったことが分かるような支払いなら、例えば、ドラマがあってそのために髪の毛を染めたとか、役作りのために奥歯を4本抜いたとか、普段はそんな感じじゃないのにキャラクターで濃いメイクが必要で化粧品を買っているとか、そういったものなら、調査官を納得させやすいのではないでしょうか。
ジム代について
最近多いのは、ジムに通っているお金を経費にするというもの。これは判断が分かれるところだと思います。健康のためにジムに行くのは、他業種でも一般的ですし、例えスタイルを維持するためと宣っても、調査官が納得するとは思えない。
何か業務との関連を示せる環境を作っていただきたい。ジムに通っていることで得られる仕事がきっとあるはずです。その辺は、マネージャーさんと相談してみてはいかがでしょう。
趣味というか私的な支払いを、戦略的に業務と関連させている例ですと、某有名雑誌の漫画家さんが、高級なバイクをよく漫画に登場させていました。自宅のガレージには、登場したバイクがずらりと並んでいて(ずらりという月並みな表現しかできない自らの語彙が情けないです)、プライベートでも乗っているんだろうな、という印象を受けました。
ただ、買ったからって乗らないわけにもいかないでしょうし、一部だけを経費にしている可能性もあります。なんとも調査官泣かせの、上手なお金の使い方です。
小道具代について
最後は小道具。小道具として買ったものはほとんど私的流用はないと思います。また、取材とか資料集めのために支払ったお金も経費となります。
例えば、性風俗のコントをやるから吉原や飛田新地に行ったとか、キャラクターのネタをやるからテーマパークに行ったとか、情報を得ないと仕事にならない、逆に行ったこともない場所を題材にするなんてプロフェショナルとしてあるまじき行為である、と論拠があるわけです。そういったものは概ね認められると考えていただいて、差し支えない。
衣装も、テレビや舞台で着るだけでなく、ファッションの仕事があれば、資料として認められる可能性が高まるでしょう。その辺は、あなたのディベートやプレゼンの能力次第といえるのです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。要は、経費というのは、仕事に関連する支払いであること、仕事に関係ないものもタレントという業種であれば仕事にすることができることを、認識して頂きたい。ちなみに、自宅の家賃を全て経費にしたりはできません。
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