海外の法人税と日本の法人税はどう違う?租税回避国「タックスヘイブン」とは

日本の法人税率は約30%と、OECD加盟国や近隣アジアと比較すると、高い法人税率となっています。一方で、0%~20%未満と著しく法人税率が低い国もあり、これらの国を「タックスヘイブン」といいます。
米国や日本などの、税率が高い国にある企業や資産家などは、これらのタックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、資金をそちらに移して自国での法人税や所得税などの税金の納税額を減らすという(租税回避)行為を行っています。日本ではこれを問題視しており、「タックスヘイブン対策税制」という制度が設けられています。
このページでは、日本と海外の法人税の違い、タックスヘイブンとタックスヘイブン対策税制について解説いたします。
目次
日本の法人税のしくみ
タックスヘイブンについて理解するために、まずは日本の法人税について理解を深めましょう。
一般的には、法人にかかる税金を「法人税」と一括りで呼ぶことが多いですが、厳密には「法人税」「法人住民税」「法人事業税」の3項目を総称して「法人税等」といいます。
法人税
法人の所得に応じて課税されます。個人でいう所得税にあたるものです。
法人住民税
法人税に連動して課税される「法人税割」と法人税に連動せず、資本金や従業員数などによって課税される「均等割」の2つから構成されています。
法人事業税
法人の所得に応じて課税されます(「所得割」)。資本金が1億円を超える法人に対しては、付加価値を課税標準とする「付加価値割」、資本等の金額を課税標準とする「資本割」の2つから構成される「外形標準課税」が課されます。
これらは、「表面税率」といい、決算申告の際に用います。
法人税率と法定実効税率の違い
法人税などの実質的な納付額や負担率を「法定実効税率」といいます。一般にメディアなので法人税といわれている税率は、こちらを指していることが大半です。
なぜ、法定実効税率があるかというと、法人事業税の存在が大きく関わっています。法人事業税は損金算入が認められており、結果として表面税率では最終的な納付額を算出することができない のです。そのため、法定実効税率を用いて、実際の納税額を算出することになります。
法定実効税率は以下の計算式で求められます。
法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税) + 事業税率 / (1 + 事業税率) = 法定実効税率
海外の法人税の一覧

ここまで、日本の法人税について紹介しましたが、一方で海外の法人税はどのようになっているのでしょうか。この記事のテーマであるタックスヘイブンを知る上で、この比較はとても重要です。
各国の法人税については、OECD がまとめているものがあります。まずは、税率が高い国から見ていきましょう。
国名 | 結合法人所得税率(%) |
---|---|
フランス | 34.43 |
ポルトガル | 31.50 |
オーストラリア | 30.00 |
メキシコ | 30.00 |
ドイツ | 29.83 |
日本 | 29.74 |
ベルギー | 29.58 |
ギリシャ | 29.00 |
ニュージーランド | 28.00 |
イタリア | 27.81 |
韓国 | 27.50 |
カナダ | 26.80 |
ルクセンブルク | 26.01 |
アメリカ | 25.84 |
オランダ | 25.00 |
スペイン | 25.00 |
オーストリア | 25.00 |
チリ | 25.00 |
参考:OECD TAX DATABASE
現在、世界で一番税率が高いのはフランスです。以前はアメリカがトップでしたが、産業の国内回帰を図るために法人税率を低くしました。日本は約30%で、世界的に見てもと高い税率であることがわかります。
一方で、法人税率が低い国々は以下のとおりです。
国名 | 結合法人所得税率(%) |
---|---|
ハンガリー | 9 |
アイルランド | 12.5 |
イギリス | 19 |
ポーランド | 19 |
スロベニア | 19 |
チェコ | 19 |
参考:OECD TAX DATABASE
一番低いハンガリーで9%で、フランスと4倍近くの差があります。このように、どこに法人を作るかで法人税の負担が大きく変わってしまうのです。そして、これを利用して行うのが「租税回避」です。
「租税回避国(タックスヘイブン)」とは
租税回避の動きがあるのは、日本だけではありません。各国で法人税負担を軽減しようという企業があり、それらの企業が税率の低い国へ本社などを移します。このように、法人税の低さを理由に海外から企業が集まる国や地域を「租税回避国(タックスヘイブン)」と呼ぶようになりました。
タックスヘイブンには、法人税率が低いという特徴以外に、金融に関する秘密を守る法律があったり、行政機関の透明性がかけているという特徴もあります。
タックスヘイブンに企業が移ることで、国が適切に課税することができないことが懸念されます。また、その結果として国民の税負担が重くなる可能性もあるのです。
節税・脱税・租税回避の違い
そもそも租税回避は、節税や脱税とどう異なるのでしょうか。
節税とは、合法的に税の負担を軽減させるのに対し、脱税は違法な行為により税の負担を軽減する行為のことで、両者には決定的な違いがあります。
これに対して、租税回避はどういう位置付けになるかというと、法律的には違反ではありませんが、その手法が常識的ではないため、一般的にはグレーといわれています。
たとえば、企業は通常ビジネスをメインに行なっている本国に本社を置きますが、租税回避を行う場合は、本社をビジネスを行なっている場所とは関係なく、法人税の負担が少ない国に置きます。これが、租税回避をグレーという所以です。
租税回避を防ぐための「タックスヘイブン対策税制」
日本では、税金に対して「租税法律主義」というスタンスを取っています。これは、法律で税の徴収について定められていないことについては、課税の対象にならないことを意味します。租税回避も、法律で規制が定められていなかったときは、追徴課税のような処置を行うことができませんでした。
このような事態を防ぐために、1978年に「タックスヘイブン対策税制」が導入されました。タックスヘイブン対策税制とは、タックスヘイブンに流入している税金を国内で課税できるようにしようという制度です。
そして、2017年度の税制改正では「タックスヘイブン対策税制」が、より課税の公平性が保たれるような内容に変更されました。
おわりに
アメリカではすでに法人税率が引き下げられたように、フランスでも税率の引き下げの動きがあり、減税競争が激しくなっています。
このため日本でも、法人税率の引き下げが段階的に実行されていて、27%台前半までに下げる案などがあるようです。
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