ホンダと日産で話題の経営統合。「株式移転」をすると実際どんな影響がある?
税金・お金

※以下の記事は2月3日現在の情報です。最新の情報は各ニュースサイトなどでご確認ください
12月23日、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)と日産自動車株式会社(以下、日産自動車)が経営統合の協議入りを発表した。経営統合後は、共同株式移転により両社の親会社となる共同持株会社を設立。ホンダと日産自動車は共同持株会社の完全子会社となる予定だ。
ホンダと日産自動車は2026年7月末~8月に上場を廃止し、2026年8月に株式移転を予定している。なお、共同持株会社の代表取締役社長は、ホンダが指名する取締役の中から選定するという。
今回、ホンダと日産自動車は共同持株会社の設立による「経営統合」を選んだが、「合併」とはどのように違うのだろうか。
●経営統合と合併の違いは?
経営統合には大きく、新設した持株会社が親会社となる「株式移転」と、各社がそれぞれ親会社・子会社となる際の「株式交換」という方法がある。
この2つの方法の違いは、新設会社に株式を取得させるか、既存の会社に株式を取得させるかという点だ。どちらの場合も、親会社が意思決定を行い、子会社化した企業は存続し、運営を続けることになる。
一方で合併を選択した場合は、統合された会社の法人格はなくなる。合併後は1社または新設会社が運営と意思決定を行う。
経営統合や合併などの話題は、いずれのビジネスパーソンにも他人事ではないだろう。
では今回のように、株式移転による経営統合を行った場合、会社や従業員にはどのような影響があるのだろうか。田中将太郎税理士に聞いた。
●「株式移転」はメリットが多い一方、シナジー創出の面ではデメリットも
ーー株式移転による経営統合は、株式交換や合併と比較して、会社や従業員にどのような影響があるのでしょうか。
「『株式移転』の場合は、合併のように会社そのものが消滅せず、持ち株会社の下に各事業会社が存続するため、ブランド、社名、社歴、取引実績、許認可などを維持しやすいというメリットがあります。
また、『吸収合併』や『株式交換』では、存続会社・消滅会社、親会社・子会社のような上下関係が生まれますが、株式移転では、上下関係の差異が顕在化しにくいというメリットもあります。
ホンダや日産自動車のように、日本を代表する企業同士の統合では、企業同士の対等な立場であることを示しやすい『株式移転』は、株式交換や合併よりも利用しやすい手段と考えられます。
株式移転の場合、各会社の人事・給与制度、福利厚生などが統合されずに残る場合があるため、急激な制度変更や雇用契約の引継ぎが必要になる合併よりも、従業員にとって負担感は少ないでしょう。
一方で会社としては、株式移転は、合併などと比べて、シナジー創出に時間がかかりやすいというデメリットがあります。合併のように経営が一体化されるわけではなく、グループ各社が独立した法人として残るため、システム統合や人事制度の一本化などは、スピード感に欠ける場合があります。
また、従来の企業風土・組織体制がそのまま残ることで、部門横断的な改革に時間を要することもあります。そして、重複業務や間接部門が残りやすいため、結果的に間接部門が増えてしまい、コストダウンが思うように進まない懸念もあります。」
●既存の株式は新設される持株会社の株式に交換される可能性が高い
ーー新設される持株会社が各社の株式を100%取得するそうですが、ホンダと日産自動車はそれぞれ従業員持株会があります。従業員が保有している持株はどのような扱いになるのでしょうか。
「既存の株式が、新設される持株会社の株式に交換されるか、あるいは、一定の対価(現金など)で処理されることが考えられます。しかし、ホンダと日産自動車のように上場会社同士の統合の場合は、現金などで清算されることは稀であり、新会社の株式に交換・割り当てられるのが一般的です。
つまり、従業員持株会が保有するホンダ、日産自動車の株式は、新設の持株会社の株式と交換することになるでしょう。たとえば、ホンダ株1株に対して新会社株1.5株、日産自動車株1株に対して新会社株0.8株のように、一定の交換比率に基づいて株式移転がなされます。
この交換比率は、ホンダと日産自動車の時価総額等をベースに決定されます。現状では、ホンダの時価総額は、日産よりも数倍大きいため、ホンダ株により多くの新設の持株会社の株式が割り当てられると考えられます。
これは、従業員持株会だけでなく、ホンダと日産自動車の各株主においても同様の扱いとなります。」
【取材協力税理士】
田中 将太郎(たなか・しょうたろう) 税理士・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業後、シカゴ大学ビジネススクールでMBAを取得。2010年に公認会計士試験に合格し、米系金融機関などへの国際監査や国際会計基準(IFRS)の導入アドバイザリーに従事。 その後、経営戦略コンサルタントとして幅広い業界の企業に対して経営戦略、マーケティング戦略、M&A戦略の策定を支援。
東京都および北海道札幌市に田中将太郎公認会計士・税理士事務所および田中国際会計事務所を設立。税務申告、財務諸表監査、記帳代行業務に加え、スタートアップ・ベンチャー向けの創業支援や上場準備も支援。 海外進出支援の強みも持つ。
事務所名:
田中将太郎公認会計士・税理士事務所
株式会社田中国際会計事務所
事務所URL:https://shotaro-tanaka.com/