ポイントを使用したとき・付与したときの会計処理をわかりやすく解説

クレジットカードやAmazonなどのECサイト、飛行機を使用した際などに貯まるマイルなど、いろんな場面で「ポイント」が貯まります。こうして貯まったポイントを使って、商品の仕入れや備品の購入をしたときはきちんと会計処理を行う必要があります。また、ポイントを付与した側も同様です。
この記事では、ポイントを使って仕入れや販売をした際の会計処理と2021年からの新収益認識基準について解説します。
目次
【買手側】ポイントを使用したときの会計処理
ポイントについて個別の会計処理の方法は定められていません。そのため、会社それぞれのルールと、一般的に使用されている方法に沿って会計処理することになります。
ポイントを使用した場合は、購入代金が減額されることからポイント使用分についての会計処理も必要になります。
会計処理は、ポイントの性格をどう見るかにより、下記いずれかの方法で行います。どちらの方法を選択しても、最終的な利益や納める税額には影響しません。
以下よりそれぞれの会計処理について、「事務所に設置するテレビを5万円で購入する」という例をもとに解説いたします。便宜上、消費税は考慮しないものとします。
「収入」とみる場合
ポイントの性格を「収入」と捉え、ポイントを使用したときは「雑収入」として処理します。
ちなみに4万円分を現金ではなくクレジットカードや後払いで購入した場合、勘定科目は「現金」の代わりに「未払金」を使用します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
消耗品費 | 50,000円 | 現金 | 40,000円 |
雑収入 | 10,000円 |
金額のすべてをポイントで支払った場合は、ポイントの全額を「雑収入」とします。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
消耗品費 | 50,000円 | 雑収入 | 50,000円 |
「値引き」とみる場合
ポイントの性格を「値引き」と捉え、ポイントを使用したときは購入代金を減額する処理をします。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
消耗品費 | 40,000円 | 現金 | 40,000円 |
テレビが事務所用ではなく、仕入れだった場合は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仕入高 | 50,000円 | 買掛金 | 40,000円 |
仕入値引 | 10,000円 |
ポイントを購入してから品物を買ったとき
これまでの説明では、ポイントを元々保有しているものとしていました。これは、毎回の買い物に応じて、ポイントが自動的に貯まっていた、というような場合です。
一方で、先にポイントを購入してから商品を買う、というような場合には、購入したポイントはひとまず資産として計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仮払金 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
このときポイントは「仮払金」として、借方に計上します。そして後に買い物などでポイントを使用したとき、「仮払金」として貸方に計上します。
先ほどのテレビを購入する例を基に考えると、ポイント使用時の仕訳は、以下のとおりです。「ポイントという資産が減少する」とみて貸方に「仮払金」を計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
消耗品費 | 50,000円 | 仮払金 | 50,000円 |
会社のポイントを個人で使用したとき
会社の経費を支払う際に付与されたポイントは、会社のものです。会社側が「経費支払時には、会社名義のポイントカードを用いる」などの特定のルールを定めている場合、経費支払時に個人のポイントカードを用いるべきではありません。
よって、ポイントを使うのがたとえ社長であったとしても、会社のルールに反すれば懲戒処分や刑事罰(業務上横領罪等)の対象となる可能性があります。
ただし実務上は、ほとんどの会社において、会社経費を立替払いした個人が取得したマイルやポイントの使用に関与していないのではないでしょうか。
また、違法性が生じない状況であっても、税務上はリスクがある点には注意が必要です。会社経費を立替払いした個人が取得したマイルやポイントは、会社からの現物給付として「給与所得」とみなされる可能性があるからです。
給与所得とみなされる可能性のある例
例えば、週に1回の頻度で博多へ出張に行く必要があり、その都度交通費を立替え、マイルは自分のものにしているとします。
これを1年間にわたって行うとします。羽田〜福岡間の移動だとすると、ある航空会社で貯まるマイルは、1回あたり800マイル程度です。
