スーパー銭湯は日本の安全保障で重要? 改正外為法の外資規制、謎の企業リストの意味 - 税理士ドットコム

税理士の無料紹介サービス24時間受付

05075861865

  1. 税理士ドットコム
  2. 税金・お金
  3. スーパー銭湯は日本の安全保障で重要? 改正外為法の外資規制、謎の企業リストの意味

スーパー銭湯は日本の安全保障で重要? 改正外為法の外資規制、謎の企業リストの意味

税金・お金

スーパー銭湯は日本の安全保障で重要? 改正外為法の外資規制、謎の企業リストの意味
Googleストリートビューより

改正外為法が6月7日に全面適用されました。今回の改正の中で特に注目されるのが、安全保障上重要な日本企業の株式を外国人投資家が持ち株比率で1%以上取得する場合、事前に届け出なくてはならないというものです。

同法の施行に伴い、国の安全を損なう恐れの高い企業として518社が5月8日に財務省から公表されました(あとで説明しますが、6月5日に変更)。しかし、どういうわけかデリバリーサービスの「出前館」、和歌山県を中心に展開するスーパーマーケットの「オークワ」、パソコン販売の「PCデポ」、住宅メーカーの「タマホーム」、スーパー銭湯を展開する「極楽湯ホールディングス」などおよそ安全保障とは関係ないような企業が含まれています。

今や外国人投資家による投資が株価を大きく左右する時代なので、この518社の株価にも少なからず影響があるかもしれません。政府はなぜこの518社を選んだのでしょうか。その背景について探りたいと思います。(ライター・メタルスライム)

●国の安全を損なう恐れの高い12業種518銘柄

今回の外為法改正で変わった内容は、主に次の3点になります。

①株式取得時の事前届出免除制度の導入
・一定の基準の遵守を前提に株式取得時の事前届出を免除
・事後報告、勧告・命令により、免除基準の遵守を担保

②事前届出対象の見直し
・届出対象となる閾値の引き下げ(10%から1%への引き下げ)
・株式取得以降に経営への影響力行使につながる行為の事前届出制の導入(役員への就任、事業の譲渡・廃止についての提案)

③国内外の行政機関との連携強化

①は規制を緩和する方向での改正なので問題はなく、③も行政機関間の連携強化なので特に影響はありません。問題となるのが、②の事前届出対象の見直しです。政府は、国の安全を損なう恐れの高い12のコア業種に属する518銘柄を指定し、重点的に審査をするとしています。

12のコア業種とは、①武器、②航空機、③宇宙関連、④原子力関係、⑤軍事転用可能な汎用品、⑥サイバーセキュリティ関連、⑦電力業、⑧ガス業、⑨通信業、⑩上下水道業、⑪鉄道業、⑫石油業になります。

⑤と⑥以外は、社会的インフラとして軍事戦略上も重要な業務なので、誰が見ても納得するものですが、⑤の軍事転用可能な汎用品と⑥のサイバーセキュリティ関連については、範囲が明確でなく、何が「汎用品」に該当するのか、サイバーセキュリティ関連とはどのような業務まで含まれるのかがわからないという問題があります。

●なぜ安全保障上重要な企業と思われない企業が含まれているか

国の安全を損なうおそれのある対内投資に対する規制は、2018年8月にアメリカで新法が成立し、2019年3月にはヨーロッパでEU新規則が成立しています。先進諸国の規制強化の動きを受けて、日本においても安全保障に係る技術が海外に流出することを防ぐ必要があるとして、外為法改正の動きとなりました。

外為法は、正確には、「外国為替及び外国貿易法」という法律ですが、その目的は、①対外取引の正常な発展、②我が国又は国際社会の平和及び安全の維持、③国際収支の均衡、④通貨の安定、⑤我が国経済の健全な発展に寄与することです。

これまでも安全保障上の理由から、輸出規制はされてきましたが、投資を通じて日本企業の持つ技術が外国企業などに流出すれば、安全保障を脅かすことになるため、②の「平和及び安全の維持」のために改正が行われたわけです。

日経新聞の記事によると、規制強化の流れの中で、安全保障上の重点審査企業として指定される企業が数十社にとどまると、その会社に焦点があたり、株価の下落などの弊害が発生するおそれがあるため、対象企業の選定作業が大詰めを迎えていた今春、経済団体や指定不可避の企業から、指定が避けられないのならば、指定数を増やして欲しいとの要望がなされたとあります。

指定企業が500社もあれば紛れるうえに何を基準に選ばれたのか曖昧で、関心は薄れるとの思惑があったとされています。

これが事実だとすれば、安全保障上重要な企業と思われない企業が多数含まれているのは、財務省が真に国家の安全保障上重要と考える企業をカモフラージュするために加えたということになります。

財務省は、指定した企業の選定基準や理由は「個別企業の秘密を漏らす懸念がある」として開示していませんが、これは指定企業に対して疑問が投げかけられることを想定し、予め準備していた答えでしょう。

政府がそれぞれの企業の技術内容まで詳細に知っているわけはなく、「定款の記載から機械的に抽出しただけ」としているので、企業の秘密を漏らす懸念などあるはずないからです。要は合理的に説明できないことがあるので、選定基準を公表できないということなのでしょう。

