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「安い日本」を変えるのに賃上げ税制では不十分 民間税調、税制改正大綱を斬る

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「安い日本」を変えるのに賃上げ税制では不十分 民間税調、税制改正大綱を斬る
岸田文雄首相(首相官邸YouTubeチャンネルより https://www.youtube.com/watch?v=rC0hJXSihQ8&list=PL8tOpgyIpIV2KcF8OymIk_cD5E4Im_fCz&index=2)

税法や経済学の専門家などでつくる民間税制調査会(民間税調)は12月下旬、2022年度の税制改正大綱を総点検するシンポジウムを開いた。毎年恒例のシンポジウムで、今年は大綱の柱の賃上げ税制にクローズアップし、なぜ日本の賃金が上がらないのか専門家が意見を交わした。(ライター・国分瑠衣子)

●「業界別の最低賃金設定」が話題に

民間税調は租税法の第一人者で、前青山学院大学長の三木義一氏や経済学を専門にする大学教授などでつくる。「日本の税制にもの申す組織」として税制のおかしな点や話題になったニュースについてYouTubeやサイトで発信している。難しい上にあまり知られていない税について興味を持ってほしいという狙いだ。

今回のシンポジウムでクローズアップされたのが、2022年度の税制改正大綱の柱である賃上げ税制だ。従業員の賃上げに積極的な企業は法人税の控除率を優遇する。大企業では現行の15%を最大30%、中小企業では最大40%に引き上げるのでかなり大きい優遇策だ。

しかし、民間税調は賃上げ税制で恩恵を受ける企業は限定的とみる。「そもそも前提として税金を払っていないと控除は受けられない。日本はコロナ前でも赤字法人が6割もあるのに、税金というインセンティブでいいのだろうか」(青木丈・香川大学教授)。

実際に賃上げが実現する策として、民間税調のメンバーで元参議院議員の峰崎直樹氏は独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の濱口桂一郎研究所長による 「情報労連リポート」の寄稿記事を紹介した。

濱口氏の寄稿によると、「安い日本」から転換するには個別企業の枠を越えて、産業別に労働組合が団体交渉をして、ある産業の中で働く労働者の労働の価格の最低額を決めることが解決の筋道になると提言している。

産業別に労働の価格の最低額を決めることで、その賃金が払えないような企業が低価格で商品やサービスを販売することを不可能にする。それなりの高価格での商品やサービスを消費者に受け入れてもらうという筋道だ。日本以外の先進国では産業別労働組合や産業別団体交渉は一般的だという。

事業者が協定して価格を決めるのはカルテルで独禁法違反になるが、濱口氏は寄稿の中で「労働組合が『合法的なカルテル』だからこそできる」と説明する。そして政府の賃上げ要求と産業別の最低賃金制度を組み合わせて、バーチャルな産業別賃金交渉の場をつくることが方法の一つとしている。賃上げを要求する土俵を個別企業から業界全体に変え、政労使で話し合うことが求められていると結論づけている。

峰崎氏は「個別企業の枠を超えて産業別の賃金闘争に引き上げないと賃上げは実現しない。安倍、菅政権で実現しなかったことを岸田政権で本気で進める必要がある」と話した。

●「企業の内部留保が増えるのは賃下げも影響している」

なぜ日本の賃金が上がらないのか。法政大学の水野和夫教授(経済学)は、1997年から24年間にわたり賃金が下がり続けている実態を紹介した。「戦後2番目に長い景気回復のアベノミクスでも賃金や生活水準が下がり続けている。景気が回復すれば賃金が上がるという期待はとっくになくなっている」と話した。

水野教授の論考では、1980年代から不動産など実物に投資する「リアルエコノミー」が伸びず、資本家が重視する企業の内部留保など「シンボルエコノミー」が拡大している。「企業の内部留保が増えるのは賃下げで労働生産性基準を無視していることも一因だ」と分析する。また、日本はリアルエコノミーである法人税や個人所得税、消費税には課税しているが、企業の内部留保や相続などシンボルエコノミーにほとんど課税せず、実態とかけ離れている税制の問題点も挙げた。

明治大学公共政策大学院の田中秀明教授は「日本は、北欧のように失業しても面倒を見てくれない。だから賃金が下がってもいいから職は守ってほしいという思考になるのでは」と指摘する。その上で「アメリカやイギリスの企業も日本と同じでROE(自己資本利益率)が下がっているが、一方で賃金は上がっている。この違いは何か、日本の賃金上昇を妨げている一番の要因は何かを診断しなければいけないのでは」と問題提起した。

この問いに対し水野教授は「日本は労働人口が減り、潜在成長率が低いがアメリカは人口が増えている。また、日本はROEの構成要素の1つである売上高純利益率が極端に低い。売上高純利益率が低いのは日本が製造業中心の供給の国だから。アメリカやイギリスは消費の国なのでこの差はいかんともしがたい」と説明し、潜在的な成長率が低くなっていることが主な要因とした。経済産業省が2014年にまとめた「伊藤レポート」は、日本企業のROEの目標水準を8%としたがコロナ禍で今は5%に落ちている。国際標準まではとても実現できないとして、伊藤レポートは廃止すべきと指摘した。

シンポジウムでは賃上げ税制以外にも、固定資産税や金融所得課税についても意見が交わされた。また今後、民間税調が政治家との意見交換会なども視野に、政治的影響力を強めることを確認した。

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