すると、1年間で貯まるマイルは「800マイル × 2(往復) × 4(月に4回) × 12(1年間) = 76800マイル」にも及びます。これはハイシーズンの北米に、エコノミークラスで行ける換算になります
通常ハイシーズンにロサンゼルスなどに行こうとすれば、航空券代だけで10万円程度はかかってしまいます。これほどの金額のメリットを受けていれば、10万円程度を会社から「現物給付」されたとみなされる可能性が充分にあります。
ただし、これはあくまで会計上・税務上の原則論であり、余程の金額でない限り、会社経費を立替払いした個人が取得したマイルやポイントを現物給付として税務署から指摘されることはあまりないのが現状です。
個人のポイントを会社で使用したとき
個人のポイントを用いて会社の消耗品や備品を購入した場合は、通常の「立替え」と同じ考え方をします。つまり、一般的な経費精算と同様の処理になるということです。当然、立替えたことの証拠として、レシートや領収証等を保管しておく必要があります。
また、所属する会社のルールによっては、立替えを行えないこともあるので、事前に確認しましょう。
「キャッシュバック」の場合
ポイント付与に似たサービスに、「キャッシュバック」があります。購入時に、購入代金の大きさに応じて、返金や値引きを受けるというサービスです。
会社としては、このキャッシュバックの会計処理は、通常「雑収入」として計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | XX円 | 雑収入 | XX円 |
なお、仕入れに対して行われた値引きやキャッシュバックは、「割引・割戻・値引」のいずれかの処理になるので、混同しないように注意しましょう。
また、個人としては、キャッシュバックで返ってきたお金は、「一時所得」または「雑所得」のいずれかになり、それぞれの所得に応じた控除額を超えた金額が課税対象になります。事業用の支出に伴って受けるキャッシュバックは、事業所得とみなされます。
【売手側】ポイントが使用されたときの会計処理
ポイントが使用された場合は販売代金が減額されることから、ポイント使用分を費用として処理します。
会計処理は、ポイントの性格をどう見るかにより、下記いずれかの方法で行います。どちらの方法を選択しても、最終的な利益や納める税額には影響しません。
以下よりそれぞれの会計処理について、5万円の商品を販売するときに1万円分のポイント使用があった場合を例として解説していきます。なお、消費税は考慮しないものとします。
「売上値引き」とみる場合
ポイントを値引きと考えた場合は、ポイント使用分を「売上値引」として計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 40,000円 | 売上 | 50,000円 |
売上値引 | 10,000円 |
「販売促進費」とみる場合
ポイントの付与は、将来の販売促進と同様の効果を持つと考え、ポイントが使用された時は、「販売促進費」として処理します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 40,000円 | 売上 | 50,000円 |
販売促進費 | 10,000円 |
決算時には引当金を計上する
ポイントは、商品の販売という事実に起因して発生し、将来使用されたときに費用が発生するため、決算時にはポイント引当金として負債計上することになります。
すなわち、顧客へ付与したポイントのうち未使用分について、以下の要件にすべて当てはまる場合にポイント引当金として計上します。引当金とは、将来の支出や損失に備えて事前に準備しておく見積もりの金額のことです。
- 将来の特定の費用または損失である
- その発生が当期以前の事象に起因している
- 発生の可能性が高い
- その金額を合理的に見積もることができる
ポイント引当金は、付与したポイントの使用見込率を、過去のポイント使用実績率などから算定します。
そのため、算定の際にはポイントの使用実績率などの基礎データを整備しておくことが必要です。ポイントに有効期限がある場合は、その点も加味して算定しましょう。会社が採用しているポイント制度によって算定方法に違いがありますが、一般的には以下の式で算定することができます。
ポイント引当金 = ポイント未使用残高 × (1 – 失効率) × 1ポイントあたりの単価(※)
※1ポイントあたりの単価は、販売価格ベースで算出する方法と、原価ベースで算出する方法があります。
会計処理は、ポイントの使用見込分だけを引当金として計上するため、仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
ポイント引当金繰入額 | 80 | ポイント引当金 | 80 |
なお、税法では債務確定主義を採用しているため、損金として認められるにはその債務が確定していなければなりません。