もっとも、財務省も全くルールなく恣意的に指定企業を選定するわけにはいかないので、一定の基準は示しています。それが、「外為法に基づく対内直接投資等の事前届出について財務省及び事業所管省庁が審査に際して考慮する要素 」です。その中に「国の安全の確保、公の秩序の維持若しくは公衆の安全の保護に係る技術若しくは情報が流出する、又はこれらの目的に反して利用される可能性」というのがあります。

●定款を確認してみた結果

そこで、「PCデポ」、「オークワ」、「タマホーム」、「出前館」、「グンゼ」、「リゾートトラスト」、「弁護士ドットコム」の定款を確認してみたところ、共通するのは、事業の目的に「情報処理」や「ソフトウエア開発」が含まれていることです。つまり、これらの企業は、コア業種の「サイバーセキュリティ関連」に含めていると考えられます。

その上で、「国の安全の確保、公の秩序の維持若しくは公衆の安全の保護に係る技術若しくは情報が流出する、又はこれらの目的に反して利用される可能性」があると判断したと思われます。

ただ、全国に展開している「セブン&アイ・ホールディングス」や「イオン」も目的に「情報処理」が含まれているのに518社の指定企業には含まれておらず、地方のスーパーマーケットである「オークワ」が指定されているのはどうしてなのか説明がつきません。オークワの担当者は「安全保障に関わる事業は手がけていない。事実に反するので財務省にリストからの削除を求める」としていることから、今後、その主張が認められるか注目されます。

その他にも、「指定された企業」と「指定されなかった企業」の選定基準が不明な企業がいくつもあるので、主な企業を業種別にピックアップしてみました。

【指定された主な企業】
①トヨタ自動車、本田技研工業、SUBARU、スズキ
②ソニー、日立製作所、東芝、富士電機、シャープ、NEC
③三井住友FG、みずほFG
④SOMPOHD
⑤大日本住友製薬
⑥丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事

【指定されなかった主な企業】
①日産自動車、三菱自動車、日野自動車、いすゞ自動車、マツダ
②パナソニック
③三菱UFJ FG
④東京海上ホールディングスとMS&ADインシュアランスグループHD
⑤武田薬品、ツムラ
⑥伊藤忠商事

●今後、どんな影響があるのか

財務省は、今回の法改正は、健全な投資を一層促進しつつ、国の安全等に関わる技術情報の流出や事業活動の喪失といった事態を防止することが目的であり、アクティビスト封じが狙いではないとしています 。

しかし、改正によって、海外投資家は、手続きが煩雑になることから、投資を控えることが予想され株価が下がる可能性があります。また、外国企業からの買収リスクは減る可能性がありますが、買収が減ることは企業価値の下落にも繋がる可能性があるので、必ずしも良いことばかりではありません。

したがって、国内の投資家は、指定された518社に投資する場合には慎重な対応が求められます。また、指定された518社は日本の安全保障上重要な企業であると国が認めたことになるので、投資は減る一方で、サイバー攻撃の対象になるリスクがあります。

今回の518社は、国が一方的に指定したものです。国家の安全保障上問題がある企業として指定するのであれば事前に対象企業に対して指定するこの是非について確認するなどの措置をとるべきだったと思います。

世界的企業で、多く技術を持つ「パナソニック」や「武田薬品」よりも「出前館」や「オークワ」の方が国家の安全保障上重点的に審査すべき企業というのは誰が見ても不自然です。財務省は、指定された企業からの問い合わせについては、少なくとも秘密を考慮する必要はないのだから、しっかりと説明すべきです。

時間的制約があるため、ある程度機械的に518社を指定したことはやむを得なかったとしても、一度決めたらその後変更してはならないという性格のものではないので、今後は指定された企業の意見も踏まえて、柔軟に見直しをしていくことが求められます。

実際、財務省では、疑問が呈された企業について、あわてて修正作業を行っているようであり、6月5日にリストが更新されています。それを見ると、本文で指摘した「タマホーム」、「リゾートトラスト」、「オークワ」はリストから外され、「日産自動車」、「三菱自動車」、「日野自動車」、「いすゞ自動車」、「マツダ」、「パナソニック」は追加になっています。

今回、財務省から指定された企業で、おかしいと思う場合には、確定される前に、指定の理由について財務省に説明を求めたり、削除を要請したりするなどの対応をしていくことが必要だと思います。

<参考資料>
外国為替及び外国貿易法の関連政省令・告⽰改正について(財務省)

外為法改正案についてのよくある質問

税金・お金の他のトピックスを見る

新着記事

もっと見る

公式アカウント

その日配信した記事やおすすめなニュースなどを、ツイッターなどでつぶやきます。

協力税理士募集中!

税理士ドットコムはコンテンツの執筆・編集・監修・寄稿などにご協力いただける方を募集しています。

募集概要を見る

ライター募集中!

税理士ドットコムはライターを募集しています。

募集概要を見る

「税理士ドットコム」を名乗る業者にご注意ください!