トヨタや日産などの輸出大企業は消費税ゼロ? 輸出免税のカラクリを税理士が解説
税金・お金

物価高騰が続く中、国民の負担は増す一方だ――。
野党が物価高対策として「消費税の減税」を政府に求める中、政府与党からは具体的な策が見えてこない。
一方で、経団連は昨年10月に公表した「令和7年度税制改正に関する提言」において、「中長期的な視点からは、その(消費税の)引上げは有力な選択肢の1つ」と指摘。つまり、消費税増税を容認するスタンスを示している。
その理由として「経団連に所属する大企業は、消費税増税の影響を受けないから」と、言われていることをご存知だろうか。
全国商工新聞によると、2023年度、国は輸出大企業20社に対して、2兆1803億円の消費税を還付したと報じられている。円安の影響により対前年比で3000億円も増加したという。この輸出大企業20社には、トヨタ自動車や本田技研工業、日産自動車、マツダなどの大企業が名を連ねている。
消費税は、売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を差し引いて計算する。ただし、日本企業が海外へ商品を輸出した場合は消費税を受け取らないため、仕入れにかかった消費税が還付される。このしくみを「輸出取引の免税」といい、「輸出免税」とも言われている。
そのため輸出企業は、「消費税還付の恩恵を受けている」と言われることも多いのだが、本当なのだろうか。佐藤美香税理士に聞いた。
●輸出企業は消費税還付の恩恵を受けている?税理士の見解は・・・
ーー「輸出企業は消費税還付の恩恵を受けている」と言われることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
「消費税の納付税額は、売上時に受け取った消費税から、仕入時・経費支払時に支払った消費税を差し引いて計算します。
・消費税の納付税額=売上に係る消費税額-仕入に係る消費税額
輸出免税取引については、売上時の消費税が0%であるため、売上税額は0円となります。
一方で、その輸出免税取引を行うために要した国内仕入れ、国内での経費については仕入に係る消費税額として控除することができます。
そのため、輸出免税取引における仕入の大半を国内で調達している企業などでは、消費税の申告をすることで消費税が還付される可能性があります。
たとえば、輸出売上が100万円(うち国外企業から預かった消費税額は0円)、輸出取引に要した仕入・経費が77万円(うち国内企業に支払った消費税額は7万円)の場合、納付税額は0円ー7万円=▲7万円となります。よって消費税の申告を行うことにより、消費税の還付を受けることができる可能性があります。
消費税は日本国内の消費に対して課税される税金です。そもそも、輸出企業は売上の際に消費税を預かっていませんので、納付の必要はなく、国内で消費税は支払っておりますので、その精算の結果が還付となります。
日本国内で切り取ると、消費に対して課税される消費税の性質上、輸出企業は還付を受けることになりますが、輸出された国では販売された際に日本の消費税に類似する税金が課税されている可能性もあると思いますので、一概に恩恵を受けているとは言えないと思います。
●もし消費税が増税されれば、輸出企業の還付税額は増えることに
ーー消費税増税により、国内取引を主とする企業、輸出業を主とする企業に、それぞれどのような影響があるのでしょうか。
「国内取引を主とする企業は、国内での売上に係る消費税額、仕入・経費に係る消費税額が共に増えます。そのため、税率の増加に伴い、企業全体として納税額が増えることが想定されます。
決算時の納付税額が一定額以上となると、翌期、消費税の中間納税が発生する、すでに中間納税がある場合はその回数が増える、という可能性もあります。
輸出業を主とする企業は、売上に係る消費税額は0円ですので、仕入・経費に係る消費税額のみが増えることとなり、消費税の還付税額が増えることが想定されます。」
●消費税の「還付加算金」は課税の対象となる
ーー消費税還付の際の「還付加算金」は、輸出企業への優遇となるのでしょうか。
「還付加算金は、税務署長等が還付金等を還付し、所定の期間の日数に応じ、その金額に所定の割合を乗じて計算した金額を還付金等に加算するものであり、利息計算と同様の方法により計算するものです。
消費税においては、申告により還付税額が確定すると、その還付税額を基に還付加算金が計算されます。
なお還付加算金は、法人税上は益金(雑収入)となり、所得税法上は雑所得として課税の対象となります。
還付加算金は他の税金でも加算されます。また上記のとおり、法人税法上は課税所得となることから、輸出企業への優遇とは特段なっていないのではないかと考えます。」
【取材協力税理士】
佐藤 美香税理士
公務員を経て、都内税理士事務所に勤務。2015年からニューヨークの現地会計事務所にて法人及び個人の会計業務・税務に携わる。2018年帰国後は複数の都内税理士事務所にて、事業会社、医療法人、学校法人や外資系企業の会計業務・税務に広く関与。2021年に個人税理士事務所を開設。2024年にアセンディア税理士法人を設立。
「プロフェッショナルの力で、より良い世界を次世代へ」をミッションに、財務会計に関連するプロフェッショナルサービスを提供している。
事務所名 :アセンディア税理士法人
事務所URL:https://asendia-tax.jp/