ポイントは、付与しても全てが使用されるかが不明であること、有効期限があることなどの観点から、債務が確定しているとは言い切れません。そのため、会計上では上記のように処理しますが、税務上ではポイントを付与した時点での損金算入ができないのです。
新収益認識基準での考え方
2021年4月1日から、収益認識に関する会計基準(以下、新収益認識基準)が適用されます。
従来の会計処理では、付与したポイントの未使用分をポイント引当金として処理をしていましたが、新収益認識基準ではポイントを「契約負債」として繰り延べる処理となるため、引当金の処理は行いません。
新収益認識基準では、売上を以下の5つのステップで計上する必要があります。
- 契約の識別
- 履行義務の識別
- 取引価格の算定
- 履行義務への取引価格の配分
- 履行義務の充足による収益の認識
以下の具体例を基に、それぞれのステップでどのようなことを行うのかを、詳しく解説していきます。
【具体例:1万円の商品に対して100ポイント(1P=1円)を付与する場合】
ステップ1.契約の識別
まずは、どのようなサービスや商品を売買するのかを確認します。
ステップ2.履行義務の識別
その契約の中で、どのようなサービスや商品がいくつ購入者へ提供されるのかを確認します。ポイントの付与も履行義務の識別が必要になるため、具体例の場合は、履行義務が「商品の販売」「付与したポイントを使用した際の値引き等の提供」の2つになります。
ポイント付与の履行義務は「ポイントを付与すること」ではないため注意しましょう。
ステップ3.取引価格の算定
その契約をいくらで販売するのかを算定します。売買契約書等に明記してある金額を確認しましょう。具体例の場合は、販売価格の1万円が取引価格となります。
ステップ4.履行義務への取引価格の配分
ステップ3で決定した取引価格を、ステップ2で識別した履行義務ごとに、それぞれの独立販売価格の比率に基づき配分します。
具体例ではポイントを付与しているので、取引価格である1万円を、商品の価値とポイントの価値に按分する必要があります。計算式は以下のとおりです。
商品:1万円 × 1万円 ÷ (1万円 + 100円) = 9901円
ポイント:1万円 × 100円 ÷ (1万円 + 100円) = 99円
この時点で適切な配分が行われていないと、正確な仕訳ができなくなるので注意しましょう。
ステップ5.履行義務の充足による収益の認識
ステップ2で識別した履行義務が充足されたときに、収益を認識します。
具体例だと、「商品の販売」という履行義務のみが充足されているため、商品の価値である9901円の収益を認識します。ポイントは顧客が使用してはじめて履行義務が充足されるため、商品の販売時点では収益の認識は行いません。
つまり、商品は1万円で販売しましたが、収益として認識されるのは商品に配分された9901円だけということになります。
新収益認識基準による会計処理方法
これまでの5つのステップを踏まえて、具体例を基にした会計処理は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 10,000円 | 売上 | 9,901円 |
契約負債 | 99円 |
商品に配分された9901円は売上高として計上し、収益として認識しないポイントの部分は、将来使用される見込みがあるため「契約負債」として計上します。
ポイントが使用された際には履行義務が充足されるので収益として認識し、以下のように使用された分を売上高として計上します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
契約負債 | 99円 | 売上 | 99円 |
また、ポイントに使用期限が設けてある場合は、ポイントが期限内に使用されずに失効することもあります。その場合は契約負債が消滅し、その時点で「収益の認識」が行われるので、失効したポイントも使用時の会計処理と同様「売上」で処理しましょう。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
契約負債 | 99 | 売上 | 99円 |
「キャッシュバック」の場合
キャッシュバックを行った場合は、ポイントが使用されたときと同様に「売上値引」または「販売促進費」で処理します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 49,500円 | 売上 | 50,000円 |
売上値引 または 販売促進費 | 500円 |
おわりに
近年、決済時にポイントが付与されるというサービスが増えてきているため、付与されたポイントを使用して消耗品や備品などを購入するというケースも増えていることでしょう。
今回解説したポイントの会計処理の方法だけでなく、会社ごとにポイント使用時のルールをきちんと定めておくことが重要です。
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